セレンと鶏肉
魔法師セレンが街で買ってきた鶏肉料理は、きのこやパプリカがたっぷり入ったトマトソースと和えられていて、朝からレオニダスに拉致され、こき使われていたオルガにとっては、まさに天の恵みのような味だった。
さっきカラスと友達(?)になったばかりだったので、鶏肉を食べるのは少しばかり良心が痛んだが、背に腹は代えられない。
「ダメもとできたけど、オルガがいて助かったよ。一人じゃとても食べきれない量だったからな」
そう言って、セレンは袋の中から、フルーツが山のように盛られたタルトを取り出す。
「うわーっ! 豪華すぎる! 今日一日の疲れが吹っ飛んじゃう!」
歓喜の声をあげたオルガは、迷うことなくタルトにかぶりついた。その様子を見ながら、セレンはどこか安心したように息をついた。
「あ、そうそう。さっきカエサルたちが来たよ。ダンジョンに行くって言って、大量に買い込んでいった」
その言葉に、セレンは苦い表情で頷いた。
「だろうね。最近、魔物の動きが変なんだ。この辺じゃ見ないような、強いのが出るようになってきてるし、数も増えてる気がする」
「そうなの?」
オルガは首を傾げながら、不思議そうにセレンを見つめた。
「……オルガには、なぜか魔物がよってこないもんな。なんか、体から光線でも出てるんじゃない?」
セレンが茶化すように言うと、オルガはむっとして頬をふくらませた。
「母様と父様も同じ体質だったけど、光線はみえなかったし!それに全くよってこないわけじゃないよ。上級魔物にはちゃんと気をつけてる。」
不思議なことに、オルガとその両親には、下級から中級程度の魔物がめったに近寄らない。だからこそ、山奥でも問題なく暮らしていけるのだった。
セレンは少し真面目な表情に戻り、手元のカップを軽く回しながら口を開いた。
「でもさ、なんで魔物が増えてるのか、冒険者ギルドで調査したけど、はっきりとした原因がつかめてないんだ。魔素の流れが乱れてるのは確かだけど、それだけじゃ説明つかないことが多すぎて」
「魔素の流れって……川みたいなもん?」
オルガが不思議そうに聞くと、セレンは笑いながら頷いた。
「まあ、そんな感じ。流れが滞ったり、濁ったりすると魔物が集まったり、異変が起きたりする。でも、今回は“源”がわからない。それがちょっと怖いんだよね」
「ふーん……」
オルガはタルトをもう一口かじりながら、首をかしげる。
「じゃあさ、その“源”って……誰かがわざとそうしてるとか?」
セレンは一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐに肩をすくめた。
「可能性はゼロじゃない。でも、そんな大それたことができるやつ、限られてる。王族級の魔力持ちか、精霊契約者か……」
「うーん?そうなると帝国の危機だねぇ。」
「オルガが言うと緊張感なくなるんだよな」
セレンは小さく笑いながら、残った鶏肉をフォークで突き刺した。




