第81話 死を穿つ月光
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――可能性を閉ざしちゃダメ……
慣れ親しんだやり方に縛られてたら、この先の戦いには勝てない。
もっと自由にそして緻密に、繊細に.......私の異能を練り上げる!
「フゥー.......」
「死を前に絶望したか。所詮心は矮小な人げ....... !?」
極限の集中と力の解放.......
その限界まで研ぎ澄まされた意識の中で、彼女は己の存在そのものを練り上げる。
その強さの増強度合いは、戦いの中で成長する類のありきたりなモノではない。
それはまさにあらゆる生物種の頂点.......
天才をいう言葉さえも似合わぬ”怪物”のみが辿り着く自己進化の領域。
――目の当たりにした死の怪異は感じ取った。何かが来ると.......
「.......」
「何かが......恐れるに値する何かが来る。」
――月は満ちれば満ちるほど美しく、そして眩く輝く……
新月と繊月を経て移り変わるその姿は……かつて多くの生命が見上げた三日月。
いつかの誰かが願いを込め、ただ静かに祈った淡い光。
当たり前のようにそこに在り、誰もが言葉もなく見上げた優しき輝き。
その弧は――かつて月に思いを馳せたすべての魂の代弁として.......今、静かに堕ちる。
「今なら創れる。死さえも打ち抜く、必殺の一撃を……」
――そう言い放った直後.......
朔月のムーノの前に直径100mを超える巨大な三日月が顕現した。
「三日月……いや弓か? しかし何と不格好。その矢、まるで剣ではないか。」
三日月の形をした巨大な弓には、巨大な剣のような矢が番えられている。
昔、おじいちゃんが教えてくれた言葉を思い出す。
三日月はその形から月の剣とも呼ばれたと......。
きっとそんな私の記憶が歪み、独自のイメージとして新たな奥義を形作ったのだろう。
「月光に引き裂かれてこの世から消えて。」
「そのような稚拙な射撃! 死の奔流で押し流して……!?」
「始光.......」
矢が放たれた瞬間.......輝く三日月ははじけ消え、代わりに走る一筋の閃光が走る。
気づいた時には既に遅い。月の剣は超怪異の心の臓を貫き、胸元を深く刺し穿っていた。
「あり......えぬ......」
「やっと気が付いた? もう終わってるの。お前も少しはラナの絶望を味わえばいい。」
「我が死の行軍を貫いたか…… だが残念だったな。この程度の児戯で我は倒せぬ。」
「誰が終わりって言った? やっぱり死なない奴は鈍いね。」
「……!?」
剣矢が刺さった箇所には、既に剣の姿は存在しない。
そこで死の大怪異が目にしたのは、傷跡から溢れ出る月明りのような淡い光の粒子.......
死そのものである超怪異が感じ取る.......自らの不滅性を揺るがすほどの尋常ならざる異能の気配を。
「さよなら……あんたの上司に伝えといて? 次はお前だって。」
「おのれ朔月ムーノ……人間、いや地球の条理にさえ縛られぬ特異点が!!」
「”新共振奥義・虚月”」
「ぬぅぉぉぉぁぁぁぁ!!!」
死の大怪異の体内から突如巨大な再度三日月の刃が出現し、その肉体を真っ二つに引き裂く。
月の剣は裁きの剣......朔月に害意を持たぬ相手には癒しを与え、害意を持つ相手には裁きの刃を与える。
一度剣矢が撃ち込まれれば、決して逃れることのできない不可避の断罪である。
「……気配が残ってる? 相手が死そのものを司る存在だから?」
姿こそ消えたが、私は残る手応えに違和感を抱いた。
微かに空間の至る所に死の大怪異の気配が残っている。
しかし、今の私にはそんなことはどうでもいい.......
「ラナ、終わったよ……」
「……」
「お願い起きて、死なないでよ。私寂しいよ……」
「……」
「いつもみたいに文句言ってよ! もう雑魚ちゃんなんて言わないから……だから……!」
「……」
起きるわけがない......彼女の心臓は完全に潰されている。彼女は完全に死んでから時間が立っている。
死の大怪異の妨害は解けたものの、この状態ではもう私でさえ復活させられない。
死んだ彼女の表情は苦痛に歪んでおり、彼女にとってそれがどれだけ納得できなかったのかが伝わってくる。
「何でよ……二人で人類を守るって約束したのに。怪異の神を倒して、サクラにも正体を明かして……三人でおばあちゃんになって……それで……」
「……」
「こんな別れ方って……あんまりだよ……」
冷たい体は、いくら抱きしめても暖かくはならなかった。
かつて膨大な炎気を纏っていたとは思えないほど冷たい体に......
――私は生まれて初めて絶望の涙を流した。
――生まれて初めて、無力感に震えた。
――この時初めて......人類にとって、どれほど私が大きな希望なのか真に理解した。
――ラナを失って初めて.......ムーノという存在の価値を理解したのだ。
「ラナ……生き返ってよ……」
腕の中のラナは変わらず冷たい......私の心は今にも壊れてしまいそうだった。
サクラはこんなものに何度も耐え続けてきたのだろうか?
何度も全てを失って、それでもまだあんな笑顔で私に微笑んでくれるの?
どうしたらこんな悲しみに耐えることができるの?
どうしたらサクラのように前を向くことができるの?
私には......到底できそうにない。
――するとその時、私の背後から静かな声が響いた。
「もう一度、会いたい?」
「ルーク……様?」
――絶望に震える私の背後に.......神は舞い降りた。
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
死の超怪異 VS 種の到達点 遂に決着!!!
新たに生まれた共振奥義、それは三日月の輝きを内包する不可避の断罪!
次回!第三章最終話......降り立つ輝光の神から明かされる世界の真実?
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