第54話 ハグされるラナ?
あの勝利宣言のあと、私と朔月は転移で彼女の拠点に帰還した。
「バカよ……あんたバカだわ!全部一人で背負い込むつもり?」
「つもりも何も、ずっとそうだった……。誰が公爵級に勝てた?誰が要塞都市を取り戻せた? 私が負けたらもう……誰が怪異に勝てるの?」
「……」
「ずっと……ずっとそう。戦うときはいつも一人。」
そう、彼女はいつも一人だった。誰も朔月を本当の意味で助けられない。
その場にいるだけで、彼女は孤独に戦い続けてきた。
他の退怪術士ができることといえば、せいぜい彼女の手間を少しだけ減らすことぐらいで、肩代わりなどできるはずもない。でもこれからは違う......
「もう一人になんてさせないわ。すぐに追いついて隣に立ってみせるわ。」
「ラナがいてくれて良かった……この基地に一人でいるの結構さびしいの。」
「しょうがないわね~!こ、これからは特別にあたしがこの基地に常駐しててあげるわ。」
「え?」
私はずっと、朔月を“最強の人間”だと思っていた。
でも違う。彼女は“最強の退怪術士”であって、“最強の人間”ではない。
どこにでもいる17歳の少女が、全人類の期待を一身に受けているのだ。
それはいくら最強の術士でも、17歳の少女には重圧すぎる。
「私のシュヴェルツマン家の自室に、転移ゲートって置けるかしら?」
「置けるけど……いいの?」
「連携強化するんでしょ?丁度いいじゃない。それにヨーロッパ方面にあんまり転移ゲート置いてないのよね?」
「ありがとう……ラナってもしかして優しい?」
「もしかしてなんなのかしら!? 元々あたしは優しいんだから!」
正直に言えば、100%善意だけではない。
この基地にはこれまで朔月が倒した、怪異の膨大なデータと映像が眠っている。
さらに言えばここにある武器や兵器、そして技術は、喉から手が出るほど欲しいものばかりだ。
でも、彼女を一人にしたくないという気持ちも、当然嘘なんかじゃない。
それにこの基地にあるものを全部吸収して、私が彼女に少しでも近づけるならもはやwin-winでしょ!!
「ぅぅ、サクラに会いたい……」
「もしかして……前より心弱ってるのかしら?」
「いつものことだけど?最近はサクラがいなかったら、病んでそうな場面もあった。」
「じ、じゃあ!今はあたしの胸でも貸してあげるわ!サクラと違って鉄板みたいに固いけど……無いよりましでしょ!」
実を言うと、私は人を抱きしめたことも、抱きしめられたこともない。
ま、まぁ?映画で見たことあるし、きっと天才の私ならいけるでしょ?
......断じて、誰かにハグしてみたかったとか、そういう乙女心ではないから!
「でも......ラナ、年下だし。」
「めんどくさい女ね!?何でそれをここで気にするのよ!!」
「年下に慰められるのは……なんかね?」
「うるさいんだから!いいから来なさい!」
ビビることなんてない!私は退怪術士序列2位、“千斬のラナ”なんだから!
そうよ!ただ両の手を背中に回すだけ......ただそれだけのこと!余裕でしょ!?
――私は強引に朔月を引き寄せ、少し浮かんでその頭を抱きしめた。
「......固い。」
「文句が多いわね!まだ15歳なんだからこれからよ!!」
「ごめん......遺伝子見たけど、ラナこれ以上は大きくならない......」
「え......?」
嘘でしょ!?私、この胸の大きさのまま大人になるの!?
別に巨乳に憧れてたわけじゃないけど、貧乳が確定しちゃうのはショックなんですけどぉぉ!?
「ラナ......ラナからはすごく悲しい感じがする。」
「はぁ?あたし全然悲しくなんてないんだけど?」
「誰かに抱きしめられたこと......ないでしょ?」
「え?もしかしてそれも異能?」
「ほらラナ?これがハグだよ?」
朔月はラナの背中に手を回し、優しく彼女を抱きしめた。
その瞬間、生まれて初めて感じる温もりに、ラナは思わず声を漏らしてしまう。
「ぇ......」
何これ......何なのよこれ!
ただ両手を背中に回しただけなのに、体の力が抜けていく......眠気さえ襲ってくる。
退怪術士として、人の心を捨てたつもりの私が、まさか温もりに飢えていたとでもいうの?
シュヴァルツマン家の最高傑作と呼ばれる私が?
ヨーロッパ最強の退怪術士と謳われるこの私が?
山のように怪異を屠り、人々の死をあれだけ見送ってきた私が、今さらこんな……
「あったかいでしょ?あなたにも分かってほしい。これがみんなが戦う理由の一つなの。」
「これを守るために......命を懸けるってわけ?」
「守るだけじゃない。サクラの受け売りだけど......繋ぐためでもあるんだって。」
「命を繋ぐ......あぁもう離れなさい!私が慰める側なんだから!!」
「あっ。」
ダメだ、これ以上は弱くなる。
私は退怪術士。人の心を持ったまま勝ち続けられるのは朔月だけ。
弱さを抱えた退怪術士から負けていく――それが、この世界の絶対の掟なんだから。
「あたしをほだそうなんて、100年早いんだから!サクラにハグの仕方習って出直してきなさい!」
「ありがとう......あなたのその確固たる姿勢に少し救われる。」
「随分殊勝じゃない。精々あたしに感謝するのよ!」
「うん。感謝してるよ、雑魚ちゃん。」
「なんでいつもそうなんのよ!」
――すると机に置いてあった朔月の通信端末が、ノクターンの着信音を響かせた。
「ごめん。出ていい?知らない着信だけど、この番号は退怪術士関係だと思うの。」
「いいわよ、出なさい。」
「朔月のムーノよ。直接連絡してくるなんてどなた?」
「あぁ、仕事の端末なのね......」
しかし、私は見逃さなかった。
いつも任務中に緩むことのない朔月の表情が、安堵に変わったその瞬間を。
「分かった。すぐ行く、そう伝えておいて?じゃっ。」
「何かいいことでもあった?」
「おじいちゃんが......起きた!!」
「お、おじいちゃんって『不屈のゼルス』?」
「うん......私に最初に愛を教えてくれた人。ラナも来て!おじいちゃんに紹介するから!」
「ちょ!? いいけど私、何度も会ったことあるわよ!?」
あたしたちは帰還してから10分もしないうちに、再び転移ゲートをくぐることになった。
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
慰めるつもりが、逆にハグされたラナ。
退怪術士の鏡とまで言われたラナに、初めて人の温もりが襲い掛かる?
しかしそんなフワフワムードの中、段々と不穏な影は大きくなり......
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