第53話 人の世界に栄光あれ
――飛び続けること十数分。私たちはオホーツク海の現場に到着した。
「通信圏内入った。ラナ、よろ。」
「こちらFCT序列2位『千斬のラナ』。応戦中の『圧殺のアルマイン』応答せよ。」
【おうおう、可愛いうちのエースが来たか。帰ったら抱いていいか?】
「バッカじゃないの!?同性よ? そんなことより状況は!!」
【軽口叩いてるが最悪だね!右腕の感覚がもう無ぇ。くっついてはいるんだけどよ。】
私とラナは無言で目を合わせた。お互いの目が語るのは同じ内容だった――
命に別状はないが、アルマインは戦闘を続けられる状態ではない。
そして、通信に他の退怪術士の話が一切ない......つまり彼女以外は全滅したと見るべきだ。
「聞いてると思うけど、人類最強『朔月のムーノ』も来てるわ。あとは私たちに任せて寝てればいいんだから!」
【おうよ!お相手さんの異能は触った異能を跳ね返す怪装だぜ。気を付けろよ!!】
「......待って?もしかして複数体全部同じ能力?」
【そうだぜ。姿形も全く同じだ。連携が厄介だから気を付けろやな。】
怪異の怪能や怪装は、人間の異能と同様、似ていても全く同じということはない。
便宜上同じ名前で呼ばれることはあるが、その実態は異なるものだ。
なのに、姿形だけでなく能力までが完全に一致するというのは別個体では絶対にありえない。
そして、私は覚えている......この反射の能力を持つ怪異にかつて出会ったことがある。
「朔月!あそこよ!!」
「......ラナ、今回は私に譲って。」
ラナの指差す方向に見えたのは、見覚えのある大怪異の姿だった。その巨体と異様な佇まい――
間違いない。あれはかつて私がベルリンで討伐した『子爵級大怪異ファファ』だ。
しかし、今のそれはかつてとは明らかに異なっていり、子爵級ではなく、伯爵級程度の力を纏っている。
「あれって.......まさか子爵級大怪異のファファ!?」
「流石は私のファン......とにかく、あいつの能力はラナとは相性最悪だから。勝てるだろうけど譲って。」
「しょうがないわね。特別に譲ってあげるんだから!」
「ありがとう……異能発現。」
大怪異ファファ――異能を反射するという怪装に加え、分裂能力を持ち、これまでに400万人を虐殺した怪異。
私が『要塞都市ベルリン』を奪還するまでの約10年間、計7回の討伐体を全滅させた元凶でもある。
その異能を反射する能力は、出現の2031年当時「無敵」と称され、多くの上位退怪術士が自らの異能によって命を散らしていった。
だが――この怪装は当然、無敵などではない。
反射できる異能は、『対象が自らに向けて発動した異能』のみだ。
極端な話、術士が異能を自身の肉体強化に使い、物理的に殴れば倒せるということだ。
また、異能以外の兵器で攻撃すれば、分裂能力を持つ怪異とはいえ焼き尽くすのは容易だろう。
さらに、私の『異能・創造』で生成した物理的な物体には、この反射の法則が適用されない。
「もう一回殺してあげる……前みたいに物理的に切り刻んで殺す。」
「あんな巨体をどうやって……」
「異能:条理超越・極功念動力、そして創造……巨大刀。」
「は?」
私は全長20メートルにも及ぶ黒い巨大刀を8本創り出し、そのまま突進を開始した。
巨刀は以前に条件を満たしてコピーした『異能:極功念動力』を活用し緻密な動作を可能にしている。
「グゥォォァァァァァァァァ!!」
突進する私に怯えたのか、ファファたちは一斉に攻撃を仕掛けてきたが、全てを巨刀で斬り払う。
高速で振り回される刀は大気との摩擦で膨大な熱を生じ、黒い刃は赤々と燃え上がる。
「死になさい! 朔月流剣式・連斬火葬!!」
「グガッ!?」
間抜けな断末魔を残し、三体の大怪異は細切れになって崩れ落ちた。
その肉片は波間に呑まれるようにバラバラと散り、海の中へと沈んでいく。
見栄えを意識して派手に巨刀を操ったせいで、刀身は未だに灼熱の熱気をまとっていた。
「相変わらずバケモンだな......退怪術士の一位は。」
「憎たらしいほど強いわね......どうやったら人間から、あんな化け物が生まれるのかしら?」
『ご覧ください!! あれだけいた公爵級怪異を一方的に撃退しました! まさに象徴! 人類最強! 退怪術士の頂にして人類の最高到達地点! きっと彼女さえいれば、人類は勝利できるでしょう!』
報道局の興奮した声が耳に入り、私は少し冷静さを取り戻した。
巨大な剣を消し去り、空へ向けて粒子荷電天柱を放つ。
周囲の雨雲が一瞬にして吹き飛び、澄み渡った青空が広がる。
『天候が変わりました!! 天候さえ変えてしまうなど、まさに神の御業です!! しかしこの降り注ぐ暖かな日の光は紛れもなく本物! 彼女はもはや人の形をした奇跡の具現です!』
「......私は負けない。そして、私がいる限り、人間は勝てる。」
「はは......退怪術士の一位はまた、とんでもないことを宣言したな。」
「......あのバカ。」
聞こえなくても分かる。
今、世界中から向けられている希望の眼差しと歓喜が――。
見えなくても分かる。
これまで虐げられてきた人々の、喜びと安堵の涙が――。
だが、その重さはとてつもなく圧し掛かる。17歳の少女が背負うには、あまりに重い希望。
それでも、私にはみんなを助ける力がある。
言わなきゃいけない......
示さなきゃいけない......
どれだけ傷ついても絶対に――。
「私は世界最強、朔月のムーノ! 人類に勝利を。人の世界に栄光あれ!!」
『人の世界に栄光あれ......! ご覧の皆さんも続きましょう! きっとムーノ様は我々に勝利をもたらしてくれます! 世界の皆さんもムーノ様と立ち上がりましょう!!』
そして彼女は異能のエネルギーを光に変換し、上空から人類に宣言する。
まるでその姿はかつて天から舞い降りたとされる、熾天使のように神々しい。
「半世紀続いた絶望は、私が終わらせる!!」
『ムーノ様ぁぁ! 人類に勝利をぉぉ!!!』
人種も、職業も、性別も、文化も、価値観も異なる数多の人々が、この日初めて同じ場所を見上げた。
同じ希望を感じ、同じ目的に向かってその歴史を刻み始めた。
世界がこれまでにないほど大きな希望に包まれた中――。
その裏で人類が気づかぬまま、絶望もまた着々とその姿を現しつつあった。
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
圧倒的すぎる力で伯爵級の怪異を蹴散らしたムーノ。
そして高らかに人類の勝利と栄光を宣告する。
しかしそんな熱気の中、裏では不穏な影が動き出し......
面白い、続きが気になる!と思った方は【応援】や【レビュー】をくれると超嬉しいです!!
補足説明:
子爵級大怪異が出現した2031年ごろは、人類の物資が大幅に不足していました。
そのため大規模な破壊兵器を量産する余裕はなく、子爵級大怪異ファファに苦戦を余儀なくされていました。
また討伐隊は誰も生きて帰らなかったため、情報が少なく怪装の反射対象についてFCTは把握していませんでした。
結果、数少ない破壊兵器の投入にも踏み切れず、10年近く敗北することに......




