呪い花の仕組み2
その空気を切るように、レオニダスが真顔でルーカスに向き直った。
「城下を中心に、警備を強化しましょう。魔法師の不審死や失踪……些細な情報でも報告をあげるよう、部下に指示を出します」
「お、おう。……そうだな、頼んだ。団の皆にも伝えてくれ」
現実に引き戻されたように、ルーカスは肩を張ってうなずいた。
「――あ、それと」
オルガが、ふと思い出したように口を開く。
「王宮の中、まだ“臭い人”たちがいるの。ルーカスもレオニダスもちょっと匂ったから……たぶん騎士団の中にもいると思うよ? 気をつけてね」
「……おい、まさかそれって……」
ルーカスが顔をしかめ、ショックを受けたようにオルガを見た。
「臭いって……汗臭いってことか?」
「ちがうよー、呪いを依頼した黒幕? 今回の呪いに関わった人から“呪いの残り香”がしてるんだと思うの。洗っても取れないからね! 汗臭いかな? ちょっと嗅いでみないとわからないけど……」
オルガが鼻をくんくんさせながら、じりじりと騎士たちに近づいていく。
その様子に、マッシモがつい吹き出した。
「おまえら……この状況で……」
レオニダスは一歩だけ後ずさり、小さくため息をついて、自分の袖をそっと嗅いだ。
咳払いを一つすると、仏頂面を整えながらも、少し気にしているのか距離をとったままオルガに尋ねた。
「今から騎士団寮に来てくれないか。“誰から臭いがするか”教えてほしい」
その言葉を遮るように、マッシモがぴしゃりと制止する。
「おいおい、今一仕事終わったばっかりだぞ? まだこの嬢ちゃんをこき使うつもりか?」
「こちらは一刻を争うんだ! 城の内部に敵が潜んでる可能性がある!!」
「それを見つけるのは、お前らの仕事だろ。とりあえず皇子の周りは、お前とルーカス、それにゼーレで交代して守れ」
二人が言い争う中、ルーカスが腕を組み、しばし沈思ののち、口を開いた。
「……皇子の呪いが術者に戻るのが本当なら、あちらもしばらくは動けまい。オルガ嬢、また明日か明後日、時間が取れる時に来てくれればいい」
オルガは「ふぁー」と気の抜けたあくびをしながら、首をかしげた。
「うん、いいよー。あ、そうそう。魔法師団長のお部屋に案内してくれた女の人、ちょっと臭かったよ。たぶん関係ある人だと思う」
「……あの時にいた侍女は、確かペスカーダ伯爵次女、グレタ嬢だったな。……レオニダス、グレタ嬢のまわりを洗え」
「はっ、かしこまりました」
やることは山積みだ。それでも、部屋の空気にはどこか安堵の色が混じっていた。




