表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜  作者: ソニエッタ
呪いの皇子と森の片隅のお花屋さん
19/76

花咲く3

静寂が落ちた。

まるで部屋全体が、深く、深く息を呑んだように。

誰も言葉を発さず、ただその光景を――一輪、また一輪と咲き続ける“呪いの花”を、見つめていた。


ふいに。


寝台の上、エリオットのまぶたが、かすかに震える。


「……っ」


アルデバランが思わず前に出る。

だが、オルガが片手でそっと制した。


「もう少し、待って」


優しくそう言って、花に添えていた手を、すこしだけ離す。

光が揺れ、部屋の空気がさらに清らかになった気がした。


「もう呪いは、ほとんど消えてると思う。でも、長くかかってたから……回復魔法、かけてあげたほうがいい」


アルデバランは口を開きかけたが、何も言わずに唇を噛んだ。


かわりにルーカスが、ぽつりとつぶやく。


「……ありがとう、オルガ嬢。お前がいてくれて、本当によかった」


オルガは肩をすくめて笑った。


「褒めても、何にも出ないよ」


ゼーレがそれを聞いて、ふっと小さく笑った。

彼はゆっくりと息を吐き、白髪を後ろにかき分ける。


「植物とは、不思議なもんじゃな。人間に比べれば、ちっぽけに思えるが――かくも力強く、無限の力を秘めておる。あっぱれだ、花屋の娘よ」


「偏屈じじいが、素直じじいになった。……まあ、ありがと」


その軽口に、空気が少しだけ和らいだ。


そして、アルデバランがようやく小さく頭を下げる。


「……必ず、礼はする」


「いや、だいじょうぶ。私はただ――お花を見たかっただけだから」


そう言って、オルガはなおも咲き続ける花を見つめた。


部屋には、かすかに甘い香りが漂っていた。

けれどそれは、呪いの腐臭ではなかった。

新しく咲いた、花の匂い――希望の、匂いだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ