81、月が綺麗なのは元々 (4)
彼女たちは僕にソフィアと会って話をしてほしいと頑張っていた。
本当に今更だったのだけど、ソフィアはずっと僕に謝りたかったそうだ。
500年、僕はとんでもない思い違いをしていて
ソフィアの愛に気付けないどころか、自分の子供を愛する事も出来なかった。
僕は愚かだった・・・
神様の取り計らいが無ければ、その機会は無かったのだから。
彼女の愛を知って、僕は理解した。
やはり、僕は彼女の事を一人の女性として愛しているのだと。
ーーー
「ユキ、それは本当なの?」
「(でも・・・良いのかい?僕は・・・)」
ユキの言いたい事は何となく分かるけど、私はそれ以上に嬉しかった。
「それこそ今更だよ。これは負けていられないね。」
「(ジェシカ、愛している。)」
「私も・・・」
私は気が付けば、よろめきながらではなくちゃんと立ち上がっていた。
随分と現金な所があるなぁと少し自分自身に笑っている。
「ほう、よく笑っていられるな。私への有効打も無い状態で勝てるつもりなのか?」
「無いなら、作るまでだよ。こうして・・・」
勢いよくシグマの方に駆ける。
次に魔盾を捌き距離を詰める。
「ちょっと卑怯だけど、あなたの強さを理解した上でこの方法をとるよ。」
「(えっ、何をやるの??)」
それから、シグマの直接攻撃を躱して背後に回り後ろから抱え込んだ。
「スタンフィールド!!」
「ぐっ・・・」
「(うわぁ・・・痛そう・・・)」
「使ってみて分かったけど、この距離では魔法盾を発動しても意味が無いよね。」
仮に魔法盾を攻撃に回してもシグマにもダメージが来るわけで。
私の作戦は相手の背面に回って・・・
「だが、その程度なら私は耐えられるが?その間に振りほどいて・・・」
「分かっているよ。ちょっと面白い話をしようか。天罰って実は面白い仕様があって、詠唱中は魔法を使う人が結界によって防御されるんだけど・・・言いかえるとそこから逃げられないんだよね。だから、あなたのあの攻撃を結界越しに受ける事になった。」
「それがどうした?」
シグマの余裕のある返答に私はニコッとする。
「こうするんだよ。」
「(あの・・・ジェシカ?もしかして・・・)」
ユキの嫌な予感が的中するわけで・・・
私はパッと手を放すのに合わせて詠唱を開始する。
「天雷を束ね・・・」
「・・・何故手を放した?」
「(め、滅茶苦茶だよ。ジェシカ。)」
シグマの言葉を無視してそのまま詠唱を続ける。
「愚かなるものへの・・・」
「わざわざ結界の中に入れたのか?・・・!!」
私は構わず詠唱を続ける。
「道標たれ・・・」
「こ、これは。手が回せない・・・」
私はシグマごと結界に入る事で、過密状態を作りだし拘束する。
「神の稲妻はここに・・・」
「だが、天罰をここで使って意味があるのか?500年前は遠距離からいきなり天罰をくらわされた記憶があるのだが・・・」
ユキも結構酷い事やっているよね・・・ま、私も人の事は言えないけど。
「・・・顕現せよ!!『青の神剣』・・・からのサンダーブレイク!!」
青の神剣を呼び出した瞬間に合わせて、そのまま垂直に振り下ろした。
結界から解放されて隙が出来たシグマに防御する術はなく、直撃が決まる。
「ぐっ・・・また青の勇者の不意打ちで・・・負けるのか・・・」
そう言い残すとシグマは消滅する・・・
「・・・次の青の勇者さんはたっぷり文句言われそうだね。」
「(えっと、ジェシカ。お話があります・・・)」
あ、ユキが怒ってる・・・
「でも、その前にこっちを何とかしないとだね・・・」
「(うん、お説教は後だね。)」
ここまで敵陣地内で大立ち回りしていて、今はシグマもいない。
巻き込まない様に手を出さなかった魔王軍の怒りはもちろん私の所に来る。
「・・・コホン、私は青の勇者!そちらの大将であるシグマは私が倒しました。あなた達が退くなら追撃はしない事を約束します。でも・・・戦うなら全力で応戦します。」
私は右手に持った青の神剣を高く掲げると、剣は青く輝きを放つ。
一部の魔王軍は退き、残りは私へ攻撃をしてくる。
それから・・・どのくらい時間が経っただろうか。
私へ攻撃する敵や無視して街を攻撃しようとする敵は討伐して、途中からでも戦意を喪失して退く敵に対しては追撃しない事にした。
「ふぅ・・・終わったね。」
戦場で1人、一息をついた。
テイムコネクトを解除して、ユキを見遣ると声をかけられる。
「ジェシカ・・・」
「ん?お説教ならちゃんとロッソの宿屋で聞くよ。お風呂に入りたいし。」
「いや、お説教はいいや。」
「どうして?」
私の言葉にユキは照れくさそうに答える。
「・・・まぁ、ジェシカの事が心配だった事だけ伝われば良かったから。・・・え、ちょっと?」
私はギュッとユキを抱きしめた。
「どうしたのさ、いきなり。」
「私だって、不安なんだよ。」
ユキはその言葉にハッとなり前脚を私の首に回す。
「ごめん、不安にさせてしまって・・・帰ろう。」
「うん・・・。」
私達は帰路につく。
「ジェシカ・・・」
「どうしたの?」
ユキは何か聞きたい事がある様だった。
「もうロッソには用はないから帰るのかな?」
「ん?ユキは何か用事があるの?」
「うん、明日時間をくれないかな。」
私は首を傾げるものの、ユキが用事があるなら断る理由もないので
「大丈夫だよ。もしかして、1人の方が良い?」
「いや、ジェシカにも付き合ってほしいんだ。」
「そうなんだ、分かったよ。」
何の用事なんだろう?
明日をちょっと楽しみにしながらロッソへと帰った。
(続く)
最後まで見ていただきありがとうございます。
ユキへの思いが通じたジェシカは天罰の特性を利用してシグマを倒す事に成功します。
魔王軍撃退後、ユキからロッソで一日時間が欲しいと言われます。
次の話で「月夜の歌姫」編完結です。
設定補足:青の神剣
天罰の神の稲妻を制御する事で両手持ちの剣に変化させる魔法。
基本的には天罰と同じなので、発動まで防御用の結界が展開される。
この魔法を使えるからこそ、シグマの魔盾イージスを自分用に使える様に出来たとも言えます。