眠る皇子と咲かない花
オルガはそっと近づき、眠る皇子の顔をのぞき込んだ。
年の頃は自分と同じくらいか、少し下。
整った顔立ちは穏やかで、まるで深い眠りの中にいるように見える――が。
「……なんか、変な匂いするなあ」
オルガは鼻をひくひくさせて、あたりの空気をかぐ。
森で長年生活しているため、匂いにはひと一倍敏感だった。
「ねっとりしてて、濃くて……うーん、腐った魔力って感じ。
あー、この呪い、たぶんめんどくさいやつ」
彼女はぽんっと手を打ち、エプロンのポケットをごそごそとまさぐる。
そして取り出したのは、小さな布に包まれた――ひと粒の種。
オルガは皇子の胸元に
花の種を指先でつまんで、そっと置いた。
ひと呼吸。
種から、ちいさな芽がのびる。
透明な光がゆらめきながら、つぼみが開きかけ――
――止まった。
花は、それ以上咲かなかった。
ぴたりと成長を止め、弱々しく光を消す。
「……やっぱり、まだ作れてないんだよね」
そうつぶやく声は、責めるでも焦るでもなく、ただ静かだった。
「“呪いの花”……あれの完成版、ぜんっぜん安定しなくてさ。
うーん、やっぱり“足りない”んだなあ、何かが」
オルガは芽を摘み取り、もう一度包みに戻す。
そして、寝ている皇子を見下ろしながら、ぽりぽりと頬をかいた。