種を作るには
再び一人きりになった店内。
オルガは椅子に座ったまま、少しだけ目を閉じて息を整える。
「……セレンの言うとおり、呪いって気持ちが重たいんだよね。たぶん、そこの理解が足りてなかった」
「……うーん、やっぱり実践はちがうわ。うん、ほんと、ちがう」
言葉に出してみて、ようやく腑に落ちる。
生成本に書かれた文字も、配列も、力の注ぎ方も、たしかに大事。けれど、それだけじゃ駄目だった。
「もういっかいやってみよ。今度は、ちゃんと気持ちをこめて」
ぽつりと漏れた言葉に、誰も返す者はいない。
呪いを解く花。芽吹きかけて止まったあの一輪を思い返しながら、指先で生成本のページをそっと撫でる。
オルガは再びページをめくり、あの呪い花の項を開いた。
構成は間違っていない。呪文の配列も、力の配分も。
でも、どこか“表面的”だったのかもしれない。植物は正直だ。
オルガはそっと両手をかざし、気配を沈め、種を織るための術式を結び始めた。
言葉は、ささやくように。力は、押しつけるのではなく、染み込ませるように。
手の中で、小さな粒が形を取りはじめる。
前よりも淡い色。でも、どこか温かい。ほわりとした気配が、指のすきまに漂った。
「……うん。たぶん、これでいい」
そう呟いた瞬間、机の上の小皿に、ころん、と淡金の種が転がった。