第73話 最終兵器と呼ばれた少女
――朔月のムーノが不在の頃――
“朔月のムーノ”が四川省の拠点にセラフィアを送り届けていたその頃......
ラナはAクラスの教室で「怪異と退怪術士の歴史」に関する授業を行っていた。
退怪術士としても超一流の戦闘能力を誇るラナだが、その知識量も専門家の領域にある。
彼女は難解な専門分野を生徒の理解度に応じて段階的に、そして丁寧に教えていた。
――そうして、50分の授業が終わりを告げる。
「今回の授業はここまでよ。昼休み挟んで次は実技なんだから!しっかりしごくから覚悟しときなさい!」
「「「はい。」」」
「日直、終わりの挨拶。」
「……気を付け、礼……。」
「「「ありがとうございました……」」」
SSクラスとは打って変わって、Aクラスの生徒たちは皆おとなしく、礼儀正しかった。
だが――その静けさの裏に、ラナは一つ、拭い切れない違和感を覚えていた。
「何よ、あの虚ろな瞳は……まるで、生気を抜かれたみたいじゃない……」
表面的には整った態度......
しかしその奥には、不自然なほどの無感情が潜んでいた。
――やがて、生徒たちは休み時間へと移行していく。
そのなかでふと耳に入ってきたのは......あまりにも無機質な会話であった。
「お昼ご飯食べよう。」
「うん、食べよう。食堂に行こう。」
「うん。じゃあ、食堂に行こう。」
言葉の抑揚はほとんどなく、感情のこもっていない声音。
まるで脚本を読み上げる役者のように、ただ形式的に言葉を並べているだけ――
その場に漂う空気は、どこか寒々しく無機質だった。
視線を向けた生徒たちは、皆一様に淡々と歩いていく。
笑顔もなければ、会話の中に軽口や冗談もない。
ただ「行動すべきだから行動している」とでも言うように、無表情なまま教室を後にしていった。
その異様な光景を見つめながら、ラナの中で抱いていた疑念は、ゆっくりと確信に変わっていった。
この学園には、何かがおかしい。
しかもそれは、単なる生徒たちの個性や気質などでは説明のつかない明らかな“異常”。
「これは何かされてるわね……しかも朔月がいなくなってから如実におかしくなった。私だけでは脅威でないと判断したわけね……」
朔月のムーノが一時的に学園を離れた直後から、生徒は人格を入れ替えたような態度を見せ始めた。
まるで統率されたロボットの群れだ。そこに“個性”は存在しなかった。
さらに他のクラスで授業をしていたはずの教師たちの姿も、どこにも見当たらない。
校舎の中にはラナと生徒たち以外、一人の教育者の姿すらなかったのだ。
そう――気づけば、彼女は完全に孤立させられていた。
「あたしを舐めてるってわけね……」
――その瞬間、隣接する別の学び舎から異様な気配が放たれた。
それは怪異でもなければ、ただの人間とも違う。
何か別の“存在”が、あからさまにラナに対して敵意と殺気を向けていた。
「な、何よこの殺気……まさかあたしを挑発でもしているつもり?」
むき出しの敵意......それも、まるで嘲笑うかのような自信に満ちた殺気。
纏わりつくような殺気は“来い”と言わんばかりに、堂々と、ラナに向けられているのだ。
ラナは一瞬、立ち止まる。この状況で軽率に飛び込むべきではない......朔月の帰還を待つべきだと。
しかし――その考えが浮かぶタイミングを狙うかのように、別の気配が旧校舎から漏れ出した。
「この気配……まさか寒熱のレイ?」
それはあまりに弱く、どこか無理やり引き出されたような、不自然な“誘い声”。
状況から見てもそれが彼自身の意思ではなく、何者かがその気配を利用したということは明白だ。
「やっぱり……囚われてるのね。これはあたしへの罠かしら?」
ラナは眉をひそめる。状況は明らかだった。
これは彼女一人を誘い出すために仕掛けられた罠.......冷静に見れば、飛び込むのは自殺行為。
理性が警鐘を鳴らす。自らネズミ捕りに飛び込むのはベストな選択ではない......と。
「はっ……あたしは何ビビってんのかしら!!こんな所で立ち止まって朔月を超えられる訳ないんだから!」
しかしそんな状況とは裏腹に、ラナは唇を噛み足を強く踏み締める。
隠す気のない敵意と殺気は、それが彼女への罠であることを物語っていた。
ラナ本人もそれは理解していたが......彼女は躊躇なく炎龍の翼を広げた。
「一応、朔月に位置を知らせてっと……よし!」
抜けそうになっていた気概に火をともし、彼女は宙に舞い上がる。
退怪術士、序列2位”千斬のラナ”......朔月のムーノがいない世界線において””人類の最終兵器””と謳われた少女。
彼女は決して逃げない......決して曲げない......決して挫けない......
死が彼女の意識を閉ざすまで、ひたすらに高みを目指して昇り続ける炎龍。
――それが人類の至宝”千斬のラナ”なのである。
「上等!乗ってやろうじゃないの!!」
――それが朔月のラナを封殺する為の、壮大な撒き餌であることも知らずに......
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
ムーノがいなくなった瞬間......変貌した学園。
そしてついに囚われの”寒熱のレイ”への足掛かりが出現し......
次回......罠にかかった炎斬龍が見た衝撃の光景とは?
面白い、続きが気になる!と思った方は【応援】や【レビュー】をくれると超嬉しいです!!




