表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜  作者: ソニエッタ
王宮の毒花と森の片隅のお花屋さん

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/94

ダンジョン潜入

毎日のPVが確認できることを初めて知りました。こんなに多くの方に読んでいただけていると知って、とても励みになりました。ありがとうございます!


オルガ、マッシモ、セレン、そして選び抜かれた高ランクの冒険者数名が、ついにダンジョンの入り口へと辿り着いた。


岩肌に穿たれた黒い裂け目のような入口の前には、帝国騎士団長ルーカスと数名の騎士が待機していた。マッシモたちの姿を確認すると、騎士たちは一糸乱れず整列する。




「ルーカス、腕利きの連中を連れてきた。ダンジョン内部の地形に精通してるやつらもいる。」




そう言ってマッシモが顎で指し示した冒険者たちの列。その中央に、小柄な体格の少女がぽつんと混じっていた。


ルーカスの目がそこに止まる。




「……オルガちゃん? まさかアイテムの差し入れに来たんじゃないよね。今は危険な状態だ。すぐ戻った方がいい」




ルーカスは険しい声で諭すように言ったが、それより早くマッシモが口を挟んだ。




「オルガも中に入る。こいつが必要だ。」


「なにを言ってる! 今は一刻を争う状況だ。彼女を守りながらじゃ行動に支障が出る!」




ルーカスの声が上がる。冒険者たちの中にもざわめきが走ったが、オルガ本人はというと、周囲の緊張などどこ吹く風で、別のことを考えていた。




(あの堅物、今日は来てないんだ……)




「むしろ逆だよ」


マッシモは静かに言った。「オルガがいた方が、スムーズに進む。……まあ、入ってみりゃわかるさ」




ルーカスは目を細めたまま黙り込み、それから仕方なさそうに冒険者たちを見回した。




「……よし。中に入る。オルガちゃん、俺のすぐ後ろについてきてくれ。何かあってもすぐ守れる位置だ」


「ありがとう。今日は副団長さんいないんだね?」




オルガの問いかけに、ルーカスの表情が少し緩んだ。




「ふふ、まさかレオニダスに会いたかったの?」


「んー……会いたかったのかな?」




オルガは首を傾げ、問いかけに問い返す形になる。


ルーカスは肩をすくめ、いつもの飄々とした笑みを浮かべた。




「今日はお留守番さ。俺に何かあったとき、騎士団をまとめられるのはあいつだけだからね。……オルガちゃんがここに来てるって知ったら、ちょっと悔しがるかもなあ」



「悔しがる……?」


「うん、まあ……なんでもない。さ、行こうか」




そう言って、ルーカスは踵を返す。


オルガたち一行は、ひんやりとした空気をまとったダンジョンの中へ、静かに足を踏み入れていった。






*****




ダンジョンの中は、湿った土の匂いが鼻を刺し、肌にまとわりつくような重たい湿気が満ちていた。




先頭を進むのは冒険者たち。その後ろに、松明を掲げた騎士たちが静かに続いていく。




「……なんでまた、皇太子がダンジョンに?」




オルガが小声で尋ねた。




「魔物の異常繁殖、知ってるだろ? 殿下、自分の目で確かめたいって言ってさ。俺も止めたんだけど、あの人、頑固だから聞かなくてな……。もし何かあったら、ほんと、洒落にならないってのに」




ルーカスは前を見たまま無言だった。


脳裏に浮かぶのは、側妃エメリナの張りつめた笑み。――皇帝は健在。エリオット殿下もいる。なら、多少の無理は通ると踏んだのだろう。




だが、今の帝都は、そんな単純な盤面ではなかった。




「……じゃあ、見つけたらお灸をすえないとね。にっがーい薬草のお茶でも飲んでもらおうか」




オルガの声に、ルーカスの口元がわずかに緩んだ。




「にしても、おかしいよな。こんなに連絡が取れなくなるほど、奥まで入るなんて」




マッシモが低くつぶやいた。




「そこなんだよ。予定では森の周辺を調査して、ダンジョンは軽く覗くだけ。それから夜の魔物の動きを見るために一泊して戻る……って段取りだった。だから、中に入ったまま出てこないなんて、想定外もいいとこだ」




「近衛は?」




「入り口で待機してた部隊が、予定を過ぎても出てこないからって、慌てて王宮に連絡を入れた。それで俺たちが呼ばれたんだ」




松明の炎が、湿った石壁に揺れる影を落とす。




空気の底に、かすかな違和感が沈んでいる。




何かが、狂っている――。


それだけは、誰の胸にも確かにあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ