第58話 不屈の心と鋼の意思
――不屈のゼルスの話が終わった病室には、静寂が満ちていた。
重苦しい空気が漂う中、やがて沈黙を破ったのは月乃だった。
「おじいちゃんの異能は……おじいちゃんの奥さんからもらったものだったの?」
「今となっては分からぬ。異能は受け渡せる類のものではない……なぜ妻が異能に目覚めたのか、今となってもよう分からんのじゃ……」
「きっと奇跡だよ。だって、人間で初めて異能に覚醒した人だよ? 奇跡の一つや二つ起こせてもおかしくないと思うの。」
「そうじゃな……とにかく、ワシは退怪術士を引退するつもりはない。」
「ぬぅ……でも......」
不屈のゼルスは、優しい眼差しを湛えながらも、静かに言い放った。
その圧倒的な貫禄の前に、私は言葉を失う。すると反論できずにいる私を見かねて、千斬が助け舟を出してくれた。
「なに不幸ぶってんのよ。そんな話、珍しくもなんともないんだから。それにそんなもの、あんたを求めてくれる朔月を蔑ろにする理由にはなんないわよ。」
「だからこそじゃ。そんな話が珍しくない世の中だからこそ、ワシは戦い続ける。」
「無駄死にが良いこととは思えないわね? あなたが戦う理由にはならないんだから。」
「無駄死にを良しとするのが今の退怪術士じゃろう? お主……月乃に肩入れしておるだけじゃろ?」
「ぐっ……痛いところ突いてくるわね。伊達に年寄りじゃないわ。」
私は、昔からおじいちゃんに口で丸め込まれてばかりだった……
唯一真っ向から反抗したのは、三歳の時、ベルリン要塞都市に赴いた時くらいだろうか。
「えぇそうよ! 肩入れしてるわ! それの何が悪いの?」
「……それは退怪術士として致命的な弱さになるぞ?」
「あたしたち子供はいつだって、大人の想像を超えていくのよ。凝り固まった常識で測らないで欲しいわ。」
「ほう? ではどうワシの想像を超えるというのじゃ?」
「簡単よ、朔月を超える。私の目標は退怪術士になった時から、それだけよ?」
しかし、その言葉を聞いたおじいちゃんは、少し懐疑的な表情を浮かべた。
長年おじいちゃんに育てられた私には分かる……おじいちゃんはラナの見通しが甘いと感じているのだ。
「世界最強になってどうする? その後は何が残るというのじゃ?」
「バカなの? どうして意味がいるの? そんな複雑にしないで欲しいわ。」
「……何じゃと?」
「あたしはね……勝ちたいの。ただただ朔月に勝ちたいの。何にも負けたくないの。理由はそうね……悔しいからよ!」
「フ……フハハハハ!」
「お、おじいちゃん?」
長く一緒に暮らしてきたけど、おじいちゃんが笑うのを見たのは久しぶりだった……
でも、なんとなく分かる気がする。上手く表現できないけど、今のラナの言葉には、偽りも綻びもない。
――ただ、意思の強い人間にしかできない発言……。
「千斬よ……おぬし、本物じゃな。月乃が正体を明かした理由が分かったわい。」
「当然よ。あたしは退怪術士序列二位、”千斬のラナ”。いずれ朔月のムーノを超える術士よ?」
「では千斬よ。退怪術士として頼もう……月乃を頼むぞ。」
「頼むじゃないのよ、何話逸らしてるの? 老人は大人しく引退しなさい。」
「それは断るわい。」
「っぁぁもう! メンドクサイわね!! 朔月があんな風に育った訳が分かってきたわ!」
おじいちゃんは頑固だ……一度決めたら、テコでも動かない。
どれほどの苦難が待ち受けていようと、己の信念を貫き通す。
――でも何だろう……似た人を見たことがある気がする。
行き過ぎた思いが、逆に呪縛となってしまっている人間を……
しかし、思い出す間もなく──
「ならその四肢……ここで切り落としてあげるんだから。」
「な、何言ってるのラナ!!」
――ラナは不可視の刃を病室中に展開し、おじいちゃんの四肢を捕捉した......
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
断固として引退しないゼルス......
何とか引退させたい月乃の意思を尊重し、ラナは強硬手段に出る!?
次回、折れることのない二人の衝突はいかに!?
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