3話 逆風 (5)
帰り道、お母さんの運転する配達車の中で、わたしはさっき反射的に出てしまった言葉をだまって考えていた。
お母さんも無言で運転してて、気にしていないのか、ただ単に触れないでいるのかわからなかった。
車内にはラジオの音だけが響いていた。雑音交じりの音質の中、柔らかい調子の女性パーソナリティーが曲紹介をしている。
きついことをつい言ってしまうことは今までも何回かあった。
そのたびに哀れみをかけた顔をされ、頭から離れなくなる。
わたしだって、いまのままで良いなんて思っていない。でももう一歩踏み外したらわたしの嫌な部分100%を本気でぶつけてしまう。
いまはそこでギリギリ耐えている。
もし、本当にわたしが壊れてしまったら、まこっちゃんが好きだったわたしなんて、もうどこにもいない。
もう二度と会えないけれど、まこっちゃんにだけは嫌われたくない。
そして、自分のことを嫌いになりたくなんてない。
自分が好きだったころのわたし。ほんの数年前のわたし。
にごりのない純粋だったあの頃の自分。
悩みなんてなくて、いっつも笑っていたあの小さいころの自分。
彩を失ってしまった今だからこそ、気づいたんだ。
その純粋さ――その大切さを。それを知れたのに、
黒く塗り替えられて、なんとなく大人になっていく感覚が怖かった。
そんな大人は、おばあちゃんが言ってた“新しいわたし”なんかじゃない。そう信じたい。
たとえ、こんなボロボロだとしても、いまはまだ正しいんだと信じたい。
ラジオから流れてくるのは、英語の歌詞でどこか幼さを感じる女性シンガーの曲だった。そのせいか、なんとなくプロっぽい感じがしなかった。
believe in you ーーサビの一部だけが、かすかに聞きとれた。
英語の歌は学校で習っている英語とはまるで違った。独特で難しくて、特にテンポが一定じゃないから、どこまでが一文か分からず、聞き取れない。
雑音交じりの中、ほかにも「dream」「magic」「miracle」という単語だけが聞き取れた。
その単語と曲調をあわせて考えると、なんとなく“希望に満ちた歌”なんだろうな、って思った。
そんな歌が、将来の希望を失ったわたしとは真逆にいて、少し可笑しかった。
そして曲が終わり、次の曲を紹介する女性パーソナリティーの綺麗な声がこんなことを思わせた。
ーー歌っていたのは、いったいどんな人だったんだろう。何歳くらいの人だったんだろう。
その時、目を閉じて自然に浮かんできたのは、あの頃のわたしが少しだけ成長した姿だった。




