6話 今も好きな人 後編 (4)
「なっちゃん。さっき・・・仏前で私が言ったこと。本当は言おうか迷ってたの」
優美さんの言葉に救われたわたし。その優美さんの真意が掴めず、続きが気になった。
「なっちゃんは、うちに来るたんびに、やつれちゃってて、とても見ていられなかった。誠のこと、ずっと想っているんだって、分かってたよ。だから、なっちゃんも他の子みたいに忘れた方がいいのかなって思ったの・・・でも、それが正しいかは分からなかった」
わたしはすぐに首を振って、答えた。
「わたし!すごく感謝してます!すごくホッとして、気持ちが軽くなりました。ずっと辛くて、ひとりだと思ってたから」
「なっちゃん・・・。お礼を言うのはむしろ私の方かも。やっと前を向けたのは二人のおかげなんだから」
優美さんの言葉は尻すぼみになって、最後はよく聞き取れなかった。
「えっ?」
「・・・えっとね、なっちゃん。ひとりじゃないって話。私だけじゃなくて、矢上君だっているじゃない」
「矢上君も・・・」
「仲間は多い方がいいと思うのよねぇ。チーム“今も好きな人“。まずは、仲間を知るのってどうかな?」
「今も好きな人・・・。矢上君も・・・。分かりました、わたし、観に行ってみます」
優美さんの勢いに押し負けた気もする。だけど、不思議と嫌な感じはしなかった。考えれば考えるほど疑問が浮かんでくる。矢上君にとって、まこっちゃんはどんな存在なんだろう。なぜ野球を続けているんだろう。知りたいという好奇心が、不安を上回っていたんだ。
帰り道。行きと同じ畦道を、新品の自転車で走る。ペダルが驚くほど軽くて、スイスイと前に進むのが心地いい。
リトルシニアの球場はどこだろう。自転車で行けるかな。帰ったらすぐに調べよう。そんなふうに”先の予定”を考えてワクワクするなんて、いつ以来だろう。
あっ、出かける前にお母さんが話あるって言ってたんだった。それに、おばあちゃんにも報告しなきゃ。
「う~~ん、いそがしくなりそう」と独り言が漏れた。
自転車から眺める景色は行きと違っていた。数刻前の天気が嘘のように、どんよりとしていた雲はどこかへ消え、春の空が澄み渡っていた。長い一本道に出た時、背中を誰かに押されたような感覚があった。
「あっ、追い風だ」
わたしは数秒だけ全力で漕いでから両足をぱっと放した。心地よい風に、自転車ごと身を任せて道を滑っていく。
「そういえば、お腹すいたなぁ。ケーキだけじゃ、ぜんっぜん、足りない!」
誰に向けるのでもなくそう言った後、「ふふっ、何それ」と自分の言葉が可笑しくてつい笑ってしまった。
声を出して笑っていたので、もしかしたら誰かに笑われていたかもしれない。
でも、そんなのは些細な事だと思った。
前を見ると、田んぼ道はまっすぐに地平線まで伸びていて、遮るものは雲一つすらなかった。




