表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜  作者: ソニエッタ
王宮の毒花と森の片隅のお花屋さん

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/94

新人冒険者

今日もオルガは畑で黙々と作業をしていた。手は忙しく動いていたが、意識は空に向かっていた。


「はいはーい、たーんとお食べ」


ひと声かけると、いつもの白いカラスが降りてきた。手のひらに置かれた赤い実を、満足そうに一粒ずつついばむと、ふわりと飛び立っていった。


最近、このカラスの訪問頻度が妙に増えている。可愛いといえば可愛いが、オルガが留守にしていると畑を荒らされかねないので、心穏やかではない。今のところ被害はないが、油断はできない。


そんなことをぼんやり考えていると、森の奥から声がした。


「これでいいのかな?」

「うーん、本にこの葉っぱっぽいのが載ってるよな……」


若い男の声が二つ。どうやら薬草を探しているらしい。オルガが気配を辿って視線を向けると、案の定、森の入り口で冒険者風の青年二人がしゃがみこんでいた。


微笑ましいなあと思って見ていたのも束の間。そのうちの一人が、迷いもなく葉を根ごと引っこ抜いた。


「だめー、だめだめー。全然だめ」


言いながら近づいていくと、青年たちは目を丸くして動きを止めた。オルガはその反応に構わず、まくし立てる。


「根っこは残さないとだめ。そこが命だから。また数日で生えてくるんだよ。それに、葉っぱ握りすぎ。効力落ちるよ。……講習受けてない?」


自分の口から出た言葉に、オルガは数日前の出来事を思い出した。受付のミーナが同じように怒っていたっけなあ。


「ほら見てて、こうやって取るの」


土に指を差し入れて、やわらかい新芽だけをやさしく摘む。力は最小限に。生命の流れを断ち切らないように。


「はい、やってみて。聞いてるー?」


「あ、は、はい!」

「え、えっと……こう?」


青年の一人が見よう見まねで葉を摘む。


「そうそう、上手。これ持ってけばミーナには怒られない、……たぶん」


オルガが笑うと、青年たちは顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。すでに怒られたことがある顔だった。


「薬草のノルマ達成しないと、ランク上がらないもんね。がんばれー」


「お、おう!」

「はい!」


二人の名前はロレンツォとエンリケ。王都出身の新米冒険者。もともとは騎士団志望だったらしいが、推薦状も試験も必要な騎士団は狭き門だ。手っ取り早く稼げる冒険者の道を選んだ、と。


「二人とも、今からギルドに薬草持ってくの?」


「ああ、鮮度が落ちる前に」


ロレンツォの言葉に、オルガの目がきらりと光る。


「それならちょうどいいや。今からギルドに商品届けるんだけど、荷物持ち手伝ってくれる?」


「もちろん!僕たちで良ければ!」

「ああ、力仕事なら任せといて」


三人で荷物を抱えて森を降りる道中、会話は絶えなかった。


「あなたがオルガさんでしたか。先輩方から話は聞いてました」

「俺たち、魔法使えないんで。回復アイテム、助かってます」


「それはどうも、ご贔屓にー」


やがてギルドの建物が見えてきた。中は妙に騒がしい。


「なんだか慌ただしいね」

「大きい依頼でも入ったのか?」


人混みをかき分けて受付まで進むと、ミーナがぱっと顔を上げた。


「あ!オルガちゃん!いいところに来た!ギルド長ー!オルガちゃん来ましたよ!」


奥でセレンと何か話していたギルド長マッシモが、慌てた様子で近づいてきた。いつもののんびりした顔とは違う。


「オルガ、ちょうど良かった。今セレンに君を呼びに行かせようとしてたとこだったんだ」


「ほーん?なんかあった?」


「2日前からアルデバラン殿下が行方不明だ。ダンジョンに入ったまま、連絡が途絶えている」


「……なんでまた、そんなとこに」


「最近、魔物の動きが変だろ?その調査だ。だが、帰ってこない。……嫌な予感がしてる。オルガ、捜索を手伝ってくれるか?」


ギルドの喧騒の中、マッシモの言葉だけが、重たく沈んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ