無謀な計画
「……死体すら操るか」
低く呟いたルーカスの声が、執務室の重苦しい空気に沈んだ。
王城に戻ったレオニダスとオルガは、第五監視塔での出来事を騎士団長ルーカスに報告していた。
塔の壊滅、操られた騎士たち、そして種の異様な反応。
「寄生花を用いれば、事実上、兵を無限に生産できるということになります」
レオニダスが静かに言葉を継ぐ。
「しかも、死してなお動き続ける……倒しても終わらない兵です。こちらの士気を削ぎ、疲弊させるには、これ以上ない存在です」
ルーカスの鋭い視線がレオニダスに向けられる。だが彼は、言葉を選びながらも、淡々と事実を述べるだけだった。
「現状、確実な対処法はただ一つ。オルガが生成した鎮静の種を用い、強制的に眠らせること。それしかありません。しかし……効果は一体ずつに限られ、大量の対象には対応しきれない。防衛線が崩れれば、一気に王都中に広がります」
ルーカスは無言で報告を聞いていた。その額には深い皺が刻まれ、視線は窓の外、中庭の一角へと投げられている。
そこでは魔法師たちが魔法陣をいくつも展開し、浮かび上がる術式の光が次々と寄生の気配を探っていた。
騎士や侍女たちが一人ずつ通され、額に触れるようにして魔力を照射されている。
「……魔法陣での炙り出しは進めている。だが、被害がどこまで広がっているかわからない」
ルーカスが重く言った。
「放っておけば、王都そのものが花の苗床になる……時間が惜しいな」
オルガは黙って頷いた。
その手の中で、まだ脈打つ炭化した種殻が、微かに冷えていた。
静まり返った空気の中で、オルガが一歩前に出た。
その顔には、どこか吹っ切れたような光が差していた。
「……一つ、試してみたいことがあるの」
そう言って、懐から小さな布包みを取り出す。中には淡く青白く光る“拒絶の種”が一粒。
その瞬間、レオニダずの眉がわずかに動いた。
「説明するね。ちゃんと聞いてほしい」
彼女の口から語られた“計画”の詳細…ただ、語られるうちにルーカスは静かに腕を組み、レオニダスの顔が険しくなる。
やがて、話が終わったあと。
沈黙の中でルーカスが低く言った。
「……本気か、それは」
「うん」
「無茶だ。だが……確かに、それでしかあの男を、炙り出す手段はないかもしれん」
「私が言った通りにしてくれれば、きっと来る。そのとき、“植え付ける”瞬間さえ捕らえられれば……勝てる可能性はある」
オルガはそれでも、どこか楽しそうに微笑んだ。
レオニダスが黙ったまま、目を伏せる。
その横顔が、何よりも彼女の無謀を物語っていた。




