93、反撃の狼煙は霞の様に (3)
魔王四天王もいなくなり、魔王軍との戦いも終わる・・・
だけど、私の不安は無くならない。
なんだろう・・・この感覚・・・
「モニカ、話を聞いても良いかな?」
「神を殺す件かの?まぁ、ここまで来たついでじゃ。最後まで語るとするかの・・・ふむ、ジェシカは精霊信仰が教会に弾圧された歴史は知っておるかの?」
私は首を縦に振った。
「では、弾圧された原因を知っておるかの?」
「原因?宗教理念で1人の信者が憎しみに駆られたから多くの信者に広がったって・・・」
「えらく抽象的な話じゃのう・・・まぁ、一般的に広がっている理由はそうじゃろうな。その信者は一匹の犬を飼っていたのじゃ。」
「犬?」
モニカの言っている意味が分からなかったけど、大人しく話を聞く事に。
「その犬に魔王因子が侵蝕しての。王国の決まりで黒龍の兆候を見せた生き物は例外なく殺処分されたのじゃ。それが始まりじゃった。飼い主の信者は王国を・・・そして、決まりの元になった神を恨むようになったのじゃよ。彼は優秀なテイマーだった様での、黒龍を使役する事が出来たのじゃ。」
「黒龍を!?」
テイマーが何を使役するのかはそのテイマー次第だけど
ここまでぶっ壊れていたなんて・・・
「そして、その黒龍達をお互いに戦わせて魔王因子を凝縮させる事であるモンスターを生み出す事に成功する・・・それが“神殺し”じゃった。」
神殺し??・・・どこかで聞いたような・・・
私が考えていると、グラースが声をかける。
「ジェシカ、ケーオスの話だ。」
「あ・・・」
“あぁ、紹介まだだったか・・・俺は四天王の1人、魔翼のケーオス。この山にあった神殺しの封印を解きに来たのだが、ちょっと面白い事を思いついたから高みの見物をさせて貰ったよ。”
・・・思い出した。
まさか王都の近くの雪山にそんなものが封印されていたなんて。
私が驚いていると、モニカが様子を伺っている。
「話を続けさせてもらうのじゃ。しかし、神殺しは戦闘力自体低くての、当時の魔法使いの力を持って、王都の北にあった霊峰に封印され・・・神殺しを生み出した精霊信仰の信者は宗教ごと弾圧されていった。更に、王国は黒龍にまつわる情報を隠蔽する事にした。元々黒龍がどうして増えているのか?については一部の人間しか知らぬからの。」
でも、なんだろう・・・只の黒龍なら・・・こんなに嫌な感覚はしないのだけど。
「精霊信仰は弾圧され、歴史の表舞台から消えたのじゃが・・・信者は残っていたのじゃ。本当に人間というのは業のある生き物じゃな。いつか神殺しの封印が解かれてもいい様に黒龍の使役方法が研究されていたのじゃよ。」
「!!」
「しかし、使役方法は一子相伝と言って良いほど条件が厳しくての、精霊信仰信者の血肉が必要になるから・・・」
「モニカ、まさかウィルをっ!?」
そういえば、ウィルを見ないし・・・まさか・・・
「うん?ウィルなら元気にしておるぞ。」
「え?さっき精霊信仰信者の血肉が必要って・・・。」
「あぁ、その事か?それはこれを作るのにウィルの髪や爪を少し使わせてもらった。」
モニカは左腕のつけていたブレスレットを私に見せた。
金属の輪っかに宝石のようなものがくっ付いたシンプルなデザイン。
「ブレスレット??」
「それはまさか・・・制御輪っ!?」
私が首を傾げていると、ユキが声を上げる。
「ほう、もしやと思っていたがラピスもエルフ族の技術を使ったものを持っておったのじゃな。まぁよい。このブレスレットを使用する事でわっちにも神殺しを制御する方法を得たのじゃ。」
「でも、髪や爪といっても、ウィルを傷つけているんじゃ・・・」
「ん?お主たちもやっているではないか。長すぎる髪や爪は切っておるじゃろう?その切った物を利用したのじゃよ。もっとも、髪や爪は体調が影響しやすいものじゃから、健康第一なのじゃ。」
なるほど・・・だからあの時“言葉の通りじゃよ。安心せい、殺したり痛めつけたりはせぬ。むしろ、元気でなくてはわっちが困るからの。”と言っていたんだ。
「さてと、これからはわっちのターンじゃな。神殺しの力をとくと見るが良い。」
モニカは左手を大きく上げると、付けていたブレスレットが輝きを放つ・・・
その後、大きな揺れが続く。
玉座の間は大きく崩れて外気が入ってくる。
・・・!!
この嫌な空気・・・その原因となる神殺しが姿を見せる。
穴から伸びた大きな黒い腕は地面を掴み這い上がってくる。
黒龍の特徴となる黒い鱗を持つ龍・・・
しかし、その外見は今まで見た黒龍とは違い・・・
6本の角、6つの瞳、6本の脚、6枚の翼・・・
全ての精霊と黒龍をごった煮にした姿・・・
翼を羽ばたかせて魔王城に風圧がかかる。
上空に浮かぶ姿はまるで悪魔を思わせる姿だった。
「多少はいかつく見えるかもしれぬが、安心せい。こやつの能力はの・・・」
モニカは左指をパチンと鳴らす。
音を聞いた神殺しは耳を覆いたくなる様なけたたましい叫び声を上げた後、光の魔法陣を展開させたかと思うと
光の輪が神殺しを中心に周辺へ広がっていった・・・それは魔王城から、数キロに伸び・・・
王国軍の所まで・・・
しかし、王国軍は魔王軍と戦っている様で何も変わらない。
「・・・何が起きたの?」
「それはいずれ分かるのじゃ。では、わっちは行くとするかのう。」
モニカは神殺しの頭の上に立つと、神殺しは飛んでいく・・・
「え、どういう事??・・・あれ、いなくなった。」
グラースの協力もあり、魔王城を出ると
ルークやレイ、ジンの姿が。私を待ってくれていた様だった。
「最後の四天王も倒したんだな。・・・魔王軍も倒して、世界も平和になるのか・・・この世界に残るしかないのだからいいか。」
ジンが私の無事を見てそんな事を言った。
「え、ジンって元の世界に帰りたいんじゃないの?神様とそんな約束していたんでしょ?」
私の言葉にジンは首を傾げる
「ん?・・・何を言っているんだ?ジェシカは。その神様って何だよ。」
「え・・・」
(続く)
最後まで見ていただきありがとうございます。
魔王軍を倒しても、不安が消えないジェシカ。
その原因はモニカの目的である「神をぶち殺す」のに封印を解いた“神殺し”という存在だった。
神殺しが何かをするが、何も起こっていないと思いきや・・・合流したジンの言葉にジェシカは違和感を感じます。
設定補足:神殺し
黒龍同士を蠱毒の様に戦わせることによって、より強力な魔王因子を凝縮させた強力な黒龍。
元は魔王因子に浸食された動物なので、負けた個体を捕食する事によりその性質を取り込む事が出来るらしい。
各国は精霊信仰の弾圧の際に黒龍を別の生物として分類する事で、魔王因子が原因で出る存在という事実を歴史から消滅させている。