98、日の出は日の入りに似ている (4)
“・・・ここは?・・・そうか、わっちは・・・”
真っ黒な世界、全てが暗闇に包まれていた。
神殺しに取り込まれて、彼女の身の内にあった魔王因子の感覚は無い。
どうやら、全部取り込んでいったのだろう。
“魔王で無くなった今なら・・・ジェシカ・・・”
・・・届かなかったと悔やむ反面、ジェシカを巻き込まなくて済んだ事に安堵していた。
“じゃが・・・”
“・・・にか・・・モニカ・・・”
遠くから光と声がする、彼女はその声に手を伸ばす。
“届け・・・”
彼女が求めるほど、光と声は強くなり・・・
ーーー
「(届くのじゃ・・・え、どどど、どうなっておるんじゃ!?)」
「良かった、無事みたいだね。モニカ。」
モニカが応えてくれて、私は安心する。
「(これがジェシカのテイムコネクトとかいう変わった魔法か・・・面白いのう。)」
「感心している所悪いけど、解除するよ。ユキ、テイムコネクトっ!神殺しを討伐する為に、脱出するよ。」
「それなら、わっちに任せるがよい。」
モニカが手を叩くと、一瞬で神殺しの体内から出ていた。
もちろん、ウィルも一緒だ。
「モニカ、神殺しにトドメをさすから・・・」
「時間稼ぎは任せておくのじゃ、ジェシカよ。シャドウバインドっ!!」
モニカの影から伸びる鎖は神殺しを拘束する。
こんな形で協力する展開はいいな・・・
「天雷を束ね・・・」
「どうした、神殺し。わっちとの仲ではないか、逃げる事は無かろう。」
拘束するする鎖は増えて、逃げようとする神殺しの動きすら止める。
「愚かなる者への・・・」
「まだ足掻くのか。まぁ、しかたないの。」
それでも、足掻く神殺しは拘束する鎖を引き千切る。
「道標たれ・・・」
「じゃが、相手が悪かったのう。ロン・ギヌスっ!!」
モニカは右手を前に出し、魔法を放つ。
神殺しの影から伸びる巨大な闇の槍は神殺しを貫き、神殺しの苦痛は青空に響き渡る・・・
「神の稲妻はここに・・・」
「出血大サービスじゃっ!!グラビティ!」
左手を右手に交差させて、追加で魔法を放った。
通常の何十倍の重力を神殺しに叩きつけ、闇の槍が深く食い込む。
「今じゃ、ジェシカっ!!」
「・・・顕現せよ『青の神剣』!!」
青の神剣を呼び出し、それを槍投げの要領で神殺しにぶん投げる。
「とーどーけーっ!!」
「(えぇーっ!?斬らないの??)」
ユキの声も虚しく、神剣は神殺しに刺さる。
「あれで、良いんだよ。」
「(どういう事?)」
「神罰の神の稲妻を完全制御して、剣の形にしたものが『青の神剣』・・・だから、戻す事も出来るんだ。神罰開放・・・」
私は右手を高く上げ、大きく振り降ろす。
「アークサンダーっ!!」
神剣を中心に神罰が開放されて、私はそれを周囲が巻き込まない様に制御する。
「(・・・君って、本当に何者なのさ・・・)」
「え?私は私だよ??敢えて言うなら、ユキのお嫁さん♪」
「(はぁ・・・)」
ユキのため息が私に響く。
「おお〜、これはまた凄いのぉ。バチバチとまるで話に聞いた花火みたいじゃのう。た~まや〜♪」
モニカは見慣れない光景に興味と興奮で大声をあげている。
花火とは違うんだけどね・・・まぁ、本物を作れる様になった時にでも教えたらいいかな。
これで、終わりなんだ・・・
神殺しは神罰で炭化しており、討伐で間違いないだろう。
「不思議なものじゃな。こんな形でわっちが魔王から開放されるなんて・・・」
モニカは呆気にとられながら話している。
「体調はどう?」
「うむ、問題はないようじゃな。」
モニカは右肘を曲げて、右肩をぶんぶん回していた。
「うーん。」
「ジェシカよ、どうしたのじゃ?」
「いや、モニカの魔王因子ごと神殺しを倒したからさ。これって魔王を倒した事にならないのかなって。」
「ふむ、それは神に聞くしかないのぉ。まぁ、異世界転移についてはわっちに任せておくがいい。」
モニカはニコニコしながら右腕で力こぶを作る。
「それにしても、モニカは全然本気じゃなかったんだね。神殺しを拘束する時に使ってた魔法を使われていたら私なんて・・・モニカっ、危ないっ!!」
ふいに感じた違和感。
私は咄嗟にモニカを突き飛ばし・・・意識を加速させる。
「これは神殺し!!このままモニカを庇えば私に攻撃が当たるけど・・・ユキは大丈夫なの?」
今は迷っている暇なんてない!
「くっ・・・」
・・・油断していた。
神殺しの攻撃は私の脇腹を貫通していた。
でも・・・ユキは無事で良かった。
咄嗟にテイムコネクトを解除する事でユキに神殺しの攻撃が当たらない様にした。
「何やっているのさ・・・ジェシカっ!?」
「此奴、まだ生きておったのかっ!!シャドウボール!」
即座に放たれたモニカの魔法で神殺しは完全に消滅する。
血が抜けて行く感覚がする・・・砂時計の砂が流れて行く様な・・・
「どうしてテイムコネクトを解除したのさ・・・僕は君と・・・」
「だってユキは神様の使いじゃない・・・私なら死ぬ程度だけど、あなたは消滅してしまうよ・・・」
ユキの声色から、私は自分の死を悟った。
「君が死んだら僕は何の為に生きて行けばいいのさ・・・」
痛い・・・寒い・・・でも・・・
残すユキに出来る事は・・・
「待ってるから、ちゃんと迎えに来てね。」
ただ、笑顔を向けるだけだった・・・
こうして、私の2度目の人生は幕を閉じる・・・
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・ここは?
私の目の前に映ったものは
遠く広がる青空と足元には白い雲が地面の様に広がっていた。
少し歩いていくと、目の前にお城があって
中にはお城には合わない液晶テレビと炬燵、上に蜜柑の入った籠
そして、テレビを見ながら涙を流す人。
見た目は白いローブを纏った黒い短髪の青年。
私は見覚えがあり、その人に声をかける。
「はぁ・・・何をわざとらしく泣いているんですか、神様。」
(続く)
最後まで見ていただきありがとうございます。
テイムコネクトを使って無事に神殺しからモニカを救いだしたジェシカ。
そしてモニカとの共闘で神殺しを倒す事になります。
しかし、神殺しの最後の攻撃でジェシカは命を落とし・・・神様と会います。
設定補足:モニカの魔法
闇属性の魔法が得意で、魔法の名前はもちろん勇者達から聞いた話が由来になっています。
闇の鎖、ロンギヌス、重力魔法と厨二心をくすぐりますね。