4話 切れそうな糸 (4)
席についたその日、さっそく隣の男子がふと呟いた。
「お前、背高いな。男子よりデカくね?」
悪気のない一言だったかもしれない。でも、その一言が、夏希の胸を深く刺した。
廊下で迷っていたときは、先輩の女子生徒に声をかけられ、言いがかりのように絡まれた。
笑って受け流す余裕なんてなかった。ただ、怖くて、早くその場から消えたかった。
唯一、心の支えだったはずのレオレスも今季は開幕から8連敗と考えられる最悪の出だし。
応援しても、声が届かないような無力感だけが徐々に募っていった。
減ることなく、ずっと積み重なる辛さに夏希の心は限界に近づいていた。
苦しいよ・・・
何もしたくない・・・傷つきたくない・・・
もう、がっこうなんて行きたくない・・・・・
誰も・・・誰も助けてくれない・・・
わたしの声なんて・・・誰にも届かないんだ
誰も・・・わたしのことなんて理解できるわけない
誰も・・・
好きだった子が死んじゃった気持ちなんて分かるわけない!
わたしが中学に入学して、はじめの土曜日が来た。
ずっと前から最初の土曜日と決めていた。まこっちゃんに中学の制服姿を見せる日。
だけど、最初に決めた時には思っていなかったことがある。
「きょうが終わったら、もうぜんぶ忘れよう」
夏希のストレスは限界近くにあって、連日、頭痛と体のだるさが襲っていた。
夏希自身も限界を察して、最後にするつもりで保泉誠の家に自転車で向かっていた。
今日が終われば楽になれると思うと素直になれた。
はぁ・・・・はぁ・・・・。
さいていになってしまったじぶんをまこっちゃんに見せるわけにはいかないの。
まこっちゃんを大好きな気持ち、今も残ってる純粋な気持ち。それをすべて伝えて、さいごのお別れをする。
きっと来週には、違うじぶんになっているから。
だから、さいごだけは、さいごのお別れの時は、わたし史上最高の笑顔じゃないとダメなの。
できるよ。毎日、鏡で練習したんだから。きっとできるよ。がんばれ。
はぁ・・・・はぁ・・・・。
ちょっと、自転車乗っただけなのに、ペダルがすごく重くて息が切れる。
あの日から1年半。まこっちゃんとの繋がりが今日で途絶える。
さいごに笑顔を見せる。さいごに制服姿を見せる。さいごにわたしの想いを伝える。
だけど、それってぜんぶ、わたしのためなんかじゃない。
天国でいつまでも
まこっちゃんにとってのわたしが
真夏の向日葵のように
ありったけの元気で笑っていた
”なつ”でいるために。




