第72話 無垢の天使
――朔月のムーノ 中国『四川省地下拠点』――
金属の装甲に覆われた巨大な軍事施設。
そこはまるで近未来の要塞のようで、整然と並べられた試作型の戦闘機が重厚な存在感を放っていた。
この場所は、私が活動を開始した初期に設計・建造した地下拠点。
言ってしまえば黒歴史そのものだが......
いずれの機体も一般的な戦闘機に比肩、あるいはそれ以上の性能を持つためいまも保管対象となっている。
決して華美ではないが、実用性と堅牢性を重視した私らしい設計だ。
「凄い、ここがムーノ様の拠点なんですね。これが世界最強……」
「ここにある武器は全部失敗作なんだけどね? ここは拠点というより格納庫でシェルターとしての防御性能は高いかの。だからここを選んだ。」
格納庫を抜け、私はすぐ近くの隔壁扉を開いた。
その先にはまったく趣を異にする空間が広がっていた。
居住空間――そこは先ほどの冷たい金属空間とは一転して、木目調の温かみある内装が施されていた。
やわらかな間接照明と無垢材の家具が調和し、まるで山小屋のような穏やかさを漂わせている。
ベッドやシャワーといった生活設備はもちろん、私がかつて徹夜の深夜テンションで作った小さな釣り堀まで完備だ。
「私これからここで暮らしていいんですか?」
「そうだよ?しばらくはここがお家になるの。好き使っていいけど、一つだけお約束を守って欲しいの。」
「お約束?」
「居住空間から絶対に出ないこと。それと誰が来ても居住空間と格納庫を繋ぐ扉は絶対に開けないこと。」
「もちろん守りますけれど……どうしてですか?」
「居住空間は格納庫より、さらに厳重なシェルターになってるの。それにここに入れるのは私だけ。もし他の人が来たり扉から私の声が聞こえても、絶対に開けちゃダメだよ?」
「は、はい!」
彼女の素直な返事に、私は微笑みながらうなずいた。
ちなみに、この四川省地下拠点が外敵に突破されたことは一度もない。
この拠点に限った話ではないが私の基地は物理的な防御はもちろん、異能やあらゆる科学技術に対しても徹底した対策が施されている。
とくにここは怪異の神と交戦した以降に、大規模な強化改修を施した拠点だ。
現存する私の拠点の中でも、最上級の防御性能を誇る。
とはいえ――相手が「想定を超える何か」であった場合に備え、油断はできない。
万が一に備え、セラフィアの安全確保は何よりも最優先事項だった。
「お約束はそれだけ。あとは何しても大丈夫。他に何かある?」
「このベッド使っても……いいですか?」
「眠いの?いいよ自由に使って? 冷蔵庫の中身も勝手に食べていいからね?」
私が言い終えるより早く、セラフィアはふわふわの羽毛布団の中へと滑り込んでいった。
あまりにも自然な動きに、私は思わず笑ってしまう。
その姿からは凄まじい親近感を覚える......サクラっていつもこんな気持ちなのかな?
「うへぇ……フワフワだぁ。」
「あ、あと一つ言い忘れてたけどこれから私のことはその……お姉ちゃんって呼びなさい。」
「ぇ、え?……お姉様?」
「お姉ちゃん。」
「えと……お姉さん。」
「お姉ちゃん。」
「ぅぅ? お、お姉ちゃん……」
「今後お姉ちゃんって呼んでくれないと返事しないからね?」
「ふぇ?」
くっ……何この感覚……!
いつもは私が甘える側で年下扱いされることが多いのに、これは……!
人に甘えられるのって、こんなにも優越感あるものなの!?
こ、これはこれで悪くない――いや、むしろ最高では?
新鮮な感動に心の中で小さくガッツポーズをしつつ、私はそっと微笑んだ。
「そろそろ私はラナの所に戻らなきゃなの。一人にしてごめんね……」
「お気になさらないでください……今まで私、お世辞にも良い生活はしてませんでしたから。」
「え? そうなの? SSクラスなのに?」
「はい……ずっと雑用でしたから! 個室も使うなって……だからベッドで寝るのも久々なんです。」
戦闘中、他のクラスメイトの態度を見ていて、何となく嫌な予感はしていたけど……ここまでとは。
まさか個室まで奪われていたなんて、教師は何をしていたの?
人格を貶すだけでは飽き足らず、尊厳さえ否定するつもりだったの?
「そう。あのSSクラスの奴ら、もう一回くらい半殺しにしとくから安心して。」
「いえ!それはやめた方がよろしいかと……」
「ちょっと、いい子すぎでしょ……」
「?……そんなこと無いと思います。」
ああ、そうか……
この子、自分がどれだけ綺麗な心を持ってるか、まったく自覚していない。
ラナやおじいちゃんとはまた違うベクトルで、とてつもなく善良な存在だ。
「それはとりあえず置いといて。私、行くね。もしかすると何日も帰れないかもだから……」
「お、お姉ちゃん!」
「どうしたの?」
「い、いってらっしゃい! 気をつけてね……」
「!?……いってくる。」
は、はぁ……何それ、可愛すぎる……
人類最強の朔月のムーノが、まさか「いってらっしゃい」と言われて感動する日が来るとは。
どこかで硬くなっていた私の心が、ふっと緩んでいくのを感じる。
これまで数えきれない命の重みを背負ってきた私に、
何の打算も裏もなく「気をつけて」と言ってくれる存在が現れるなんて――
……この際、事件が解決しても彼女にここで暮らしてもらおうかな?
そんな甘ったるい思考すら、ふいに心をよぎった。
そうして私は彼女を拠点に残し、再び学園へと舞い戻ることになる。
これがこの先、私の運命に大きな影響を与えるセラフィアとの関係の始まりだった。
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
ほのぼのとした空気の中、セラフィアを迎え入れたムーノ
しかし彼女が去った学園には血なまぐさい匂いが??
次回......動き出す学園、そしてラナの判断とその結末とは?
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