表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜  作者: ソニエッタ
呪いの皇子と森の片隅のお花屋さん
18/76

花咲く2

ぴしり。


まるで空気に細いひびが入ったような音が、部屋の中を裂いた。


誰かが動いたわけでもない。扉も風もない。けれど確かに何かが“割れた”。


「……咲き始めた」


オルガの目が、皇子の胸の上にある“呪いの花”のつぼみに注がれる。


花の先端が、ゆっくりとほどけていく。まるで呼吸するように開いては閉じ、震えるような薄紫の光を放ち始めた。


「花が……光ってる?」


レオニダスが思わず口にする。だが、すぐにそれが“光”ではなく、“魔力”そのものであると気づき、身構えた。


同時に、部屋の空気が一変する。部屋を充満していた嫌な違和感が軽くなった気がした。


花のつぼみは完全に開き始めていた。

中から伸びる透明な根が、皇子の胸、腕、額へと這い、優しく絡みついていく。毒を吸い上げるように、その根から黒い“霞”が逆流し、花びらの奥へと吸い込まれていくのが見えた。


「……すげえな、こいつ……」


ルーカスが思わず呟く。生まれて初めて“戦わずして、魔を退ける力”を見た気がした。


それは、剣ではない。魔法でもない。

ただ、小さな花が、呪いを吸い上げている。


ただ、それだけの光景が、言葉にならないほどの威力をもって、皆の心を打った。


 


だが、そのとき――


ぱちん、と、何かが弾けた音がした。


「……!?」


エリオットの身体が、一瞬、跳ねた。

目を閉じたままの彼の額に、うっすらと黒い紋様が浮かび上がる。


「残り滓か……!」


ゼーレが身を乗り出すが、それより早く、オルガが花に手を添えた。


「咲いて。もっと咲いて。……この子、まだ生きたいって言ってるんだから」


その手から、金色の光がふわりと広がる。

花の色が、ひときわ深くなる。

つぼみの奥から、音もなく二輪目の花が咲いた。


まるで、皇子の命が“答える”ように。


紋様はふっと消え、エリオットの呼吸が、すこしだけ、穏やかになった。


「……効いてる」


ゼーレが呟いた。


その瞬間、誰もが確かに思った。


――これは、治る。


この“花屋の少女”が持ち込んだ力は、魔でも呪いでもない。

説明できない“自然の手”だ。


 


静かに、花はなおも咲き続けていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ