第87話 来世はもっと……
山のように怪異を殺した。
殺して、殺して、殺して、殺しまくった。
睡眠も食事の時間も削り、ただひたすらに斬り続けた。
殺す以外の時間でさえ、頭の中は”どう殺すか”その一点しかなかった。
1日の平均出動回数は13回。
多い月では1500体を超える怪異を討伐。
家にも本部にも帰らず、返り血を洗い落とすこともなく次の任務へ直行する。
その姿は、かつて狂気の育成プログラムを課した一族の者でさえ戦慄させるものだった。
――そこまでしても、あたしは負けたくなかった。
絶対に一番になりたい.......もう誰にも負けたくない!
あいつらに勝ちたくて、勝ちたくて仕方がなかったんだ。
あたしは“最強”に並ぶために、人並みの幸せを全て諦めた.......
―――西暦2047年 ”千斬のラナ” 9歳―――
あれから2年。
この頃のあたしはナンバーズの肩書きを持っていないものの、すでにその地位に匹敵するほどの力を備えていた。
そして同年7月。
『中原大厄災』で負傷していたシュヴェルトマン家の当主が死亡。
ムーノ到着時には地下格納庫へと逃げ込んでいた臆病者は、どうやら朔月の治癒の恩恵を享受できなかったらしい。
退怪術士の癖に自分だけ死から逃れようとしたのだ。自業自得、ざまぁみろ。
その結果、齢9歳にしてあたしは名実ともにシュヴェルトマン家の当主へと就任した。
当主となったあたしは、まず一族の悪しき体制を徹底的に破壊した。
分家、派閥――すべてを解体し、権力も領地の権利も本家のみに集中するように作り替える。
当然、反抗の嵐は吹き荒れたが、抵抗する者は一切の慈悲なく異能で皆殺しにしてやった。
そのかいもあり半年も経たぬうちに、我が家は鋼のように結束した一枚岩となった。
しかし.......そんな超天才のあたしでも、何故だかナンバーズの申請だけは通らなかった。
「ラナ様! ナンバーズの申請が未だに受理されません! 既にラナ様は十分すぎる実力をお持ちなのに……!」
「反対しているのは誰かしら?」
「不屈のゼルス様と、支柱のカザマ様のようです……」
「“朔月のムーノ”は……何て言ってるの?」
「この件について、認知すらしていないようです。」
「眼中に無い、ってわけね……上等なんだから!」
――ヨーロッパ最高の天才術士、それが当時のあたしにつけられた通り名だった。
きっとあたしは凄いのだろう......でも同じ頃、朔月は””地球種の到達点””と呼ばれていた。
ほんっとに酷い差だ。
周囲は持ち上げるが、あたしにはちっとも嬉しくなかった。
ただただ、悔しくて惨めで、その気持ちを紛らわすように戦場へと身を投じ続けた。
あたしが欲しいのは名声じゃない.......“最強”という称号だけだ。
何にも、誰にも負けないために......屈しない為には最強という力がいる。
【なぜそこまで敗北を拒絶する?】
『……今度は勝って終わりたいから。』
【一体誰に?】
「……分からない。忘れた。でも、とにかく勝ちたいの。」
【素晴らしい……この星は果てぬ狂気の受け皿だ。】
その声と共に、霧のように曖昧な空間は再び過去の情景へと移り変わっていった――。
◆◇◆
――2047年2月18日 ヒマラヤ内部、FCT本部『ダルネス要塞世界』――
そしてあの日が来た......
あたしが”朔月のムーノ”と偶然すれ違った日――。
超常の存在だと認識していた幻影が、初めて等身大の現実として目の前に落ちてきたあの日。
幾年も思い焦がれたはずの瞬間は、助走も演出もなく、唐突に訪れた。
何の変哲もない廊下で。
いつものように出動しようと歩いていた、その時に......
「っ!? 朔月のムーノ......」
「......何?てか誰?」
「いや、その......」
「用がないなら邪魔......退いてくんない?」
この数年で、あたしの感覚はある程度研ぎ澄まされていた。
ある程度の高みに至ったからこそ感じることができる......
――“次元が違う”――
目の前に相対してより明瞭に感じる......存在そのものとしての桁が根本的に違う。
人間の形をして、人のように振舞っているだけの力の集合体......
――それが、あたしが朔月に初めて抱いた印象だった。
「え、あ、その......」
「あなたもファンなの?」
「は?」
「術士同士だし馴れ合うつもりは無い、けど。でも私が駆けつけるまで死なないでね......」
............ファン?
あたしがファン?
それにこのあたしが庇護対象!? 何年もあんたを超える為だけに全てを費やしてきた。
なのに最強を崇めることしかしない、そんな有象無象と一緒にされてたまるものか!!
尊敬はしてる、最強なのは理解してる......でも崇めてはない!!
あたしは断じて朔月のムーノのファンなんかじゃない!
......心の中でこれまでにない程の強烈な反抗心が燃え上がった。
「待ちなさい!!」
「え?え、えぇ?? い、今私に言った!?」
「そうよ、耳が付いてないのかしら!!」
「え!? ホントに私に言ったの!?......人類の栄華と謳われる術士だよ私!?」
あたしは彼女を無視して、言葉を続けた。
「あたしはいつか......あんたを超える!!」
「無理......だと思う.....」
「あたしはラナ! ”千斬のラナ”よ! 覚えておきなさい!」
「わ、分かった.....」
これが、”千斬のラナ”が初めて”朔月のムーノ”に認知された瞬間だった......。
――――――
今までのは走馬灯か.......。そういえば、あたしは何をしていたんだっけ?
確かメギドって学園長を殺して、大怪異タナトスと戦って――。
そうだ、あたしは殺されたんだ。
「ははっ。振り返れば酷い15年だったわね......」
やっと、朔月の「相棒」といえるところまで登ってきたのに......。
結局あたしの人生って何だったのかしら?
退怪術士に人生を捧げて.......それでも朔月に勝てず、挙句の果てに怪異ごときに殺されるなんて。
「あーあ。次に生まれ変わったら戦争のない世界。花屋の娘でもしてるのかしら?
じゃないと割に合わないんだから......」
誰もいない真っ白な空間で、あたしは呟いた。
ここにいると、生きていた時の感覚がすべて幻だったように思えてくる。
生の実感が、意識の見せた演劇に過ぎなかったのではないかと。
すると後ろから、暖かい光が伸びてくる......まるで私を天国に導くかのような暖かい光が。
「何?本当に花屋の娘にでもしてくれるの? 転生でもさせる気?」
それをまるで肯定するかのように、暖かな光はこちらに伸びてくる......
あたしのこれまでの苦悩に寄り添い、慰めるように優し気な音と共に.......
「バカじゃないの......」
しかし、そんな温もりを一蹴してあたしは叫んだ。
「花屋の娘なんてこっちから願い下げよ!!あたしが来世に願うことはただ一つ......」
あたしは光を振り払うようにして、逆の闇へと歩みを進めた。
「来世はもっと凄惨な地獄を持ってきなさい!来世は絶対に朔月も超えてやるんだから!!」
暗闇に向かって歩き出す。譲れない決意を胸に地獄の道を進むことを決めた。
――ここで誘惑に屈しない自身を、何よりも誇らしく思いながら.......
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
その決意、一切揺らがず。
ムーノを超えることだけを志す、炎龍の蛹。
さらなる地獄を求めるラナは、暗闇に向かって歩き出す?
次回......ついに現実に戻ります!!!
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