54、積もる想いは積乱雲の様に (1)
家の応接室では見知った顔が3人・・・
理由は会いに来たくなったからという事らしく、私はアルマにおもてなしをお願いして応接室の席についた。
「いやあ、こうして話すのも久しぶりだな。ジェシカ。」
「そうだね、ジン。」
私があっさり答えると、ジンは不満そうに声を漏らしだした。
「お前なぁ・・・王都ではあんなに支えてやったのに『寂しかった』とか『会いに来てうれしい』とかそんな台詞はないのかよ。」
「うん、王都の事はありがとう。アオイとアキラが来てくれたのはとっても嬉しいよ。」
私はアオイとアキラにニッコリとほほ笑むと二人もニッコリと返す。
「ジェシカさんの家凄いねぇ。メイドさんもいてびっくりしちゃったよ。」
「これが冒険者ギルドと癒着した少女の生活かぁ・・・。」
「もう、アキラったら。私はちゃんと冒険者ギルドでお仕事頑張って来ただけだよ。」
私とアオイとアキラは笑いあった。
その様子にジンは凄く不満そうにしている・・・
「おい・・・俺はどうなんだよ。」
「え、ジン?」
私は首を傾げると、力いっぱいジンは首を縦に振る。
「±0」
「はぁ?」
「だから、±0だよ。ジンの場合、上げて落とすか落として上げているから・・・好感度。」
その言葉にアオイとアキラは凄く納得した表情を見せる。
「あ、それ分かる。すごくカッコいい所もあるんだけど、普段だらしないよね。」
「夏休みの宿題とかレポートをよく手伝わされたし。」
「うっ・・・お前たちまで。つか、アキラは文句だけかよ。」
「文句だけで済んでいるのが良い所。」
本当に仲がいいよね・・・もしかして?
私はジンに聞いてみたい事があった。
「3人ってお付き合いしているの?」
「なんでそんな話になる。俺たちは幼馴染の腐れ縁でそんな浮ついた話はないぞ。」
ジンの返答にアオイとアキラも頷いていた。この協調感・・・あぁ、納得。ポン。
あともう一つ聞いてみたい事があった。
「そういえば聞いてみたい事あったんだけど。」
「ん?なんだ?俺はいつでもお前を受けれいる準備は出来て・・・」
「誰もそんな話はしないから。私が何で青の勇者って分かったの?」
「なんだ、ジェシカが俺にデレてくれるとワクワクしたのにな。・・・そう言えば話していなかったな。それはこいつのおかげだ。」
ジンは自分の首に手を伸ばすと、首にかけていたものを私に見せる。それはペンダントだった。
そして、アオイとアキラも同じペンダントを見せる。
しかし、白いひし形に中央に白い球状の宝石がはまった変わったデザイン。
「これが俺たち白の勇者武器。始まりのペンギュラムだ。これである程度だが、他の勇者を探す事が出来るんだよ。」
「へぇ、これが・・・勇者武器・・・ん?俺たちの?」
「元々は一つだったんだが、神様が俺たち3人が一緒じゃないと効果が発動しない様にしてくれたんだ。」
「その機能面倒じゃない?」
私は素直にその効果について言葉が出た。
その言葉にジンはこう返した。
「お前も予想はつくだろうが、本来召喚されるべきだったのは俺でアオイとアキラは巻き込まれたんだよ。」
・・・あぁ、ユキもそんな事言ってたっけ。
「まぁ、こんな世界だ。俺が勇者でアオイとアキラが違っていたらどうなると思う?」
「そうか・・・アオイとアキラを守る為でもあり、国同士のバランスを守る為でもあるのか。」
“ジンさんについては始まりの勇者として各国が協力して召喚する経緯があります”
私はギルマスの話を思い出した。
各国が協力する=出し抜く要素があればバランスが崩壊する。
「ま、そんな訳だ。まだ聞きたい事あるか?俺の好きな食べ物とか色々教えるが・・・。」
「いや、ちょっと前置きが長くなったから・・・そろそろ本題に入ろうか。」
ジンが私の家に来たという事は大体予想がつくわけで、グランナディアからの要請があったのは間違いないだろう。
もちろん、私もグランナディアには迷惑はかけない方向で解決はしたいと思っている。
「やっぱり分かったか。グランナディアのお姫様の件で、どうもお前が関わっているというのが分かったんで話をな。」
「そっか・・・」
私は事のいきさつをジンに話していく。
ジン達は私の話を聞きながら頷いた・・・
「・・・という事で、少し待ってくれないかな。あの子達に必要なのはきちんとした別れなんだと思うから。」
「ジェシカ、一つ聞いていいか?」
「えっと、何かな?」
「お前は『二人を別れさせる』という結論で良いんだよな?」
ジンは変な事を聞いてきた。
「うん。ウィルがテイマーで『主従契約』を持ってしまった以上、現状で二人を幸せにする道は・・・無いと思う。だからこそ、私が恨まれてでも別れさせるつもりだよ。」
「お前も不器用だなぁ・・・もっとその二人にも分かる様に説明すればいいのに。」
ジンは少し呆れながら私にそう言った。
私もそこは何となく分かるんだけど思っている事を話す。
「二人が分からないといけない事なんだよ・・・そこに不器用も何もないよ。ウィルはもちろん、ライラさんもお互いが思い合うのであればきちんと社会を認めさせる為に動かないといけない。じゃないと、他の誰かが不幸になってしまう。そんなのはダメだよ。」
「そうか・・・まあ、俺たちがここに来た以上は立ち会わせてもらうぞ。ライラ姫が無事ならグランナディアと王国の関係も保てるだろうしな。」
私の意見を聞いて、ジンはそれ以降何も言わなかった。
「まぁ、あの二人の結論が出るまではそっとしてほしいかな。それまでは家でゆっくりしていってよ。部屋もあるから好きに使ってくれていいよ。」
「あぁ、お言葉に甘えさせてもらうよ。」
1つの追放物語は収束を迎えようとしていた。
しかし、それは大きな話の通過点出なかった事をその時の私は知る由もなかった。
(続く)
最後まで見ていただきありがとうございます。
ジン達の介入、今まで語られなかった話がチョロチョロと出ました。
次はウィル達側を掘っていく感じになりますね。
設定補足:始まりのペンギュラム
白の勇者武器。形状は白のひし形に、中央に白い球状の宝石が付いたペンダント。
始まりの勇者は他の勇者を探し出し、導くという使命が与えられている。効果は他勇者の捜索から、特殊なバフまで与える事が出来る(特殊なバフ効果については、とある事情により現状では使用できない)。
ちなみに、ジンの望みに合わせて3人が一緒の時じゃないと効果が発揮しない様に神様が調整している。