第2話:アストラルシティ──重力の届かぬ都市
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──再構成は、静かに、しかし明確に始まった。
「視界」という概念が最初に戻った。
だが、それは“目”を使っているわけではなかった。
むしろ空間そのものが彼に情報を送り込んでくるようだった。
波長、熱、質量、振動、色、音、そして“感情”。
それらが明確に層を持ち、彼の認識領域に流れ込んでくる。
続いて、「重力」が戻ってきた。
だが、それは地球上のそれとは異質なものだった。
下に向かって引かれるのではなく、“自分の存在そのものが一点に定着する”ような奇妙な感覚。
質量というよりは、意識の錨をどこかに降ろされたような──そんな感じだった。
そして──足元に、“地面”が現れた。
◆ ◆ ◆
「……ここは……」
口が動いた。声が出た。
けれど、それが音として届いたのか、空間が“彼の声を知った”のかは、定かではない。
陸は立っていた。
真っ白な石のような、しかし温かく柔らかい材質の床の上に。
そこには、建物とも植物ともつかない構造体が林立していた。
それぞれが自律的に“呼吸”しており、まるで都市全体がひとつの生命体のように感じられる。
空は広く、だが天井のように平らだった。
そこには空間の歪曲が織り込まれ、物理的な「高さ」という概念を越えていた。
空に見える“点”のひとつひとつが、遠くの建物であることに気づいたとき、
陸は一瞬、めまいを覚えた。
(──この都市、浮いている……?)
ただ建物が空に浮かんでいるだけではない。
都市そのものが、多層構造の浮遊層で形成されていた。
それぞれの層が別の重力勾配を持ち、
宙を舞うようにゆっくりと漂っている。
そして、その全体を取り巻くように、光子のライン──“エネルギーパス”が張り巡らされていた。
それはデータでも電力でもない。
もっと根源的な、情報そのものの流れだった。
◆ ◆ ◆
「……息が、できる……?」
陸は自分の肺を意識した。
空気の成分は、明らかに地球とは異なる。
酸素に似たものがあるが、それだけでは説明できない。
呼吸するたび、身体の内側に“微細な振動”が共鳴する。
──呼吸そのものが、エネルギー情報の受信行為になっている?
(肉体も、書き換えられている……)
彼は両手を見た。
以前より白く、滑らかになっていた。
傷がない。指先は細く、しかし骨密度は高く、しなやかだった。
次に足を動かす。
重力の質が違うためか、関節の可動域が微妙に変化している。
彼の身体は、この異世界の物理構造に最適化された“再構成体”となっていた。
「俺は……転生、したんじゃない。
“観測されない存在として、この世界に再定義された”んだ」
◆ ◆ ◆
空間の静寂を破るように、何かが“通過”した。
彼の頭の中を突き抜けるような、高周波の共鳴音。
──言語、ではない。
──しかし、意味を持っている。
それは、人々が“思考の波長”を介して交信している証だった。
彼の目の前に、一人の存在が現れた。
人間に似ているが、皮膚が半透明で、内部の神経が淡く発光している。
瞳は金属質な青に光り、毛髪の代わりに細い光線が頭部を覆っている。
彼──あるいは“それ”は、陸を見つめ、何も言わなかった。
ただ、周囲の空気がわずかに震えた。
そして、言葉がなかったはずのその空間に、明確な“意味”が届いた。
【ようこそ、観測不能者】
【あなたは今、存在を確定しようとしている】
【それが、この都市の定義】
(……読まれている? いや、違う)
彼の意識が、都市そのものに“観測されて”いる。
その観測が、彼の存在を“こちらの世界”で固定していっているのだ。
「……俺は、この世界に“受け入れられて”いる」
その確信が走ったとき、
彼の足元にあった床の紋様が、柔らかく光を放った。
──存在確定。
この都市の法則に従って、「長谷川 陸」という存在が、
この“異なる物理構造”の世界に正式に登録された。
◆ ◆ ◆
そして陸は、その夜、眠りについた。
都市の空気は静かで、穏やかだった。
生まれて初めて、「誰にも観測されていない」のではなく、
**“世界そのものに観測されている”**という安心感を得ながら。
──次の夢で、彼は再び東京を見る。
交差点。トラックの光。伊波の声。
それは幻覚でも、記憶でもない。
まさしく、“干渉”だった。
「俺はまだ、“両方の世界”にいる……」
目を開けたとき、陸の眼には、アストラルシティの空に、
東京の街灯が微かに滲んでいた。
──続く。
後書きってなに???




