第35話 私は17歳の少女なのに......
「……は?」
「え?」
ヤバいやらかした......脳死状態でかなり不審なことを言ってしまった。というか、まさか月乃がトイレに行ったまま行方不明になったことをラナに伝えてないなんて……ラナは今までずっと地上でサクラと連携していたはずなのに、私だけがその情報を知っているとなれば、疑われるかもしれない……。
「あんた、まさか……サクラの身近にいる誰かってこと?」
「……私の模倣した異能の中に、マーキングをつけた相手を監視するものがあるの。これで満足?」
心臓がバクバクと鼓動している。これ以上突っ込まれないように、必死で取り繕う。
もちろん、そんな異能を月乃には使っていない……そもそも月乃は私だし!
「確か前々から、髪の色と刀で日本人説濃厚だったわよね?まぁでも、これ以上は突っ込まないであげるわよ!」
「こ、この際だから日本人なのは認める。でも絶対に公言しないで?」
「やっぱり日本人なのね。それなら髪色を変えればよかったんじゃない?」
「……た、確かに……変えれば良かった。」
待って……何やってんだろ私。今の今まで思いついてもなかった。
髪の色を変えるなんて、チョチョイのチョイでできることなのに、顔を隠すことばかり考えてた。
しかも、声も少し変えただけだし......そもそも男に偽装するって選択肢もあったじゃん……!
「想像以上のバカね!?何で私がこんなド天然に10年も追いつけないのよ!」
「雑魚ちゃんだからでしょー?」
「何でこの雰囲気の中で煽ってくるのよ!?ホントムカつくわね!」
「え?煽りじゃなくて、事実じゃん笑笑」
ホッとした。とりあえず水をもらって落ち着こう。
仮面は食事できるように加工してあるから大丈夫。安心した瞬間、ラナが鋭い一言を放ってきた。
「あんたは希守月乃を……」
「ブッ……ゲホゲホ!」
「って急にどうしたのよ!?希守月乃を助けられると思う?って聞いただけじゃない!?」
「あ、あぁ......ムセただけ。」
突然の水噴き。思わずむせてしまうが、逆に良かった。
水を飲んでなければ絶対に変な声を出していた!
「で?そこんとこどうなのよ?希守月乃を助けられるの?」
「助けられるか?それって……私を信頼できないってこと?」
ラナに向けてわずかに殺気を放ってみせる。この場で中途半端な返答をしたら、ラナが月乃に対して何をするか分からない。
もし護衛を申し出でもしたら......流石の私も自由に動き回れなくなる。
「……だってサクラはもう100回以上失敗してるのよ。私たち人類は、もしかしたら滅びの運命なんじゃないかって……最近はそんな風に思うのよ。」
「私が……怪異の神に負けるとでも言いたいの?」
「……そうよ。私は勝てないかもって思っちゃったのよ。」
「私......そんなに頼りない?」
負ける?今日の怪我は回生をおじぃに使ったからで、本来ならここまで消耗しない。
あなたなら知ってるはずよね?それとも.......今日の私ってそんなに頼りなかった?
私は自分が地球最強であることに結構自信がある。だからこそ、そんな風に思われているのはショックだ。
「違うわ!違うのよ!!弱いのは私たちなの。私たちがいなければ、朔月は……」
「ラナ?」
ラナの瞳には涙が浮かんでいる。思い詰めた表情に、私も少し胸が締め付けられる。
ラナの思いは理解できる。でも現状......ラナも、他の人類も、私にとって守るべき対象でしかないことは事実だ。
「もっと……私はもっと強くなりたいの!ねぇ、朔月!退怪術士って何のためにいるの?人間って、何のために生き残っているのよ!」
「急に何!?どうしたの?情緒不安定?」
正直、私の手の届かない所も多いし、ラナにはいつも助けられている......
それにラナは私が頭角を現してすぐに、ナンバーズに加入したほどの天才退怪術士だ。
ずっと新世代の最高戦力として、二人で人類を守ってきたという自負があったんだけど......
ラナの平均活動時間は21時間.......彼女が身をすり減らして頑張っているから、私はサクラと学校に通える.......
怪異討伐数こそ私の方が上だが、彼女の出撃回数は私を遥かに超える。それはラナの努力の証なのだ。
「私達人間は......朔月という上位者に守られるだけの、弱小種族のままなの?」
「ッ......」
私......意外と嬉しいかったんだよ?誰もが私を信仰し、仰ぎ見るだけだったこの世界で......
あなただけが、本気で私を超えようとしてた。私を人として見てくれているような気がした......
だからこそ、その言葉はとてもショックだった。
月乃ではなく『朔月のムーノ』として友達になれるって思ったのに......
「あたしたちは散々滅亡しかけた!何しても怪異に勝てなかった!歯もたたなかった!そんな私たち人類をあなたが一人で救ってくれたのに……私たちは何もできなくて、ただ助けられるだけでいいの?恩人の足を引っ張るのが私達人類の存在意義なの!?教えなさいよ......私達に守る価値なんて......」
「……あぁもう、ウザイ!勝てばいいんでしょ、勝てば!恩人が超絶恩人になるだけし?それで全部解決!ネチネチうるさい!精々私を......あ、崇めてなさい!!」
「え……」
「傷も癒えてきたから、もう帰る。」
私はふらふらと浮き上がり、小島を離れる準備をする。
透明化の異能を使えば、ドローンの目も避けられるはず。
「ちょ!?待ちなさいよ!いくらあなたでも、まだ動ける怪我じゃないわよ!」
「あなたにだけは言われたくないんだけど?」
「待ちなさいよ!教えてよ!私達人間は何のために......」
彼女の言葉を無視して、私は飛び立った。心の中には悲しみと疎外感が渦巻いていた。
私も人類の仲間でいたい.......しかしそれが叶わないことが、今の言葉で痛いほど分かってしまった。
私は......ただの17歳の少女なのに。
「私って……人間じゃないの?人類の仲間には……入れてもらえないの?」
それは、人の温もりを愛する私には耐えがたい悲しみであった......
サクラ......あなたも全てを知ったらもう私のことを......
――対等な友達として、接してくれなくなっちゃうの?
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どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
彼女は人間でいたいんです。強さと中身のアンバランスさがある意味魅力?
求めているのはありふれた日常と.......次回から新しい章に入ります!!
面白い、続きが気になる!と思った方は【応援】や【レビュー】をくれると超嬉しいです!!