第69話 最強の異能
私は膝をついて、彼女を優しく抱きしめた。
「辛かったでしょ……」
「……ム、ムーノ様?」
「それは誰も信じられなくなる異能……こんな学校に入れば、なおさら。 だからクラスメイトにも完全鑑定のことは隠してるんでしょ?」
「そ、それは……」
彼女の異能――完全鑑定は、単なるステータスの確認にとどまらない。
相手の本性、過去の経歴、心の奥底にある打算や偽善まで見透かしてしまう能力だ。
それがどれほど残酷なことか……私は理解できる。
この異能を持つ限り、表面上は親しく見える人間の嘘や打算が、嫌というほど分かってしまうのだ。
特にこの学園のような環境では利用しようとする者、偽りの友情を装う者が後を絶たないだろう。
周囲に純粋な善意を持つ人間がいない環境で育てば、使えば使うほど心が摩耗していく異能……
それが彼女の持つ完全鑑定だった。
「私はどう見える?」
「ムーノ様は……いい人です。」
「それは良かった。この世は悪人だらけじゃない。だから、安心していいの。」
「私……ムーノ様まで打算まみれの悪い人だったらどうしようって……誰を信じたらいいんだろうって……でも鑑定してムーノ様がいい人って分かって、それで......」
彼女の声が震えたかと思うと、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
どれほど孤独だったのだろう......どれほど、人を信じることができなかったのだろうか。
私にはおじいちゃんがいた。心から私を思ってくれる存在が、ずっとそばにいてくれた。
だけど彼女にはきっと、そんな心を許せる相手がいなかったのだ。
「大丈夫……そんなに怯えないで。」
「ムーノ様は……信じてた人が悪人だったらって思ったら、怖くないんですか?」
「私はそこまで異能を信用してない。これだけは覚えておいて? 異能は自分で操る武器で、振り回される枷じゃないの。」
「自分で操る武器……」
異能――
それは一万年のホモ・サピエンスの歴史の中で、ほんの五十年前に突如として現れた未知の力。
確かに、怪異を討つためには必要不可欠な武器だ。
だが人間がそれに狂依存し、それが示す価値基準に盲目的に従うようになってしまったら......もはやそれは人間ではなく、異能の奴隷に過ぎない。
「それにしても……その性格でどうやってSSクラスまで登ってきたの?」
「……”存在改変・武器錬成”です。この異能は、あらゆるものを武器に再創造できるんです。生き物であっても、死んでいれば武器に創り変えられる異能なんです。」
「なるほどね。隠してるけど、あなたが大量の指輪やネックレスを着けているのは、そういう理由なんだ。」
「はい……他の人が倒した怪異の死骸を武器化したり、その……」
彼女の言葉が少し詰まる。
「……退怪術士の死体からも、武器を錬成したってことね。」
―――これは、人類に新たなる革新をもたらす、驚異的な異能だ。
似たようなものとして、現在ナンバーズや上位退怪術士が使用する”専用異装”がある。
しかし、この専用異装には二つの大きな問題がある。
まず、製造の難易度が極めて高い点だ。
専用異装は、一定以上の強さを持つ怪異の死骸からしか作れない。
さらに、怪異の死骸は死後すぐに光の粒子となって消滅するため、細胞を採取は討伐直後以外不可能だ。
そのため近くに採取専門の退怪術士が待機している必要があり、加えて戦闘が終わるまで殺されずに生き残らなければならない。
次に、退怪術士への負担だ。
怪異の細胞を取り込むという性質上、人体への影響は甚大なのだ。
人間の肉体を破壊し、一部怪異の細胞を取り込む必要があるため、長時間、長期間の使用は人体を確実に蝕んでいくのだ。
さらに、そこまでの犠牲を払ったとしても、専用異装の恩恵は限定的であり、あくまで戦闘補助としての役割にとどまる。
しかし......この少女の”存在改変・武器錬成”は、そうした専用装備の問題をすべて解決できるかもしれない。
戦闘向きではない異能を持つ彼女が、装備の力だけでSSクラスに名を連ねていることこそが動かぬ証拠だ。
さらに、この異能を使えば、死んだ退怪術士を新たな武器として再構築することも可能になる。
これは退怪術士の常識を覆すどころか、怪異と人類の戦力バランスを一変させるを可能性を秘めている。
――すると、彼女が口を開いた。
「少し違うんです……私、怖くて退怪術士の死体を武器にしたことはないんです。できるとは思いますけど......」
「ま、まさか生きた退怪術士を!?」
「……親友だったんです。私と同い年で、この学校に一緒に入学して……でも実践授業で怪異から私を庇って彼女は蒸発した......ってことになってるんです。」
「何があったの? 興味本位で試してみたわけじゃないでしょ?」
先ほどから、彼女の言葉には悲しみがにじんでいる。
恐らく、望んでやったことではないのだろう。
だが、その中に絶望や憎しみは感じられない……まるで、強い覚悟を持っているかのようだった。
「私を庇って、絶対に助からない傷を負ったんです……私の異能を唯一打ち明けていた彼女は、死ぬ直前にこう言ったんです『あなたの武器になりたい』って……」
「……彼女は、死んだ後もあなたの力になれるのなら、それでいいと思った……そういうこと?」
「はい……ダメ元でやったら、できてしまったんです。それが、このペンダントなんです……」
彼女は首元のペンダントをそっと握る。
そこには、親友だった少女の意志が宿っているのだろう。
「具体的には、どんな性能を持っているの?」
「彼女の異能が”熾天使の戦装”という超強力な異能で……それを、装備所有者である私が異能共振も含めて使えます。」
「え......?」
「あと、彼女の異能以外の技能も......色々使えます。」
「はい......?」
私は息を呑んだ。
異能を"武器"として使用するだけでなく、他者そのもの受け継ぐことができる異能……
それはもはや単なる戦闘補助ではなく、存在の継承そのものだ。
もしこれが完全に応用可能になれば……
死した退怪術士たちの力を次世代へと受け継がせることができる。
――すなわち、人の持つ強さがほぼ不滅となるのだ。
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
心優しき少女の異能は、朔月のムーノの”模倣”に勝るとも劣らない最強の異能。
人類と怪異のパワーバランスを崩しかねない異能に、ムーノはある決断をする?
次回......”存在改変・武器錬成”の詳細判明?果たしてその異能のポテンシャルは?
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