5話 今も好きな人 前編 (3)
【Side Story:出発直前】
「なつき。保泉さん家にこれ持っていきなさい」
贈り物用のバスケットに旬の果物を詰め込んだセット一式をなつきに手渡した。
「あ、ありがとう。でもこれ、一番たかいやつでしょ、いいの?」
驚きよりも少し強張った表情でなつきが言った。
「うん、いいよ。中学に入って初めて行くんでしょ」
「・・・・うん」
なつきは思いつめた顔で短く答えた。最近は何気ない一言でころころと表情を変えるなつき。無意識になつきを追い込んでしまってはいないか、胸が締め付けられる。
「あのね、なつき。帰ってきたら少し話をしたいの。いい?」
「うん、大丈夫だよ。帰った後でね」
理由も聞かず、夏希はすぐに承諾した。それがかえって不自然で、私の不安を煽る。
「ごめんね。出かける直前に。気を付けて行ってらっしゃい」
「うん。行ってくるね」
夏希は前かごにバスケットを慎重に入れると、細く、頼りない足で自転車を漕ぎ出した。漕ぎ出しがいつもフラフラしていて、見ていられない。
その後ろ姿が角を曲がって見えなくなるまで見送った後、嫌な胸騒ぎがした。今日は平静を装っているけど、最近のやつれ具合は尋常じゃない。
なんで分かってあげられなかったんだろうと父さんと二人後悔した。
冬休みで回復するなんて根拠のないことにすがってはいけなかった。
中学に入れば気持ちが切り替わるなんて、あるわけがない。むしろ、知らない子ばかりの環境で、不安にならないはずがないのに。
ほかの子も頑張っているからなんて、何もしない理由にならないのに。
お客さんの目があるから、噂になるのが嫌だからなんて、親として最低の理由なのに。
なんて私たちはバカなんだろう。
なつき・・・。
予約とってあるから帰ってきたらお父さんと一緒に相談しに行こう。
もうがんばらなくていいの。
もう無理しなくていいから。
もう悩まなくていいから。
ずっと学校休んでたっていいんだから。
それがわがままなんかじゃないって分かっているから。
なつき・・・。
お母さん、何だってするよ。
昔みたいに、元気ななつきに戻るまで。
いつも笑ってたなつきが・・・見たい。
バカなお母さんでごめんね。
なつき・・・やっと気づいたの。
世界でいちばん、大切で。
世界でいちばん、あなたを・・・




