第95話 測定外の超常
――身体がねじ切れるような激痛に襲われ、肉体が悲鳴を上げた。
「ガハッ......」
「お姉ちゃん!!」
肉体に絶大なダメージを受け、大量の血液を吐き出す。
回生と融合の回復速度を、上から叩き潰すような破壊が走っている。
視界の端が赤く滲む。目の血管が浮かび、神経がぶちぶちと音を立てて裂けていく。
「ゴフッ。あぁ......ゲホゲホ。」
「あんた、朔月に何をしたのかしら!!」
「いやいやいや!何にもしてないですよ!」
――もっと深く。
情報を引き出さないと、今の“異常”の正体が分からない。
私は回生と融合で回復を強引に回しながら、完全看破の継続を試みた。
……しかしそれがたたり、頭蓋から熱血が噴き出した。
全身のあらゆる箇所が同時に壊され、足元に赤が広がっていく。
私の周囲には血の海が生まれ、そんな状況を見たラナは……。
「朔月!!しっかりしなさい!」
「お姉ちゃん!!」
「 あぁもう!やっぱり信頼しなければ良かったわ!!」
「そ、そんな!ほんとに私は何にも知りません!」
セラフィアは、ラナから漏れた殺気だけでへたり込む。
だがラナは止まらない。
刃の気配が、迷いなくセラフィアを“処理”しに向かう。
「問答無用!死になさい!!」
「!?......」
「待ってラナ!!この子はシロだから!!」
私は喉を裂くように声を絞り出し、間一髪でラナの刃を止めた。
止めたというより……ラナがギリギリで踏みとどまってくれただけだ。
私の言葉が、間一髪で間に合った。
しかしこのまま完全看破を続ければ命が消える。
どれだけ全力を出しても回復が追いつかず、やむ負えず私は”完全看破”の異能を辞めた。
「ならどうしてこうなったのよ......」
「この子の存在自体が......完全看破を遥かに超越してる。」
「は、はぁ!?」
「お、お姉ちゃんどういうこと.....?」
実は、似た経験が一度だけある。
まだ自分の異能を理解していなかった頃、いたずらに“自分自身”を鑑定した時だ。
情報量が臓腑に牙を立て、私は自分の異能に殺されかけた。
これはその時の感覚に近い。
ただし今回のものはあの時とはダメージの桁が違う。
「まずセラフィアの異能......私の持ってる最高等級の異能と同じ、深紅等級、またはそれ以上。つまり......」
――「測定エラーなの」――
「......え?そ、測定エラー?」
「......セラフィアの異能は異能の枠に収まらない。なにか途方もない力が込められてる。」
「えぇ!?お姉ちゃんどういうこと!?」
「ちょっと朔月。流石にそれじゃ分からないわよ。」
異能の等級が完全看破を超えているだけなら、負荷はかかってもここまで肉体が裂けることはない。
なのに私は、回復を上回る速度で自身の器を完膚なきまでに壊されている。
つまり“強い”だけではない。
私の完全看破が......こちらの”存在条理”自体が拒絶された。
しかし無理をして、長く完全看破を続けたことで――
私は、ある一つの仮説がたった。
「セラフィアの誕生自体、何者かが介入している可能性が高いの。」
「えぇ!?」
「ま、まさか朔月それって......怪異の神なんじゃ。」
「......だったら良かった。」
怪異の神とは、かつて戦闘中に完全看破を使用している。
しかしあの時でさえ、当然ここまでの負荷は掛からなかった。
もちろん今回のように細胞単位まで精度を引き上げた完全看破ではなかったけれど……。
それでも怪異の神を看破しきれなかった理由は、”存在の格”ではない。
状況的に考えても、何かしらの妨害術だった可能性が高い。
……多分だけど。
「もっと......もっととんでもない上位存在。完全看破で近づこうとするだけで、私を押し潰すほどの絶対存在かも。」
「はぁ!?何よそれ!んなのいるわけ、いるわけ......いるわけないんだから!!」
「流石にお姉ちゃんの考えすぎな気がする......」
「そ、そうかも......普通に見る分には何の反動もないし。」
仮にルーク様たちに対して、完全看破を全開で向けても恐らくここまでの反動は来ない。
これは強いというよりも、もっと異質で異様で.......
この世の理律から隔絶された”外”のような不気味な気配だ。
―でもそんなことがありえるの?
それとも完全看破そのものに、“苦手領域”や“禁域”が存在するのかな?
「まぁいいんだから。結局この子はシロで間違いないのね?」
「うん。間違いなくシロ。ただ......」
「え?お姉ちゃ......カハッ」
その瞬間―
私はセラフィアの全身を、異能で生成した極細の長針の物体でズタズタに貫いた。
【異能・模倣:怪装崩却】
異能で構築したオーラへ触れている怪装を、一時的に無効化する能力。
本来は“触れている間のみ”怪装を無効化する異能だが、条理超越と私の出力を重ねれば話は別だ。
対象の内部構造へ直接干渉し、怪能の効果を強制的に解除することができる。
「あんた意外と容赦ないときあるわよね......」
「全身の細胞壁の内側に、位置情報を抜き取る怪能が仕込まれてた。大雑把な完全看破では分からないように、か細く緻密に......」
皮膚でも臓器などの大きな括りではなく、細胞膜のさらに内側。
生命活動の境界線そのものへ寄生するように、探知の怪能が潜り込んでいた。
「確信犯がいるってわけね......しかもあんたの異能を把握して、対策まで作れるレベルの怪異。」
「この調子だとSSクラスの生徒......下手をすれば全校生徒やられているかもね。」
―会話を続ける間にも怪能の分解は完了していく。
私は貫通させた異能針を引き抜くと同時に、回生と融合を発動させた。
裂けた肉と血管が瞬時に繋がり、セラフィアの身体が元へ戻っていく。
「ゲホッゲホゲホ......」
「ゴメン......痛かったよね。」
「びっくりした......でもありがとうお姉ちゃん。」
「この状況でありがとうって......この子どうかしてるわね。」
……。
え?お礼!?メッッチャ良い子!!
予告もなく突然全身滅多刺しにしたのに、”ありがとう”ってもう天使じゃん!!
「とにかくもう文句は言わせない。この子は私の本拠地で匿う。」
「分かったわよ。ここまでやられて文句言うほど、あたしは非道な女じゃないわ。」
「非道じゃないのは知ってる。ラナはただの雑魚。」
「......ぶん殴るわよ?」
いやいや、今のは煽られる前置きだったでしょ流石に......
「お姉ちゃんたち......仲良しなんですね。」
「はぁ!?んなわけないでしょーが!」
「そーだよ?唯一の戦友。大切な相棒だから。」
「ぐっ。あぁもう......こんの、ほんとに調子狂うんだから!」
いつも通りの空気。
セラフィアは無事だし、なんだかんだラナも生きている。
私は改めて今回の戦いの結末に安心感を抱くのであった。
――しかしこの時の私はまだ気がついていなかった。
この戦いで私の心がどれだけ摩耗しているかに......
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
セラフィアに備わるムーノと同等級の異能......
ムーノでさえまだほとんど扱えない、深紅等級以上の異能。
それを持つ者の命運と誕生の理由とは......?
次回......少しだけFCTに舞台が移ります!
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