糸口を掴むための花
三日後。
オルガは両手いっぱいに鉢植えや包みを抱えて、にこにことご機嫌なまま城門をくぐった。
「……オルガ嬢!」
門番からの報せを受けたレオニダスが、慌てた様子で駆けつけてくる。目に入ったのは、彼女が抱える大荷物。思わず眉をひそめた。
「まさか……その荷物、全部持って歩いてきたのか?」
「うん。今日はいい天気だったし、歩いたほうが早いかなってー。荷物もね、そんな重くないよ。両手で持てばなんとかなる」
「……はぁ」
深いため息をつきながら、レオニダスはオルガの手から鉢植えのひとつをそっと受け取る。蕾はまだ固いが、花びらが薄く透明で、光を微かに反射していた。
「持ってくれるの? ありがとー。でもね、それ、もしかしたら舌がぺろって出て……べろーんって舐められるかもよ?」
「……なっ──」
咄嗟に鉢を持ち直したレオニダスが目を見開く。
隣で、オルガが小さく吹き出す。
「ふふ、冗談冗談。……たぶん」
「……!」
「大丈夫だよー。それ、観賞用。たぶんね?」
飄々と笑うオルガの顔は、いつもと変わらない。ただ、鉢から漂う得体の知れない気配に、レオニダスの眉がわずかに動く。
「これは……この前言っていた“使えそうな花”か?」
「んー、まぁ、使えるといいなってやつ。おたのしみってことで」
問いをかわすように言って、オルガは他の荷物を腕で持ち直した。
レオニダスは、それ以上は問わなかった。
「……わかった。とりあえず騎士団塔へ。そこでどうすればいいのか聞かせてくれ」
「はーい。あと、置く場所ちょっと工夫しなきゃならないからみんなで会議だねぇ」
***
「で、この鉢植えをどうしたらいいんだ?」
騎士団塔の執務室で、ルーカスが机に置かれた透明な蕾の鉢植えをじっと見つめていた。
「簡単簡単。怪しいと思ってる相手の近くに、この子と──」
オルガは袋からもう一つ、小さめの鉢植えを取り出して、透明の蕾の横に並べる。
「──この子をセットで置くだけ。並べて、なるべく日当たりのいい場所にね。暗いとこはだーめ。絶対だめ」
「それだけでいいのか?」
「うん。あとは、この子たちが教えてくれるから。ねー?」
オルガが鉢に向かってにっこり笑うと、どちらの蕾もほんの少しだけ揺れたように見えた。
「わかった。なら、この二つを”あの方”の部屋に置くよう、手配してくれ」
「セフォラに侍女のふりをさせて、移動魔法で侵入。設置までやらせます」
レオニダスが二つの鉢を丁寧に持ち上げ、執務室を出ていく。
「そうそう、騎士団塔の裏手、陽当たりのいい場所が空いていてさ、勝手ながら、そこを畑に使わせてもらうことにしたよ」
「えっ、ほんとに!?」
オルガの顔がぱっと明るくなった。
「やったー!じゃあ、時々様子見に来るね!タネ代だけもらう感じでいい?」
「経費で落ちるから、多少ぼったくられても問題ないよー」
「わーお、太っ腹。じゃあ、遠慮なく〜」
ルーカスは少し声のトーンを落とし、真面目な表情で言った。
「それと、畑の件は陛下からの褒美とは別だ。だから、欲しいものがあれば別で考えておいてね」
「うーん?」
オルガは腕を組んで首をひねったが、何も思いつかず、唸るだけ唸って終わった。
そんなところに、レオニダスが無言で戻ってきた。
「よし。レオニダスも戻ってきたことだし、ちょっと畑見にいきますかねぇ」
「いえーい!!」
三人は連れ立って、陽の差す塔の裏手へと向かっていった。




