53、その出会いは誘導雷の如く (5)
私がウィルからライラを奪うと・・・
つまり、ウィルの怒りの意味はこういう事だ。
「奪う事はしないよ。でも、このままではウィルとライラはダメになってしまう。」
鍔迫り合いの状態だったライラを押し飛ばすと、ライラは後ろに着地する。
「では、私達はどうしたらいいんですかっ!!私はグランナディアの王女、ウィル様は「主従契約」持ちのテイマー・・・私達が幸せになれないというのであれば、幸せになる方法を教えて下さいっ!!」
ライラの叫びが私に響く・・・
正直な所、私にはいい方法が思いつかない。
「それは・・・」
言葉の出ない私に、ウィルはライラの左肩に自分の右手を置き・・・
「いいんだ・・・」
「ウィル様・・・」
「戦争にはならないさ、俺が全て倒せばいい。王都やグランナディアからの刺客でも。」
そう言うと、左手を握りこぶしにして力を込めていった。
私に向けて左手を開き・・・
「ブラストっ!!」
強力な突風が私に飛んでくるが、レイピアの前では明らかに無力で
軽く切り払うと何事も無かった様に風は流れていく。
「ウィル、借り物の力でなんとかなると・・・あれ?」
「(どうしたの、ジェシカ?)」
ふとある事が気になった。
それはウィルが使っている魔法がずっと『ブラスト』という突風をぶつける魔法しか使っていない事。
風属性の魔力を奪われた持ち主が言うのもなんだけど、もっと有効利用出来るはず。
「ねえ、ユキ。なんでウィルってブラストしか使ってないの?」
「(良く分からないね。)」
突風が飛んでは来るものの、あくまで私の魔力だからその動きは見える。
後はレイピアで切ってしまえば簡単に無効化できてしまう。
「ブラストっ!ブラストっ!!ブラストーーーっ!!」
ウィルの連発するブラストに私はゆっくり歩きながらレイピアを振るう。
「ねえ、『この程度』でウィルはライラを守れるの?」
挑発する気はないんだけど、素直にこの言葉が出た。
「ファイアーボール!」
「アクアバレット!」
別方向から火球と水の弾が飛んでくるが、多勢に無勢で・・・軽く魔法を断ち切ってしまう。
「あの人って・・・最近復帰したって噂の変わり者テイマーのジェシカさんじゃ・・・」
「え、なんでそんな人が!?」
その二つ名は止めてほしいんだけどなぁ・・・
「そこの女の子達もウィルとライラさんを説得するのに協力してよ。」
「「ひぃっ!!」」
私の言葉に二人は怯えているのだが、一体どんな噂が流れているんだろう。
「!!」
「ジェシカさん、私達に構わないで下さいっ!」
ライラの剣を私は受け止める。
純粋に戦うなら、ライラが一番やりにくいかもしれない。
魔法に関してはレイピアと速度強化でほぼ無力化出来ているから。
「・・・ライラ、手を貸すわ!」
「ありがとうございます。サレンさん。」
私がライラの剣を受けている間にサレンの剣が私に・・・
「甘い。」
サレンが近づいているのは察知できているのだから、対策は出来ている。
受けたライラの剣を軽く下へ流す様に誘導して
「えっ・・・」
体勢を崩したライラを捌いた後
「ごめんね。」
大きく振りかぶるサレンの脇腹に右脚で蹴りを入れる。
「カハッ」
勢いもあったせいでかなり深く入る・・・本当にごめん。
「姉さんっ!ヒールっ!!」
「た、助かっ・・・カレン、前っ!!」
「えっ・・・」
咄嗟にサレンに回復魔法をかけるカレンだが、私の狙いはカレン。
回復魔法の隙に加速強化で間合いを詰めて左拳でみぞおちに一撃を与える。
「うっ・・・」
力なく倒れるカレン。
「よくも二人を。」
「大丈夫、死なない様にはしておいたから。」
「うぅ・・・。」
ライラは私に言いたい事がある様だけど、数人がかりで来られたらね・・・
「もう一度ウィルに聞くんだけど・・・本気でこの子達を守る気は有る?」
「まだっ!」
「ううん、ライラ・・・終わりだよ。スタンフィールド。」
純粋に戦えばライラとはやりにくいけど、それは単純に力比べや速さで戦えばの話で。
ユキとテイムコネクトした状態なら雷魔法は使えるから不利になる事はない。
「キャッ・・・」
ライラは飛ばされて、後ろに下がる。
「・・・ちょっと話を遮られたんだけど、ウィルはどうしたいの?」
「くそっ、ちくしょう・・・」
地面を叩きつけるウィル。
その悔しさは彼女たちを守れない事なのか、自分の無力さに対してだろうか?
「・・・分かった・・・1週間後、またここに来てよ。その時にウィルの答えを聞くよ。あ、ギルドには話を通しているから逃げようなんて思わないでね。逃げたら私がウィルにトドメを刺しに行くから。」
私はウィルにそう言い残し、街に移動した。
冒険者ギルドに立ち寄ってギルマスにお礼と事情を話した後は家に帰った。
自分の机で考え事をしていると、ユキが話しかける。
「あんな言い方してもいいの?すっかり悪役だけど。」
「ウィルの事?ライラさんは気の毒だけど国に戻ってもらう必要はあるんだ。追放にしてもそうなんだけど、要は落としどころが必要なんじゃないかな。」
「その為に恨まれ役を買って出るとか・・・」
「まぁ、ウィルの保護者みたいなものだからね。仕方ないよ。」
ウィルの恨みが私にいく分なら仕方ないと思う。
他の誰かが迷惑する事に比べれば些細な事だった。
時間も与えたから、二人はちゃんと考えるべきだと私は思っていた。
(続く)
最後まで見ていただきありがとうございます。
力ではどうにもならない事を分からせた後、二人に別れをきちんとさせるためにジェシカは一旦引く事にしました。
二人が出す結論にジェシカはどうするのか・・・
設定補足:サレンとカレン
実家の生活苦で村の冒険者になった姉妹。サレンは落ち着いた性格でカレンははっきり物を言う性格。
適正属性が火と水で戦闘面での相性は良くないけど、姉妹の仲は良い。