表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
藍の軌跡  作者: シャボン玉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/26

6話 今も好きな人 後編 (1)

 「なっちゃん、ケーキがあるからリビングに行こう」

 優美さんはわたしの背中をポンと優しく叩くと、立ち上がり、歩き出した。

 「なっちゃん、おいで」 「はい!」

 わたしも立ち上がり、もう一度だけ、まこっちゃんの遺影に振りむいた。


 ー行ってくるね、まこっちゃん。写真の中の彼は、コロコロと表情を変え、いまは笑って「おう」って言っているように見えた。


 そういえば、結局、言えなかったな。


 『まこっちゃん、ずっと大好きだったよ』


 覚悟を決めて来た今日。まこっちゃんのために用意したその最後の一言は、喉の奥に消えてしまった。

 優美さんのおかげで、もう、口にすることはないのかもしれない。

 行き場をなくしたわたしの告白は、そっと胸の奥に大切にしまうことにした。わたしは涙をハンカチで拭うと、軽い足取りで優美さんの背中を追いかけた。


 わたしと優美さんは、まこっちゃんの仏壇がある小さな部屋をあとにして、居間でくつろいでいた。

 ケーキのお皿が空になったころ、優美さんが改まったように口を開いた。

「あのね、なっちゃん。なっちゃんが中学生になったら話そうと思っていたことがあるの」

 その神妙な響きに胸が少しざわついた。

「チームメイトの同級生だった子がリトルシニアに入ったの。矢上真やがみ・まこと君っていうんだけどね」

 

 ーーまこと。心の中でその名をなぞる。わたしの世界では、たった一人しかいない名前だった。

 

「まこっちゃんと同じ名前・・・なんですね」

「うん。矢上君の方のまことは真実の真。苗字のやがみは弓矢の矢に、上下の上。それで矢上真」

 真実の真でまこと。そして矢上というのは珍しい苗字だと思った。学校やご近所さん、お客さんの名前を結構知ってるとは思うけど、この辺では聞いたことがない。

 ただ、わたしにとっては珍しい苗字よりも”まこと”という名前の方がだんぜん気になる事だった。

 まこっちゃんの誠に、矢上君の真。

 誠実と真実・・・何か、特別な重なりがある気がした。

「学校も同じだったんですか?」

「うん。小学校も同じ、クラスもずっと一緒だったのよ。家はそんなに近くないんだけどね、一番の仲良しだったのよ」


 一番の仲良し、親友を意味するその言葉に夏希の視線が写真立てに向けられた。


 何度も見させてもらった写真立てには、笑顔のまこっちゃんとチームメイトが写っている。試合で見せるまこっちゃんの笑顔は代名詞みたいなもの。自信に溢れていて、バッターとの対戦をゲームのように楽しんでいる。苦しいのをごまかすための笑顔ではない。才能に溢れた自信しかないかっこいい笑顔だった。そして、相手バッターを完璧におさえこむと、周りのチームメイトにその笑顔が伝染していった。そして、完勝後に撮ったのがこの一枚なんだと思う。

 まこっちゃんは誰の目にも明らかなチームの中心。もしわたしが女の子じゃなかったら、あの中に混ざりたかったと、いつも羨ましく思っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ