第89話 ”人造術士”製造計画
第89話 ”人造術士”製造計画
――余韻に浸る間もなく、空気が変わった。
薄紅の髪に白が混じる少女と、緑髪のショートの少年が姿を現した。
「生きてらっしゃいましたか!」
「良かったぁ......ムーノ様は心配してなかったけど、ラナさんはちょっと心配してて。」
ただ者ではない。二人の到来に合わせ、私たちは即座に警戒し、臨戦態勢に入る。
「あんた達、この女の手先かしら?」
「ち、違います!敵意はありません......」
嘘ではない。二人からは殺気が欠片すら感じない。
世界最強であるこの私から殺気を隠し通せる人類は、恐らく存在しない。
「なら今更なに?もうあたしらで全部片付けた後なんだから。」
二人に敵意はない。
だが、とても学生レベルとは思えない隔絶した実力が見える。普通と呼ぶには無理がある。
そして何より異常なのは身のこなしだ。
それは異能の出力差ではない。かなりの実戦をくぐってきた“手練れ”の運び。
血と現場の匂いを身体が覚えている動き。
――ラナも気づいた。目が細くなる。
「どこ所属の......フリー術士かしら?」
退怪術士の世界では、FCTに所属しない術士を総じて“フリー術士”と呼ぶ。
ほとんどの術士事情を把握しているラナがそう断じるなら、見立ては正確だ。
「流石二位......これだけで流石ですね。でも厳密にはもうどこにも所属してません。」
「どういう事かしら?」
「人造退怪術師、製造計画。被検体431番と。」
「029番ユニット女型です。通称お肉と野菜コンビです。」
ん? お肉と野菜?
なんと言うか......独特な子達がやってきた。
しかし“人造退怪術士”は、あのお二人が用いていた偽装身分でもある。
もしお二人の邪魔になるのであれば......
「あんのクソ実験......全潰ししたと思ってたのに残ってたわけね?」
「そうなの?」
「どこが運営してたのかしら?答えによっては分かってるわよね?」
「ラナ?」
ラナからは敵意より先に嫌悪が滲む。
実験は立ち消えと聞かされていたが、どうやらラナ主導のシュヴァルツマン家が総出で潰しにかかったらしい。
なぜ? 彼女は倫理を旗に振るタイプではない。
どんな非道でも、今の人類には戦力増強が要る.......はずなのに。
「人類を次のステージを導くとか言って.......怪異を要塞都市に誘導してた組織は、信じるに値しないんだから。」
「!?!?」
要塞都市に......怪異を誘導!?
ただ“人造の退怪術士”を作っていただけじゃない!?
進化だの次段階だのと言う前に、人類は私の誕生直前まで滅亡寸前だったはず......
それなのに、なぜそんな本末転倒なことを人類の組織が——。
「おっしゃる通りです......中原大厄災も我々の組織さえなければ、あそこまで深刻化することは.......」
「でも、でもだからこそ私達ここにいるんです!!」
「信じられないわね......パッと出のあんたたちの話を聞くほど、今の世界には余裕はないのよ。」
「ラナ?」
「死になさい。」
ラナの背後に巨大な刃が生まれ、ためらいなく二人へ向けて放たれる。
仕留め切る火力。しかし——
「くっ......」
「うわぁっ......」
難なく、というわけではないが、二人は不可視の斬撃を辛うじて躱した。
ラナは刃の設置を地表と衝突しない位置に制御している。
つまり、二人は少なくともラナの刃筋を感じられている?
「落ち着いてください!!殺し合いに来たんじゃありません!!」
「せめてここにいる理由だけでも!!」
「誰が信じるのかしら?あんた達、あたしを舐めてるの?」
「ラナ!!......聞こう!」
「嫌よ!!」
ラナは次の斬撃を即座に走らせ、二人を殺しにいく。
私は異能〈模倣〉でラナの“空間断絶”を再現し、軌道上で相殺した。
火花は上がらない。音もない。ただ空気だけが一枚、剥がれ落ちる。
「ラナ落ち着いて。」
「落ち着けないんだから!!朔月相手でも譲れない事はあるのよ!」
「今のラナは退怪術士とは言えない。ただの私怨に燃える子供。」
「っ......でもどうやって信じればいいのよ。あの組織で生まれた存在を!」
ラナがそう言い切るのなら、組織は本当にろくでもない。
それでも、少なくとも私の異能は二人に悪意がないと告げている。
そして、種の頂点として磨かれた私の直感も同じ結論を指し示している。
「二人とも信じなくていい......私を信じて。」
「......あぁもう!分かったわよ!話だけなんだから!」
「ありがとうラナ......」
「ム、ムーノ様ありがとうございます......」
私はその礼に対して沈黙で返す。
それは実のところただ精神が不安定になっているので、ボロを出したくないだけなのだが……
沈黙は自衛にもなり、同時に場の緊張を保つ演出にも一役買う。
すると察したのだろう。ラナが憎悪を抑え、そんな私のフォローに入ってくれた。
「早く話しなさい。あたしが殺意を抑えてられてるうちよ。」
「はい......まず僕たちがここに乗り込んできた理由です。」
「さっき倒したメギドって学長......その人がうちの支部の責任者でした。」
「ピキッ......」
ラナの額に、怒りの血管がはっきり浮く。
指先がわずかに動いた瞬間、二人は反射で臨戦へ移行……
しかし、ラナは辛うじて踏みとどまる。
「六年前......シュヴァルツマン家とFCT穏健派によって、僕たちの施設は壊滅しました。」
「そしてFCT穏健派に情報を流して手引きしたのが私達なんです。」
「は?今更そんなことで点数稼ぎ?どんな事情があっても、組織の人間には容赦しないんだから。」
「僕たちも分かってます。」
二人の表情は沈み、申し訳なさそうな顔を見せる。
ラナは未だほとんど信じていないが、私は全てが嘘だとはとても思えずにいた。
「僕たちの組織は怪異を招き入れる過程で......様々な情報を掴んでいました......」
「もったいぶってないで、早くいう事ね。殺すわよ?」
「怪異の神......その神聖完全体の顕現条件とか......」
「んな!?」
「!?」
殺気にまみれていたラナさえも、驚愕の一色となる。
私達は思わぬ場所から……最悪の敵”怪異の神”の真実を知ることとなる。
――それが反対に盲点になるということも知らずに……
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
ラナは殺意をギリギリで抑え、彼らの話を聞く。
明かされる完全体条件と、不可解な歴史の影役者。
次回.....神聖完全体の出現条件と、垣間見える淡藤の神
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