70、月は遠いほど輝いていた (2)
僕は毎日1人で魔法の練習をしていた。
魔法さえあれば、彼女が幸せに歌ってくれる世界が出来る事を信じて。
その願いは届いたのだろうか・・・彼女は僕に指輪をくれた。
そんな高価な物は受け取れないと断ると、それは魔法を補助するアイテムで
宝石としての価値はないから安心して受け取ってほしいと笑顔を向ける。
彼女はそれを『制御輪』と呼んでいた。
ーーー
会いたかった?良く分からない状況だけど・・・分かっている事がある。
彼女には足がある訳で幽霊ではない。うん、実に古典的な判別方法だけど彼女はちゃんと生きている。
「あの、会いたかったというのは??」
私が質問すると彼女はアッとした表情をした後、あらためて挨拶をした。
「はじめまして、私の名前はクロエ。そして、お会いできてうれしいです・・・青の勇者ジェシカ様とラピス様。」
え・・・
もちろん、彼女とは初めて会うわけで私の事を知っている可能性はあっても
ユキがラピスである事を知っている人は知り合いでもない限り分かる事はないはずだった。
そんな動揺した私とユキを見て、クロエは話を続ける。
「そうですね、私がラピス様の子孫といえば分かりますか?」
「!!」
ユキは首を横に振った。
「そんなはずはない。彼女は何人も結婚していて僕はその中の一人にすぎない。」
「そういえば、ラピス様が亡くなってからですね。ソフィアがご懐妊していた事実が知られたのは・・・」
「嘘だ・・・。」
ユキは頑なに否定する。
「そうですか・・・ラピス様はまだソフィアを許せないのですね。」
クロエは悲しそうな表情を見せている。
かなりショックなのだろう、クロエが会いたがっていたのは私ではなくユキ。
ご先祖様にあたる彼からその存在を否定されているのであれば落ち込むのも当然かもしれない。
少し落ち着いてからクロエは私に話をする。
「ジェシカ様、お願いが2つあるのですが良いでしょうか?」
「2つ?どんな内容なの?」
「1つは私とあるクエストを受けていただけませんか?」
「いいよ。」
クロエの1つ目のお願いは問題ないので私は快諾した。
どんなクエストなんだろうなぁ楽しみだ。
「そしてもう1つは私と戦ってください。」
「いいよ。」
・・・
・・・・・・え?
いや、私の聞き間違いだよね。うん、もう一度聞いてみよう。
「ごめん、私の聞き間違いかもしれないけど・・・『私と戦ってください』って聞こえたんだけど?」
「はい。一度お手当合わせ願いたくて。」
「・・・分かったよ。ユキ、シノブは警戒しておいてね。」
ユキとシノブが立ちあう中、私はクロエと戦う事になった。
クロエは壁に立てかけていた剣を持って剣を抜き、鞘はまた壁に立てかけた。
展望台は月光に照らされて、クロエの金色の髪が美しく輝く。
・・・!!
クロエはその身なりに反して、一気に間合いを詰めてきた。
「やるねっ!・・・でも、甘いよ。」
私はクロエの剣を軽く受けて、勢いを外へと流す。
「まだですよっ!」
クロエは攻撃を受け流された体勢から、更に私へ切りかかった。
私はバックステップをしてクロエの攻撃を回避する。
「・・・何か変わった技だね。」
「え・・・」
私の動きと言葉にクロエは驚いている。
「あの・・・見た事ないんですか?」
「どういう事??」
何かロッソに来てから戦闘と疑問ばっかりだ・・・
その疑問にはユキが答えた。
「必要ないからだよ。既にジェシカの剣は僕のそれを越えているのだから。」
「もしかして、アレがユキ・・・ラピスの技?」
「ユキで構わないよ。」
「うん・・・。」
私の様子を見てか、クロエはあんまり納得は出来ない様だ。
「・・・どうして?」
「クロエ?」
「今のラピス様はウサギなのになぜそこまで・・・」
クロエの剣は荒くなっている。
激しい剣戟に強い怒りを感じる・・・
「そう言われてもね・・・」
横目でユキを見るけど・・・うーん・・・何だろうね。
でも、そうなったのは事実なので仕方がない。
「なんで・・・どうして・・・」
加速するクロエの剣を捌いていく。
「本来なら、ラピス様の子孫である私が・・・どうしてあなたが青の勇者なのっ!!」
それに関しても・・・何だろうね・・・そうなってしまったんだから仕方がない。
「どうして・・・どうして・・・どうして・・・」
「だあぁぁぁっ!!」
クロエの剣を受けると、剣を持った右手側に力が流れる様に流して
そこに右膝をみぞおちに当てる。
クロエは自分の剣の勢いの分も私の右膝をくらう事になり、彼女は気絶する。
「え、ちょっとジェシカっ!?」
「ふぅ・・・。あっちが熱くなっていたからね。まぁ、クロエが目を覚ました時にでもゆっくりと話をしよう。」
「えぇ・・・。」
ちょっと引き気味のユキに私はクロエが目が覚めたら話す事を約束して
展望台で月を眺めながら彼女が目覚めるのを待つとしよう。
少し時間が経つと、クロエが目を覚ました。
「う・・・うぅぅん。・・・私・・・負けたんですね。」
「うーん、負けたって言って良いのかな。確かに気絶はさせたけど、何が勝ちなのかは決めていなかったからね。」
「やはりあなたと戦えて良かった。これで・・・あのダンジョンをクリアする事が出来る。」
クロエは目をつぶり、体を横にする。
「もしかして、私と一緒に行ってほしいと言っていたクエストって・・・」
「はい。そのダンジョンの攻略です。」
(続く)
最後まで見ていただきありがとうございます。
王城跡地で出会ったエルフ族の女性クロエは、自分をラピスの子孫だと語る。
しかし、頑なに信じないラピスに拒絶感を感じるクロエ。
クロエとの対決の中でクロエはジェシカとならあるダンジョン攻略も可能だと確信をする。
設定補足:クロエ
自分の事をラピスの子孫といい、ラピスの剣技を使える。
今では滅んだとされている方のエルフ族の女性。
ユキがソフィアと見間違えたり、ラピスの剣技を習得していたりと子孫である可能性が高いのだが・・・