表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜  作者: ソニエッタ
先生がお花屋さん

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/94

光は根を枯らす

城内――封印結界で守られた、寄生花に侵された者たちの隔離室。


その重い扉が、突如として大きな音を立てて開かれた。


「えっ、オルガ? どうしたの、そんなに慌てて」


寄生者の生命維持を担っていた魔法師団員、セフォラが驚きの声を上げる。

だがオルガは返事もせず、一直線に奥のベッドへ向かった。


そこには、寄生花の最初の犠牲者――マルタが静かに横たわっている。


「……少し痩せちゃってる」


オルガがぽつりと呟くと、セフォラが沈んだ声で答えた。


「魔法で生命を保ってはいるけど、眠ったまま、何も口にできないから……」


その言葉に、オルガは一瞬だけ表情を歪めたが、視線はマルタから離さない。


「……セオドルの持ち物に、寄生花の主核があったの。それを壊した……だから、これで皆に寄生してる花を枯らせるはず……たぶん」


自分に言い聞かせるような声でそう告げると、オルガはセフォラの目をまっすぐに見た。


セフォラはわずかに目を見開き、そして頷いた。


オルガは深く息を吸い、マルタのこめかみに両手をかざした。そこは寄生花の根が脳を包み込むように張り巡らされている場所。


「……主核はもうない。あとは……私の力で枯らすだけ」


自分に言い聞かせるように低く呟き、エルバの力を解き放つ。薄緑の光が指先から広がり、見えない根へと染み込んでいく。


しばらくして、マルタの頭の奥から「パキッ」と小さな音が響いた。黒ずんだ細い蔓が額からうっすら浮かび上がり、瞬く間に萎れていく。


それはやがて砂のように崩れ、空気に溶けて消えた。




セフォラが驚きに息を呑む。


「……本当に……枯れていく……」


やがてすべての根が消え、マルタの表情は苦悶から解放され、穏やかな呼吸だけが残った。


オルガはそっと彼女の髪を撫でる。


「……もう大丈夫。これで、花はあなたを苦しめない」




マルタを救った後も、オルガは休むことなく次の寄生者へと向かった。眠り続ける寄生者たちの頭に両手をかざし、エルバの光を注ぎ込む。


根は次々と腐り、枯れ、消えていく。




「……次の人を」


セフォラの声に導かれ、また一人、また一人と救っていく。


額には汗が滲み、指先は痺れて感覚が薄れていった。


それでも、止まるという選択肢はなかった。




「これで最後の寄生花……」


花の根を断ち切った瞬間、オルガの膝がわずかに揺らぐ。


そのとき、扉が勢いよく開いた。




「オルガ!」


駆け込んできたのは、セフォラから連絡を受けて急いだレオニダスとルーカスだった。


二人の姿を見た瞬間、オルガの表情がふっと緩む。

安堵の笑みが浮かび、そのまま力が抜けていく。




「……間に合って、よかった……」




小さく呟き、意識を手放すオルガを、レオニダスが素早く抱きとめた。


ルーカスは寄生者たちが解放されているのを確認し、静かに息をつく。




「よくやった……本当によくやった」




レオニダスの腕の中、オルガの呼吸は穏やかだった。


その小さな体が、確かな使命を果たした証のように温かかった。




そして、静寂が戻った隔離室には、もう黒い花の匂いは一片も残っていなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ