表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/94

第57話 異能人間の誕生




 ――1999年12月31日 午後11時26分、熱海――



 美智子と日美が異形の化け物に遭遇している頃......

 木守健一は星の美しく輝く浜辺で、仕事の電話をしている最中だった。



「あぁ。その地域は……」


『キャァァァァァァ!!』


「み、美智子?」



 男の顔から、瞬時に血の気が引いた。

 木守健一は即座に電話を切り、近くに転がっていた流木の枝を手に取り、全速力で駆け出した。



「美智子! 日美!!」



 足元を蹴りつけながら疾走する健一.......

 するとすぐに視界の先に、人影らしきものが見えた。



「お父さん!!」


「日美!!」


「おと……」



 その声が、不吉にも途切れた。

 そして、次の瞬間──人影が、地面へと吸い込まれるように消えた。


 健一の脳裏に、最悪の可能性がよぎる。

 それを必死に打ち消しながら、彼は何度も娘の名前を叫んだ。



「日美! 返事をしろ、日美!!」



 たった十秒間の疾走。

 しかしその僅かな時間で、最悪の予想は現実となって彼の眼前に現れた。



「誰だ……誰が俺の家族を……」



 目の前には──


 胴体から上が消失し、血溜まりに横たわる娘の姿があった。

 そのすぐ側で、異形の怪物が娘の頭らしきものを噛み砕きながら、ベキ、バキ……と忌まわしい咀嚼音を響かせていた。



「ゔぅ、ゔゔぁ、ゔぅぉぁぁぁぁぁぁ!!!」



 生まれてこの方、一度たりとも感じたことのない憎悪が、健一の全身を焼き尽くす。

 視界が赤く染まり、理性の全てが怒りへと塗り潰されていく。

 健一は、考える間もなく、怪異へと飛びかかり、手にしていた立木を、その眼窩へと突き刺した。



「殺す! 貴様だけは絶対に殺す! 貴様だけは絶対に!!」


「グギギ? ギヒヒヒヒ。」


「侮るな……俺には、シベリア抑留を生き抜いた祖父から受け継ぐ、鋼の心臓がある!」


「ギィィ?」



 ――そこから先の出来事は、よく覚えていない……。


 ただ、胸の奥を焼き尽くすような怒りが支配し、思考は途切れ、世界が赤く染まっていった。


 気がつけば、目の前には──

 原型を留めぬほど粉砕された怪異の死骸が転がっていた。

 肉片すら判別できないほど引き裂かれ、叩き潰され、辺りには生臭い血肉の臭いが充満していた。


 ――自分が、どうやってこれを殺したのかすら、思い出せない。



「美智子……」



 切り刻まれた肉体、抉られた頬肉。

 あらゆる負傷を無視して、健一は駆け出した。


 彼の足を動かす唯一の理由──

 それは、美智子がまだ生きているかもしれないという、最後の希望だった。



「頼む……生きていてくれ。」



 そして、公園に差し掛かった彼が見たものは──


 サメのように鋭い歯を持つ怪物の死骸。

 その傍らで、血だまりの中に横たわる最愛の妻。



「美智子ぉ!!」


「あ……なた?」


「そうだ。俺だ……」


「そう……ですね。」



 すでに助からぬほどの致命傷だった。

 内臓が露出するほどの傷.......失血により、顔は青白く変色している。

 全身に無数の引き裂かれた痕が刻まれ、足には怪物の巨大な牙が食い込んでいた。



「俺の家内になんてことを……」


「あなた……日美は……?」


「あぁ。大丈夫だ……ホテルに逃がした。」



 ──健一は、嘘をついた。

 少しでも心残りなく美智子を逝かせるために.......


 しかし、20年近く連れ添った最愛の妻が、不器用な健一の嘘を見抜けぬはずがなかった。



「そう……そうなのですね。日美はもう……」


「すまん……」


「私たち……親、失格ですね。ここで……死ぬ私は、妻としても……」


「もういい、言うな……」



 健一は、あまりに悲痛な妻の言葉を遮った。


 これ以上、彼女が自分の無力さを悟ることがないように──

 たとえ、それが無意味な慰めであったとしても。



「あなた……寒いです……」


「あぁ。すまんな……気が利かなかった。」



 健一は、美智子をそっと抱きしめた。

 彼女の震える身体が、少しでも温まるように──。



「暖かいです……」


「あぁ……」


「あなた? 私……飛べるように……なったん、ですよ。」


「あぁ、そりゃ……いいな。」


「でも、私……許せません……」


「あぁ……俺もだ。」


「日美の仇……お約束……ください、ますか?」


「あぁ……任せろ、必ず......」



 母の愛より大いなる愛はなく、

 子を失った母の苦しみより深い絶望はない──


 かつて、ある偉人が残した言葉だった。



「この力……私たちで……日美の……」


「……これは!?」



 次の瞬間、溢れんばかりの力が、健一の全身を駆け巡った。


 彼は理解した──


 目の前の怪物が死体となった理由を。

 自身が倒した怪異よりも強大な存在を、非力なはずの美智子が討てた、その理由を。


 ──人類史上、初めての異能者は、健一の妻・木守美智子であったのだ。



「あとは、頼みます……」


「うん……」


「健一さん……見て、ください……花火、ですよ……」


「あぁ……そうだな、美智子……」


「……」


「美智子? ……美智子!」


「……」


「皆殺しにしてやる......」




 ――1999年12月31日 午後11時49分

 木守健一の娘・日美、外的圧力による頭部外傷により即死。


 ――2000年1月1日 午前0時1分

 木守健一の妻・美智子、腹部からの大量失血により死亡。


 その日──

 後に『不屈のゼルス』と呼ばれる男が誕生した。

 人類史上初めての退怪術士の誕生である。



 ──皮肉なことに、この凄惨な事件は後の人類にとって大きな転換点となった。





 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!


 1999年最後の日......木守健一は全てを奪われた。

 家族を奪われた父の憎しみと、娘を殺された母の怨念は人類最初の退怪術士を生み出した。


 半世紀の時を経てなお色褪せぬ、老兵の憎悪の結末とは......


 面白い、続きが気になる!と思った方は【応援】や【レビュー】をくれると超嬉しいです!!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ