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異世界でも恋愛は出来ますか?  作者: 香坂 悟
雪の章
66/309

66、見つめる夜空に月はなく (1)

僕が転移した場所はずっと夜だった・・・

王城で謁見を終えた後、城下町へ行こうとすると綺麗な歌声が聞こえる。


僕は歌声に導かれて足を進めると、少女が夜空に向かって歌っていた。

少女の金色の髪は月夜に輝いていて、まるで月の女神様だった。

その時から僕は彼女に心を奪われていたんだ。


ーーー


・・・まさかこんな事になるとは思っていなかった。


夜空に走る剣戟・・・

ロッソで待ち受けていたのは戦闘だった。


「あなたがオウガとケーオスをね・・・剣技はそこそこかしら。」


私のレイピアを軽く受け止めて、紫の長い髪を伸ばした女性はそう言い放った。


彼女は魔王四天王の1人鮮紅のジュリア、オウガとは違い細身の剣を振るう剣士だ。

体格は人間の女性と変わらず、魔力というものは感じられない。

特出すべきは剣の技だ。敵でなければその剣の鋭さを褒めたいけど・・・油断は出来ない。


「モニカ様はあなた達の事を気に入っているみたいだけど、私にとっては邪魔でしかないから覚悟して下さいね。」


ジュリアは密着するくらい近寄ると、そこから左回し蹴りを私の右わき腹に当てる。


「くっ・・・。」


私は少しのけぞって片膝をついた。

本当になんでこんな事になったんだろう。



1時間ほど前・・・


私達は王都からの定期便でロッソに着いた。

定期便から出た私は驚いた・・・


「ここがロッソ・・・あれ?今って夜だった??」


確か、朝一の王都から定期便で出て約2日ほど東に進んだ場所にある街。

時間的には丸々2日だから今は昼のはずなんだけど・・・


「この辺りはずっと夜なんだ。」

「ずっと夜?」

「他の場所で昼でもここでは夜だから、時計または空の月で時間を判断するんだ。空に月が無ければ他の場所では昼と同じ時間になる。」

「そうなんだ・・・。」


ユキの説明が淡々としていて、少しつらい。

私は夜空を見渡すが空には月はなく、今は昼だという事を理解した。


「ユキ・・・」

「・・・制御輪は歴史資料館にあるはずだ。」


心に感じた壁・・・私達はユキの案内に従って歴史資料館に着く。

街は夜空に包まれているけど、明かりが十分にあるからか歩き回る分には困らない。


建物は白っぽく、まるでコンクリートでも使ったかの様に整った長方形の建物ばかりで

まるで前世のビル街を彷彿とさせる街並みだった。


ここが異世界だと分かるのは道の上に等間隔で並んだ魔法灯で

夜空なのに道は昼間の様に明るくなっている事。


「着いたよ。」



目の前の建物に見た文字を見て驚いた。


「エルフ族の歴史資料館?」


並ぶビルの様な建物の中でも、一際大きい建物にそれはあった。

まさかこの世界でも歴史資料館なる物があるなんて・・・と私は驚いていた。


「僕が転移した先はいつも夜空に包まれたエルフ族が統治する国だった。エルフ族は数百年前に種族間で大きな争いがあって二つの部族に分かれていた。一つが国に残った民族、もう一つが国を捨てた民族だ。」


資料館をユキの案内で見ている。


中には少しだけど、展示を見て回る人もいた。

経路に沿って、エルフ族の歴史を振り返る。


今でも残っているエルフ族は国を捨てた民族の方で、外見は大きく変わっていた。

金色の髪は銀色の髪に、白い肌は褐色の肌に。


どうやら、金髪碧眼の白い肌という私の前世の知識にあったエルフ族もいた様だった・・・


「エルフ族が二つに分かれた原因はこの土地の魔力だった。その魔力によって夜でも昼間の様に過ごせる生活を手に入れる事が出来た。」


夜でも昼間の様に過ごせる生活かぁ

前世では割と当たり前に享受していたけど、無くなると困るものだよね。


「土地の魔力をコントロールする為に、その国は魔法工学が発達した。中でも大元の魔力をコントロールできる巫女の一族はその国の王族になり、その巫女の血を絶やさない様に女性中心の重婚やハーレムが当たり前な常識を持った国が出来た。」


その国にとってはこの土地の魔力が大事だったのだろう。

まさか国が滅ぶとは思わなかっただろうけど・・・


「国が滅んだ理由は女王の圧政と続く内乱だと言われている。女王の圧政の理由は多大な税収で命に関する研究に使われていたらしいね。そして国が滅んだ後は、王国からの移民が入って来てロッソという街が出来た。ロッソの人達は過ちを繰り返さない様に歴史資料館を残したというわけだよ。」


命に関する研究かぁ・・・どの世界でも永遠の命を望む権力者はいるんだね。

やっぱり、歴史から学ぶ事は多いって事かな。


「でも、悪い事ばかりではなかった。治療薬の進歩や魔法工学の技術は完全といかなくても、他の国でも利用される様になり助かった命や便利な生活がある。」


特級治療薬やランプの技術はその国のものだったらしい。

助かった命をこの目で見ているから・・・あの親子は元気にしているかな。


「そして・・・これが制御輪だよ。」


ユキが案内した先に制御輪があった。


「これが制御輪・・・綺麗な指輪だね。」


私がイメージしていた物とは全然違っていた。


簡単に言うと、澄んだ青い宝石の付いた指輪。

ただ、ユキが言うにはこの宝石が特定の魔力を制御する為の物で、実際は宝石ではないらしい。

宝石としての価値は当然なく、歴史的な価値はそこそこある・・・という事で歴史資料館に送られるだろうというのはユキの予想通りだったみたいだ。


早速、館長に事情を話しに行こうとすると


「・・・あの、もしかして青の勇者様ですか?」


と落ち着いた感じの女性に声をかけられる。

紫の長髪ですらっとしたモデル体型。腰に細身の剣を携えていた。


「はい。それが・・・?」

「そうですね。ここにいる人たちを巻き込みたくなかったら私についてきてもらって良いですか?」

「・・・!!」


それは脅迫だった。

私達は黙って頷くと、女性は建物の外に案内する。


「はじめまして。私は魔王四天王の一人、鮮紅のジュリアといいます。」

「えっ・・・魔王四天王!?」


明らかに彼女の見た目は人間の女性そのもので、魔族っぽいものを感じないからだ。


「同じ反応よね。」

「え???」


ジュリアはキョトンとした顔で私の反応に対応していた。


「私は人間だからかしらね。まぁ、正確には剣技を極めたい為にモニカ様からほぼ死なない体にして貰った元人間というべきかしら。」

「どうして同じ人間なのに魔王軍に?」

「剣技の修行と復讐よ。だからこそ私は人の姿のままでいる事を選んだ。・・・そんな事はいいわ。あなたを始末するから話す必要もないでしょう?」


剣技を極めたいと言っていたのは本当らしく、その剣技は洗練されていて・・・

全力で戦わないと勝てないと思う。


「ユキ、テイムコネクト!」


・・・


・・・・・・


「え・・・?」


何も起きない・・・


今までどんなに緊張してたり、動揺していたりしても失敗する事がなかったテイムコネクトが発動しなかった・・・


(続く)

最後まで見ていただきありがとうございます。

今回から「月夜の歌姫」編が始まります。

その土地の魔力によりずっと夜になった街ロッソでの話ですね。


ロッソに来て早々の

魔王四天王:鮮紅のジュリアとの対決と発動しないテイムコネクト・・・

ジェシカはいきなりのピンチをどう切り抜けるのでしょうか。


設定補足:制御輪

指輪の形状をしており、澄んだ青色の制御する宝石らしきものが付いている。

ユキ(ラピス)の魔法に合わせて水と風と雷の属性に対する魔法のコントロールを補助する役割があるが・・・


個人用に合わせて作られた超が付くほどのピーキーな仕様と宝石としての価値はイミテーションくらいなので、歴史的価値を除けば価値は殆どない。

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