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第46話 『ムーノ』という名の記号





 指先が仮面に触れた瞬間――。


 柔らかな光の曲線が走り抜け、遂に仮面は顔から剥がれ落ちた。



「希守……つきの……?」


「そう……私が『朔月のムーノ』。世界を守り、人類の生存権を取り戻した史上最強の術士……」


「嘘……でしょ……。なら、あんたは守られる必要なんて……」


「サクラには絶対正体は明かせない。サクラにだけは……」



 サクラはきっと、自分を責めるだろう。

 自分の行動が結果として、人類に悪影響を及ぼしたのではないかと――。

 そんな罪悪感を抱かせるわけにはいかない。真実を告げる日はいつか来るだろう。


 けれど、それは怪異を一匹残らず滅ぼしてからでいい。

 あんなにも苦しみ、それでもなお、あんなにも優しい子に――。

 自分の選択が間違っていたかもしれないなんて、絶対に思わせるものか。



「朔月……あんたにとってサクラって……?」


「……私は物心ついた時から、退怪術士として戦ってきた。学校にいても、家にいても、私はいつだって朔月ムーノだった。私は人ではなく、”人類の希望”という名の記号。私自身、自分をそう認識するのが心地よかった。」


「記号……」


「そんな中、唯一......サクラだけが私を人にしてくれた......私が自分の狂気に飲まれそうになった時も、彼女は手を引いてくれた。手を引っ張って私を人間に引き止めてくれる。」



 私は『人類の希望』という名の奴隷だ。



 人類の為に生き。


 人類の為に人生を捧げ。


 そして人類の為に人の望む『希望』の形を提供する存在。


 私という存在は誰かのために尽くし、そして誰かの為に命を懸けるようデザインされている。

 仕える対象に違和感を感じながらも、それに快感に感じているのも事実......。


 ――サクラはそんな私を『人』にしてくれるのだ。



「あなたにとってもサクラは特別ってわけね……でも、確かに誰一人として、あんたを一人の人間として見ている退怪術士はいないわ。」


「そう?あなたなら……分かるでしょ?シュヴェルトマン家の最高傑作。」


「……随分、意地の悪い質問するじゃない!」


「そうなの?ごめん……」



 シュヴェルトマン家――その名は、代々超強力な退怪術士を輩出してきた名門として知られている。

 ラナはその最高傑作と称され、幼い頃から人として扱われたことがないのは、業界の中でも有名な話だった。



「分かるわよ……私はそのためだけに生み出されたんだから。でもね……どんな環境に置かれても、人間であることを忘れたことは一度もないわ。」


「そうなの?でも聞いた話だと、食事や睡眠さえも管理されてたって……」


「確かに?親の顔なんて知らないわ! 小さい頃は自分の運命を呪ったこともあった……でもね?私には、あんたがいた……」


「私……?」



 ラナの視線がこちらを真っ直ぐに見つめている。

 こんな状況なのに、思わず頬が熱くなるのが分かる。


 なんか......ラナって結構私好きじゃない?照れるんだけど......

 真面目な場面だが、ちょっとニヤけている自分がいた。



「初めて怪異と対峙したのは4歳の時だったわ。下級怪異だった.......それでも怖くて怖くてたまらなかったの。なのにあんたは、3歳でベルリン要塞都市を奪還した。私が下級怪異に震えていた頃......既に『人類最強』の称号を手にしてた。」


「……そんなこともあったね。あん時は自分の強さに酔いしれてたもん。私強!?ってね。」



 ラナは私より2歳年下の15歳だ……。

 2053年の現在、つくづく狂った世界になってしまったと思う。

 おじいちゃん曰く、昔は「15歳の子供を働かせるのは犯罪」だったらしい。


 でも今や年齢なんて関係がない。

 弱ければ死に、強ければ退怪術士になることを強いられる。


 ......それが2053年の地球なのだ。



「そうよ、強すぎたの。周りからは天才だなんて持て囃されたわ。でも、見上げれば常に遥か上を行く‘化け物’がいた……。自分がどれほどちっぽけな人間か、嫌でも痛感させられたわ。だから幼い頃......人である事を呪わなかった日は無いわ。」


「……やっぱり、あなたにとっても私は化け物なんだ……。人のカテゴリーには入れて貰えないのか.......」


「孤独ってわけね?唯一同類かもと思ってた私に化け物扱いされて。」


「……うん。」



 その言葉が胸に突き刺さる。

 結局、朔月ムーノとしての私を、人として扱ってくれる『人間』はいない。

 私はただ”希望”という仮面を被った記号なのかもしれない――。



「バカね!一人にするわけないでしょ?」


「え?」


「あんたは人にはなれないわ。人として誰かと対等になることは、これからも無いわ。」


「……」



 その言葉に一瞬胸が冷たくなる。やっぱり、私は永遠に孤独なんだ――。

 しかしその直後のラナの言葉が、そんな絶望を一気に打ち払った。



「私も化け物になるわ。2人なら寂しくないわよね?」


「!?」


「あんたがホントにバカなんだから!誰かが自分の領域に来ることも待てずに、自分が人の域に降りようとなんてね!それとも?私1人じゃ不服かしら?」


「うん……もっとワイワイしたい。」


「面っっ倒臭い女ね!大人しく感動しときなさいよ!」



 そうだ、二人だけじゃやっぱり寂しい――

 だけど、それでもラナの言葉は私の胸に光を灯した。



「ラナ……ありがとう……」


「あぁもう、何なのよその緩急!!調子狂うわね!!でぇ?具体的にどうやって私と連携するつもりなのよ?」


「いくつかあるよ。まず、出動ルートの使用権限。それから私が使っている世界怪異レーダーの常時共有。さらに装備品や武器の技術供与、それに個人的にいつでも連絡を取れる手段の確保……ざっとこんな感じかな。」


「随分とあるわね……それだけ信頼して預けてくれるなら、私もこれまで以上のパフォーマンスを約束するわ。」



 実際、私はラナ専用の移動・戦闘用の戦闘機や、個別の装備品を開発するつもりだ。

 これまで彼女は規格の問題で、一般のパワードアーマーしか装着できなかった。

 だが私が収集した怪異のデータや、消えない臓器の一部を活用すれば、彼女に特化した装備を作れるだろう。


 また、これまで私が広範囲に構築した転移ホールも共有すれば、ラナの現場到着速度は飛躍的に向上する。

 私も彼女と連携することで、戦術の幅は格段に広がるはずだ。



「私との連携強化は公表した方がいい?ラナの意見を聞きたい。」


「人類に安心感を与えるって点ではアリだわ。でもね朔月、それは退怪術士としては不正解よ。」


「怪異に付け入る隙を与えてしまうってことね?」


「その通り。私は怪異の神には勝てない。残念だけど、自分が人質に取られる可能性を考慮しないわけにはいかないのよ……。ただでさえ、日本にあなたの弱みがあるって事が勘づかれてんのよ?」



 確かに、怪異の神との戦いで、私は日本に対して特別な思い入れがあることを気取られた。

 この上、最前線で戦うラナとの繋がりまで露呈するのはリスクが大きい。



「分かった。これは隠す。」


「ある程度は勘づかれるかもしれないわ。そこは退怪術士全体に技術バラまいて時間稼ぎしなきゃよ?」


「カモフラージュ……?全然思いつかなかった……」


「朔月ってホントに脳ミソは残念なのね……」



 ラナは少し呆れたような顔で私を見つめる。

 その瞳には、微かな哀れみの色が混じっている。



「高速演算とか……?そういうの得意だし?」


「……そういうんじゃないわよ。」


「ウザぃ……自分でも分かってるし!!」


「ウザィ......じゃないわよ!煽り性能、あんたのほうが上なんだからね!?」



 ――結局その日、私はサクラの元には帰れなかった。





 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!


 お互いの強さと弱さをさらけ出し......

 二人で新たなる領域を目指そうとする最強術士。


 その先に訪れるのは幸福か、それとも絶望か......


 面白い、続きが気になる!と思った方は【応援】や【レビュー】をくれると超嬉しいです!!


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