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花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜  作者: ソニエッタ
王宮の毒花と森の片隅のお花屋さん

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冒険者ギルド

城へ行った翌日、オルガはノクシアの冒険者ギルドに姿を見せていた。


ノクシアは帝都と森のちょうど中間に位置する町で、近くにはダンジョンもあり、魔物の出現率も高い。冒険者が集まるにはうってつけの場所だった。




ギルドのドアを開けると、朝から酒をあおる冒険者たちの笑い声が隣のバーから漏れていた。壁に貼られた依頼書を真剣な目で見つめる者もいれば、眠そうにうろついている者もいる。


受付には、いつも通りミーナがいた。優しげな顔立ちとは裏腹に、彼女は冒険者顔負けの威圧感で、次々と薬草を突き返している最中だった。




「これと、これと……それからこれもダメですね。あなた、講習受けました? こんな摘み方じゃ薬効が飛んでます。やり直し」



「そんな〜、昨日から寝ずに集めたんだぞ! 使えるとこだけ買い取ってくれたっていいだろ?」


「それやるとギルドが赤字になるんです。薬草の取り方、もう一回本読んで勉強してきてください。はい、次の方〜」




どれだけ腕っぷしがあっても、魔物を倒したからといってランクが上がるわけではない。まずは薬草の採取依頼をこなすところから始まる。


この町の冒険者たちはオルガの「体力の実」にお世話になっているが、遠方ではそうはいかない。回復魔法が使えない者の生死は、薬草の知識にかかっている。




ミーナがふと顔を上げ、オルガに気づいた。




「オルガちゃん! いたなら声かけてよ、久しぶりね」


「ミーナ、今日も張り切ってるね」


「新人冒険者がダメすぎて、無駄に忙しいのよ。放っておくと仕事が倍になるから仕方ないわ」




肩をすくめて、深いため息。


ミーナはちらりと受付奥を見やって、話を続ける。




「ギルド長に用事? 王族絡みの依頼受けたって話、ギルド中の噂よ。オルガの花屋が閉まってるからって、みんなギルド長に文句言ってたくらい」




「それなんだけど、マッシモに相談があって。時々家を空けることになりそうだから、うちの商品をここで少し置かせてもらえないかなって。回復魔法が効かない人たちもいるし、カエサルとか心配でさ」




「そっちとしては大歓迎よ! もちろん冒険者からはきっちり手数料取るけど。でもカエサルの心配は要らないわ。いざとなったら薬草食わせとけば生き残るでしょ?」




「まあ……確かに」




と、うなずいたところで、背後から声が飛んだ。




「なんだその言い草。薬草は苦いし効きがあんまり良くねーし、食えるもんじゃねぇ。オルガの味と回復力を知っちまったら、もう戻れねぇんだよ」


「ちょっと、言い方がいやらしいでしょ。オルガちゃんから離れなさい、この野蛮男」




ミーナが眉間に皺を寄せる。


彼女とカエサル――この二人、実は恋人同士だ。どこでどうしてそうなったのか、オルガにとってはこの町最大のミステリーだった。




二人の夫婦漫才を聞きながら、ふとオルガは思った。


――私にもいつか、こんな相手が現れるんだろうか。


母さまと父さまのように。


そう思うと少しだけ胸が温かくなった。でも、どうにもピンとこない。まだ、その時じゃない気がする。




そんなことを考えていると、受付奥の部屋から大柄な男が現れた。




「おい、受付の前でいちゃつくのはやめろ。家でやれ、家で」




マッシモだった。


のっそりとした動作で近づいてくると、ミーナが睨む。




「ギルド長、今までサボってたでしょ」


小さく「バーカ」と聞こえた気がするが、マッシモは軽く受け流し、オルガの方へ向き直った。




「森に行こうと思ってたんだが、最近バタバタしててな。オルガが来てくれて助かったよ」


そう言って、奥の部屋へとオルガを招いた。




「最近、魔物が増えてるって話、ほんと?」


「本当だ。魔素の濃度が濃くなっているらしい、そのせいで魔物が増えているようだ」


「理由は?」


「わからん。でも、何かが起きてるのは確かだ。スタンピードが来る可能性もある」




スタンピード――魔物の大群が町へ押し寄せる現象。めったに起きないが、一度起これば町ひとつが消し飛ぶ。




「それでな、ギルドとして魔力草と体力の実を冒険者に配ることにした。あるだけ持ってきてくれないか?」


「もちろん。そのつもりで今日持ってきたの。城に行くことが増えるから、お店もしばらく閉めがちになるし、ギルドに置いてもらえると安心」




マッシモはふぅ、と安堵の息をつく。そして、少し真剣な声で続けた。




「オルガ、お前も気をつけろよ。森の魔物、前よりずっと凶暴になってる。……町に移る気は?」




「ないよ。畑もあるし、あそこからは離れられない。大丈夫、父さまと母さまに全部教わったから。それこそ、うーん……ドラゴンが来ても平気!」




にっこりと笑うオルガを見て、マッシモは拍子抜けしたような顔になった。




たしかに、以前サーベルタイガーを手懐けた彼女だが――それでも、心配は拭えない。


オルガの笑顔はどこまでもあっけらかんとして、そして、どこか底知れなかった。


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