65話 天上学舎”SSクラス”
――ラナを降ろした後……私は後部座席に座ったまま、窓の外に広がる景色を眺めていた。
まるで宮殿のような学園は、荘厳で圧倒的な存在感を放っている。
だが、それと同時に、学び舎としては行き過ぎた豪華さにも感じる。
過剰な装飾、必要以上に広大な敷地、そして厳重な警備……その全てに違和感は募るばかりだ。
そんなことを考えていると、運転手が口を開いた。
「ではムーノ様には、我が校で最も優秀な生徒が集まる“SSクラス”の生徒を紹介しましょう。」
「車からは降りなくていいの?」
「SSクラスは“天上学舎”という完全孤立した学び舎にいます。通常の講義室や訓練場といった概念は、彼らの才能を縛り付ける枷にしかなりませんので。」
「ふーん。そんなに強いの?」
「えぇ、もちろん。将来的にはナンバーズ……いえ、ラナ様を超え、ムーノ様に並ぶとされる逸材もいるほどです。」
「私に? 聞いたことないけど?」
「色々と事情がありまして……世間には彼らのことは伏せております。」
彼ら……?少なくとも、そんな逸材が複数人いるということか。
もし本当にそんな実力者がいるのなら、どうしてロンドンに子爵級の怪異が出た時、私を呼んだのだろう?
ここに住んでいるのなら、数分の距離だったはず.......駆けつけられたはずなのに、なぜ彼らは傍観していたのか?
――違和感が拭えず、私はストレートに問いかけた。
「そんな逸材なら、どうしてロンドンに怪異が侵入した時に傍観させてたの?」
「将来的には、という話ですので、子爵級などまだまだ。それに、あの時は遠征授業でインドへ行っておりました。」
「インド? 何でわざわざ、そこまで出向いて遠征するの?」
「何か……おありなのですか?」
「いえ、そういうわけじゃない。ただ、あの辺には要塞都市が少ない。遠征には適さないはずだけど?」
FCT本部のあるヒマラヤ山脈は、インドの隣のネパールにある......
その正確な座標を知るのは、ナンバーズや限られた人物だけなのだ。
もしかして……彼らはFCT本部の位置を探し回っている?
もしそうだとすれば、一体何の目的で……?
私がそんな考えを巡らせていると、車が減速し、運転手が再び口を開いた。
「危険だからこそ、価値があるのです。とにかく到着いたしました。ここがSSクラスの生徒が暮らす、この世の楽園……“天上学舎”です。今、ドアをお開けいたします。」
「どうも。」
「では改めまして、ようこそ天上学舎へ。私はこのクラスの担任、FCT序列671位ハミルトンと申します。」
「ただの運転手じゃなかったわけね?」
退怪術士認定序列671位……
それはFCTの中でも上位に位置する実力者を意味する。
FCTが保有する退怪術士はピーク時には1万人を超え、そのうち序列300位圏内が“最上位退怪術士”と呼ばれる。
そして、序列は直近二ヶ月の実績、戦闘力、異能の強さによって決められるシビアなランク制度だ。
この男は教師として半年近く前線を離れているはずなのに、未だに671位に留まり続けている……
つまり、それだけの実力を持っているということだろう。
「紹介が遅れて申し訳ない。それにしても、どうです? とても室内とは思えないでしょう?」
「確かに。でも、ほんとにここまでするほどの人材なの?」
「もちろん。SSクラスは9人しかおりませんが、全員が次世代のナンバーズになれる才を秘めた“超天才”たちです。持っている異能の強さだけではありません。判断力に対応力、異能の練度……そして経験に至るまで、すべてが学生の域を超えている“怪物”たちです。」
「ふーん?」
私の目の前に広がっていたのは、まるで屋上庭園のような空間だった。
美しい花々が咲き乱れ、頭上には透明な強化シールドのドームが広がっている。
そして華やかな装飾が施されたテラスまで完備され、まるで貴族の社交場のような雰囲気さえ漂っていた。
……これは“学ぶ場所”というより、“閉ざされた庭園”だ。
あまりに過剰なこの環境が、彼らの精神にどんな影響を与えているのか……。
こんな場所に閉じ込められて、彼らが自分を“選ばれし者”だと勘違いしてしまわないかが心配だ。
大抵の場合。上級怪異の前では人間など羽虫にすぎないのだから.......
「この度はSSクラスを、ムーノ様のご指導で更なる高みへと導いて欲しいのです。」
「寒熱のレイでは力不足だった?」
「いえ、寒熱のレイ様はまた別のクラスを担当しておりましたので……ですが、SSクラスの生徒が増長してしまっていることは否定いたしません。」
「増長ね……こんな扱いされれば仕方ないんじゃない? で? どこに行けばいいの?」
「はは、お厳しい。ではご案内いたします。」
「あっ……こっからは歩きなんだ。」
庭園のような場所を進むと、少し先から人の気配を感じる。
7人……いや、上手く隠れている気配も含めると、9人強力な波動が伝わってくる。
……彼らが、SSクラスの“超天才”たちというわけか。
「皆さん! 今日から2週間、臨時で皆さんの講師を務めることになった人類最強『朔月のムーノ』様です。たくさん学び、吸収できるように努めてくださいね。それではムーノ様、ご挨拶をお願いいたします。」
私は一歩前に出ると、簡潔に自己紹介を始めた。
「FCT所属、退怪術士序列一位“朔月のムーノ”。とりあえずよろしく。」
……しかし、誰一人として挨拶を返してこなかった。それどころか場の空気が沈黙に包まれる。
「……」
「ムーノ様、あとはお願いします。やり方はお任せいたします。」
……ん? ちょっと待って。
私、今ちゃんと挨拶したよね? なのに、誰も私に挨拶返してこないんだけど!?
もしかして舐められてる?
いやいや、私だよ? “人類最強”だよ? “種の到達点”だよ?
外を歩くだけでキャーキャー言われる人類勝利の象徴なんだよ?
なのに、こいつら、まさかの“無視”!?
唖然としていると、高い場所から一人の男子生徒が飛び降り、私の目の前に立った。
無造作に逆立てられた青髪に、挑発的な目つき。
――その口元が歪むと、開いた口から出たのは……
「おい、クソ先公。」
「???????」
……え?
今、何て言った?いや.......まさか、聞き間違いだよね?
クソ先公って、私のこと!?人類最強の“朔月のムーノ”を捕まえて、クソ先公……!?
そんなことを思っている間にも、青髪の生徒は続ける。
「人類最強だかなんだか知らねぇが、調子乗んなよ? どうせ俺様の方が強ぇんだからよ。」
「.......は?」
ここ十数年......こんな態度を取られることがなかったから逆に新鮮。でもそれと同時に、無性にムカつく。
私の表情が険しくなったのを察したのか、隣にいたピンクと紫のツートンヘアの少女が、クスクスと笑いながら口を挟んだ。
「ちょっと~ミルコ、言い過ぎぃ~? いくら異能第一世代でも、現世界最強だよ? 失礼でしょ~?」
「うるせぇよ、ビッチ。てめぇ、また髪の色変わったろ? ピンクと紫なんて気色ワリィんだよ。」
「は~? ぶち殺されたいん~? 数日前のウチとは違うよ?」
……クソ先公。いや、ほんとに私のことだった。
まさかこの地球上に、まだ私に舐めた態度を取るやつがいるなんて。
まあいいか......どうせ私の方が強いし?それよりも気になったのは、さっきの言葉だ。
“異能第一世代”?
長年、最前線で退怪術士をしてきたが、聞いたことのない言葉なんだけど.......
考えていると遠巻きに見ていた一人の美少女が、おずおずと口を開いた。
「あ、あのぉ。喧嘩は良くないと思いますぅ……いくらなんでも初対面の人に失礼です!」
「あぁ? 9位のカスが、3位の俺に口答えしてんじゃねぇよ!」
「で、でも……その人のおかげで、今の人類が栄えてられるんですから……」
「は? んじゃ、なんでまだ怪異は跋扈してんだよ。こいつが怪異の神に辿り着けねぇからだろ? なぁ!? 前も怪異の神取り逃がしたしよぉぉ! 人類最強も大したことねぇな!!」
……あぁ。こいつダメだわ。
ボコボコにして、格の違いを分からせてやらないといけないタイプだ。
あとこれあれだ......いつぞやにサクラが言ってたやつ。
......そうだ思いだした!!
「あんたもしかして……イキリ陰キャ?」※違います
「あぁぁぁ!? 舐めてんのかテメェ!! ぶち殺すぞ!!!」
ミルコの顔が怒りに歪む。
その周囲に、紫色の電流が弾けるように放出され、バチバチと空間を震わせた。
まるで、獲物を見つけた猛獣のように……いや、違う。
これは単なる“負けず嫌いの子供”の噛みつきだ。
純粋な殺意ではなく、自分のくだらないプライドを守るための威嚇。
そんな幼稚な態度は、前線で多くの死を目の当たりにした私には、なおさら“滑稽”に映った。
――私に放たれる初々しい威嚇と共に、”SSクラス”の初授業はスタートした。
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
学生の範疇を超えた待遇......耳にしたことのない”異能第一世代”
生意気な態度を取る生徒を前に、早速戦闘が起こりそうな雰囲気に......
次回......”人類最強”vs”SSクラス” 開戦!!
面白い、続きが気になる!と思った方は【応援】や【レビュー】をくれると超嬉しいです!!




