第55話 人類最強、駄々をこねる!
――エベレスト、FCT本部『要塞世界ダルネス』:ナンバーズ専用医療施設内――
「ワシは......助かったのか?」
「もうすぐお孫さんのムーノ様もお越しになりますよ?ゼルス様。」
「そうか......あの子が。復帰までどれくらいかかる?」
「ゼ、ゼルス様......お言葉ですがもうお休みになられては?今はムーノ様やラナ様だっていらっしゃいます......ゼルス様はこれまで誰よりも人類に貢献してまいりました。そろそろご隠退も......」
「断る!ワシは人類最初の退怪術士、不屈のゼルスじゃぞ?」
引退?ワシが? そんなバカな話があるものか。
可愛い孫娘が戦わねばならぬ世界で、ただの老人になれというのか?
例え誰に何を言われようと怪異を皆殺しにするまで、ワシは退怪術士を辞める気はない。
「ご報告にございます! ムーノ様、ラナ様! ご到着です!!」
「ん、ラナ?千斬のことかの? ワシの見舞いに来るわけもないはずじゃが......」
「では私はこれにて......一日も早いご回復心よりお祈り申し上げます。人類抵抗の象徴、不屈のゼルス様。」
「敗北の象徴の間違いじゃろう。まぁよい......決して誰も入れるでない。近づくことさえ禁ずる!」
「承知いたしました!全職員に徹底させます!」
看護師が出て行った数十秒後、病室が開き勢い良く孫娘が入ってきた。
「おじいちゃん!!」
「おぉムーノよ!負担をかけたのぉ......それで?後ろの千斬どういう風の吹き回しじゃ?」
「おじいちゃんごめんなさい.......私、言いつけを破って正体を話したの......」
「なんと!?」
あの月乃が他の退怪術士に正体を明かしたじゃと!?
一体ワシが寝ている内に何があったのじゃ。
「そういうことよおじいさん?これから私達は更に連携を強めることになったわ。」
「月乃の判断じゃ、それは良いわ。じゃが月乃......千斬を連れてきた理由、単に紹介したいだけか?」
「え?うんそうだよ?」
「おぉい、相変わらずおぬしは......」
単に友達を紹介したかっただけなんかいな......どこまで無邪気なんじゃ月乃よ。
そんな素直なおぬしが退怪術士を続けることが、どれだけ危うい道か分かっておるのか?
「おじいちゃん、引退して......」
「そういうと思っておったぞ。じゃが断る。」
「もうおじいちゃんじゃこの戦争にはついてこれない! 私の異能でも完全には治せなかった......次戦ったら死んじゃう!おじいちゃんはもうナンバーズの実力も無いんだよ!!」
「分かっておるわ。じゃが断る。」
「引退して!あとは私に任せてよ!残される私の気持ちも考えてよ! おじいちゃんが死んだら私......」
「分かっておる。その上でワシは術士を続けるのじゃ。例えナンバーズで無くなったとしてもな。」
月乃や……お主の気持ちは痛いほど分かるぞ。
大切な者を失ったことがないからこそ、余計に恐ろしいのじゃろうな。
その恐怖がどれほどのものか、失い続けたワシには痛いほど理解できるわい。
しかし、それでもワシは退怪術士を続けねばならん。
もしワシがここで潰えるのなら、それはお主が乗り越えるべき試練なのじゃ。
「おじいちゃんの頑固! 死んだ人は私の異能でも生き返らないんだよ!!
おじいちゃんが死んじゃったら、怪異の神を倒したあと、誰が私に普通の生き方を教えてくれるの!!」
「いや、それはワシじゃなくて、サクラちゃんやらで良いじゃろ……わしは昭和しか教えられん。」
「やだ!おじいちゃんに教えてもらうの!ヤダヤダヤダヤダヤダ!!」
「駄々をこねるでない……」
もし本当にその気なら、四肢の腱を切り落としてでも止めればよいものを......
力づくで止める方法などいくらでもあるじゃろうに、そんな発想思いつきもせんあたり優しい子じゃわい。
「あ、あたしは......何を見せられてるの?」
「すまんな千斬よ。お主には感謝しておる。
お主が寝る間も惜しみ、怪異を討伐するおかげで、この子はかろうじて学校に通えるのじゃ。」
「礼には及ばないわ。怪異撃破数は、そこでジタバタしてる子が人類最多だしね?」
「......主らのような年端もいかぬ少女二人に、人類の命運を託すワシら大人を許しておくれ。」
千斬の年齢は十五――ワシの生きた時代なら、中学三年生というところか。
あの頃は戦後の傷跡や貧困格差などあれど、この年の子が命を賭して戦う世界ではなかった。
しかし、今はどうだ?
ワシら大人が怪異に勝てなかった代償を、この子たちに払わせているとは……情けない話じゃ。
「なぁに言ってんの?あなたの言う過去の世界じゃ、そっちも老人ホームで薬入りの薄いカレー食べてるはずなんだから。お互い様でしょ?」
「薬入りの薄いカレーとな……随分現実的じゃな。」
「そんなことどうでもいいから、そこで駄々こねてる退怪術士の一位をなだめてくれる?」
ゼルスが視線を向けると、そこにはジト目で祖父を見上げながら、ポカポカと軽い拳をぶつけて抗議する月乃の姿があった。
すでに仮面は外しており、ここだけみれば彼女があの『朔月のムーノ』だと思う人は存在しないだろう。
「駄々なんてこねてないもん!!」
「うっさいわね!黙んなさいよ!誰がどう見ても駄々こねてるでしょ!」
「おじいちゃんが頑固なのが悪いの!このままいつか死んじゃうもん!」
「あのね?退怪術士なんだから、そういうものよ!あんたも分かってんでしょ!?」
「……知らない!うるさい!とにかくおじいちゃんが引退するまで、私は退怪術士として活動しないから!」
「面倒くさいわね! 力だけはあるから、なお立ち悪いわよ!」
ムーノとラナが言い争いをする姿に、ゼルスは穏やかな表情を浮かべた。
二人が年相応に言い争う光景は、まるで荒廃を知らぬ普通の少女の口喧嘩のようだ。
その光景に深い安堵と懐かしさと感じると同時に、ゼルスは胸の奥で噛みしめる。
この子たちが、戦わずに済む世界を残してやらねばならぬ――改めて、そう決意した。
「ワシはあの年の終わり、熱海におった......今思えば予定調和のようじゃった。」
「おじいちゃん!いきなり何?ボケちゃったの!?」
「老人ホームに突っ込みましょ?そもそも、このおじいさん術士が引退しないのが原因なんだから!」
しかし、次の一言に――希守月乃は動揺した。
「ワシには妻と娘がおった……」
「え……?」
ゼルスの口から、初めて語られる"娘"という言葉。
これまで彼は、自身の家族について、月乃にほとんど何も話してこなかった。
そして、老兵は静かに語り始める......1999年最後、大みそかの憎しみを――
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
サクラ相手とは、また違う様子で甘える月乃にラナがドン引き?
そして語られる......最初の異能覚醒者、1999年最後の12月31日が......
頑なに引退しないゼルスに待ち受ける運命とは?
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