寄生花の終焉
オルガが寄生花の主核を破壊し、帝都を覆っていた脅威を取り除いたのは、ほんの昨日のこと。
だがその代償は大きく、彼女はエルバの力を使い果たし、糸が切れたように倒れてしまった。
あれから丸一日。
ルーカスとレオニダスは、王宮の一室で眠り続ける少女を見守りながら、次なる国の行く末について話し合っていた。
「エストラーデ王国には詰問の書簡を送ると、アルデバラン殿下は仰っているが……決定的な証拠がない。
結局、かわされて終わりだろうな」
ルーカスが重々しく言葉を落とすと、
レオニダスも腕を組んで、深くうなずいた。
「そうですね。兵が動いたわけではなく、表向きは“セオドル個人の暴走”と、市民を利用した騒ぎに過ぎない。……追及は難しいでしょう」
王宮の一室に張り詰めた空気が満ちていた。
その静寂を破ったのは――
きゅるる……。
小鳥のさえずりのような音。
「……おなかすいた」
ベッドの上から聞こえたオルガの声に、ルーカスとレオニダスは同時に肩を落とし、思わず安堵の笑みをこぼした。
「お姫様、お目覚めですかな?」
「丸一日、眠りっぱなしだったぞ」
二人が近づくと、オルガはきょとんと目を瞬かせ、それからはっと上体を起こした。
「あ! マルタは? 寄生されたみんなは……みんな無事?!」
勢いよくレオニダスの胸倉をつかみかけるほど迫るオルガに、レオニダスは少し苦笑しながら答えた。
「安心しろ。寄生の浅い者から順に目を覚ましている。……マルタ嬢は少し時間がかかるだろうが、魔法師団の見解では命に別状はない。そのうち、きっと目を覚ます」
「……ほんとに?」
「ああ、間違いない」
その答えを聞くと、オルガはほっとしたように両手を胸の前でぎゅっと握りしめ、小さな吐息を漏らした。
「……よかった」
彼女の強張っていた肩から力が抜け、ベッドの上で小さく微笑む。
その笑顔を見て、ルーカスとレオニダスの胸にもようやく重い靄が晴れていった。
だが次の瞬間――
きゅるるる……。
さらに大きく、お腹が鳴った。
「…………」
「…………」
「……あはは」
オルガが顔を赤らめて笑い出し、ルーカスは堪えきれずに咳払いで誤魔化す。
レオニダスは肩を揺らして笑いながら、頭を軽く撫でた。
「まったく……帝国を救った英雄の第一声が“おなかすいた”とはな」
「だってほんとにお腹すいてるんだもん!」
オルガが笑う姿を見て、二人はほっと息をついた。
だが心の奥底では、同じ懸念を共有していた。
魔物の異常発生は止まっていない。
そして――“あの場所”を突き止めねばならない。
結局のところ、すべての重荷はあの少女にかかっている。
その小さな背に託された未来を、彼女一人に背負わせることしかできない――それが痛ましくて、悔しかった。
だが同時に、二人の胸には固い決意が芽生えていた。
命に代えても、あの笑顔だけは守り抜くと……。




