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第86話 ラナの絶望




―――夥しい屍の頂に立った約1年後――

 


あたしは“朔月のムーノ”以外のあらゆる術士より早く功績を重ね、最速で頭角を現した。

齢6歳で正式に「FCT本部所属・退怪術士」として認められ、華々しくデビューしたのだ。


 だが――そんなことを喜んでいる余裕など、この世界にはもう残っていない。

あたしのデビューはニュースにもならずに通り過ぎる。


まっ!3歳で承認された“人類最強”の前例がある以上、報道の価値も相対的に薄れるだろうけども!

結局、圧倒的な結果で認めさせるしかないわけだ!



「やってやるわよ……」



 ......あたしは静かに闘志の炎にさらなる油を注いだ。





 ◆◇◆


 ――そして運命の日が訪れた。

 デビューから9か月後、7歳のあの日――忘れもしない2045年9月2日。

 直近10年で起こった怪異災害の中で最悪と呼ばれた、未曾有の怪異大量行軍――“中原大災厄”。


 当時、上位退怪術士として参戦していた私は、その圧倒的な数に押され劣勢を強いられていた。



「ラナ様!!ここは我々が!!あなたは次世代の希望の1人なんです!!」


「何言ってんのよ!!あたしは諦めないんだから!!それにここにはシュヴェルツマン家の精鋭も沢山参加してる!次期当主のメンツにかけて、あたしだけ逃げるなんてありえないんだから!!」



 公爵級怪異を筆頭に、伯爵級一体、子爵級2体。

 そしてその他数十体の上級怪異と、数千にも及ぶ下級怪異が押し寄せた最悪の怪異災害。


 最前線に展開していたシュヴェルツマン家は、あたしと側近を残して壊滅。

 あたしたちもまた瀕死の重傷を負い、押し寄せる怪異の海を前にただ死を待つしかない状況になっていた。



『伝令・報告します。最終防衛ライン突破、最終防衛ライン突破。北京要塞都市は陥落確実。』


「ラナ様!!もう外壁は意味を成しません!どうか早くお逃げ下さい!!あなたは次世代のナンバーズなのです!」


「まだ地下シェルターには市民が残ってるの!それにもう、逃げらんないんだから……」


「くっ……」



 右腕は神経をやられたのか指一本動かない。

 戦装・炎龍の翼で辛うじて飛べるが、自分の脚で立つことは叶わないだろう。

 だがその程度で潰える闘志なら、最初からここに立ってなどいない。



「さぁやるわよ!一匹残らず殲滅して、帰ったらオレンジジュースでも奢りなさい!!」


「分かりました!最高のオレンジジュースをご用意いたしますっ......ね!!」



 ......その後、あたしは鬼神のごとく戦った。


 血で視界は赤く染まり、身体感覚は次第に薄れていく。

 辛うじて見える動く影に、異能を叩き込み続けるが......

 それが飛び交う瓦礫なのか怪異なのかはもう判別がついていない。


 最終防衛ライン突破からものの数分.......上位退怪術士の精鋭は全滅。

 加えてナンバーズ2人が命を落とし、後方で戦闘していたウチの当主も瀕死の瀕死の重症を負った。



「ラナ様……まだ生きていますか?」


「生きてるわよ。あんたこそ……しぶといじゃない。」


「私はラナ様の近衛術士です。守るべき次期当主より先に死ぬ訳にはいきません。」


「あっそ。でも……正直にいえば全身の感覚がないわ。失血で意識を保つのもやっとよ。」


 今、治療を受けなければ助からないかもしれない.......だが、隣にいる近衛はさらに重傷だ。

 私がこうして立っていられるのは、生まれ持った“戦装・炎龍”のお陰でしかない。



「……無駄話はここまでですね!!」


「えぇ!こっから怪異を皆殺しにするわよ!!」



 そうして死を覚悟したその瞬間――

 感覚がほとんどないはずの肉体が、遥かなる上空から凄まじい何かを感じ取った。

 遥か上空から降り注ぐ、異常なまでに濃密な“気配”が、麻痺しかけた全身を叩き起こしたのだ。



「新手か!?」


「次から次へと……今度は、何よ!?」



 そう言いかけた時.......突如として視界が戻り、壊れていた肉体がみるみる回復していく。

 驚いて近衛に目をやれば先ほどまで瀕死だった傷が、欠損部位を除きほぼ完全に癒えていた。



「な、なんですかこれは……神でも舞い降りたのですか!!」


「き、奇跡……?いや違うわ!」



 圧倒的な異能の気配に導かれるように見上げた先――


 そこには仮面を被った1人の人型生命の影があった。

 眩い輝きに包まれ、背からは菱形の翼を広げ、天空に佇むその姿......


 その正体を思いつくより早く、伝令の報が戦場に轟く。



『人類最強!! FCT序列1位――“朔月のムーノ様”ご到着です!!!』



 それはまさに天使の降臨......

 まるで外界から超常の存在が舞い降りたような、人智を超えた存在感。

 数少ない記録映像から想定していた強さを数十......いや数百段は上回る圧倒的な力の集合体......



「あれが……種の到達点“朔月のムーノ”……人類の生存権を取り戻した無敵の伝説。」


「で、ですがいくら彼女でもこの状況を一人で覆すのは……」


「そ、そうよね。シュヴェルツマン家から正式に協力要請の申し出を――」



 ――そう言いかけた時、あたしは衝撃的な光景に目が奪われた――


 空を覆い尽くすのは、数え切れぬほどの閃光と、無数の近代兵器。

 その数はもはや、測るのもバカバカしいと感じてしまう天文学的な物量。

 それらは命令を待つかのように静止し、圧倒的な破壊で怪異を押し潰す運命だけを告げていた。



「“ほんとキモイ……消えて?”」



 龍の聴覚でかろうじて拾えたその呟きと同時に、閃光と兵器が一斉に解き放たれた。

 火線は意思を持つかのように軌道を変え、追尾し、怪異を次々と殲滅していく。

 爆ぜる光、降り注ぐ弾丸、唸る砲火――その一つ一つ全てがまるで意思を持っているかのように飛び回る。



「ラナ様……私たちは一体何を見ているのですか!!これは夢ですか?ムーノ様はホントに人間なのですか!!」


「こ、これが……こんな規模が……人に許された力なの?」



 ――時間にして、わずか42秒。

 一分にも満たぬ間に、私たちが総力を尽くしてなお敗北した大行軍が、屍の山へと変わっていた。


 だが、真に恐ろしいのはその結果ではなかった。

“心眼”が告げているのだ......ムーノはまだ全力の欠片すら出していないという事実を。



「ラナ様?如何なさいました?」


「か、勝てない……勝てるわけない!!」


「ラ、ラナ様?」


「……バケ、モノ……」



 ―――そうだ思い出した。


 あたしはその日、初めて絶望を知った......


 それは死ぬよりも残酷で、しかし抉る揺るぎようのない現実でもあった。






 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!


 観測史上最大規模の怪異災害【中原大厄災】

 その中でラナと絶望させたのは怪異ではなく、一人の人間だった。

 


 次回......ラナの回想最終話です!!!


 面白い、続きが気になる!と思った方は【応援】や【レビュー】をくれると超嬉しいです!!


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