51、その出会いは誘導雷の如く (3)
ウィルを庇う少女に私は驚きを隠せなかった。
ベレー帽からはみ出た金髪は風になびいて威圧すら感じる。
「ジェシカさん・・・でしたよね。引いていただけませんか?」
「・・・。」
「(ここは引くべきだ。)」
「分かっているよ、ユキ。」
この少女はやろうと思えば私に攻撃できたはず。
なのにやらなかった・・・何者かは分からないけど、戦う意思がない事は理解している。
私はレイピアを鞘に納めた。
「ありがとうございます。」
少女は一礼すると、ウィルの手を引いて走ってその場を離れた。
「本当に何者だろうか・・・」
「(・・・まさか。)」
「どうしたのユキ?」
「(いや、勘違いかもしれない。気にしないで。)」
私も思い当たる所はあるんだけど、確定できるまでは口に出さない事にした。
ーーー
少女はウィルの手を引き、森の中を走る。
「はぁ、はぁ・・・ここまで来れば・・・ウィル様?」
少し息を切らし、震える足を抑える。
実は、ジェシカが手を止めてくれるかは賭けだった。
この国に来てから獣人と同じ速さで戦う人と対峙するのは初めてで、ウィルを庇う事が手一杯だった。
「ジェシカさんが引いてくれてよかった・・・もしかしたら、ジェシカさんもウィル様の事を・・・ウィル様?」
ウィルの様子に少女は違和感を覚える。
「・・・君は何者なんだ?あの時、君が助けてくれなかったら俺は・・・。」
「私の名前はライラ・・・その名前だけで十分です・・・」
ライラはウィルの瞳を見つめる、その眼差しはウィルの心を動かすには十分に強く
「ライラ、今は逃げよう。」
「はい。話せる時が来たら必ず。」
二人は手を取り合い、あてなき道を走っていく。
ーーー
「リィナの里帰りがとんでもない事になったね・・・。」
“覚えている・・・ジェシカ、左手を地面に当ててほしいの。”
私が地面に手を当てると、地面からブレスレットへ魔力の流れを感じる。
「リィナ?」
“思い出した・・・ジェシカ、私の言う通りに進んでくれないかな。”
リィナの言葉通りに進むと、そこには一軒の家。
そして、そこは火が通っていた痕跡があった。
「暖かい・・・さっきまで誰かが使っていた?」
「(もしかしたら、ここがウィルさんの家かもしれない。)」
壊滅した村で生き残りはウィルだけ。
そして、ウィルが戻ってきたという事は自分の家を使っていても不思議ではない。
“そこの本棚にある赤い本を取って。”
「分かったよ。」
その本はある女性が書いた日記だった。
いつも夫と子供の事について書かれていて、他人の私から見ても愛を感じる内容だった。
「リィナって・・・もしかして、この日記の人に・・・」
“ずっと一緒だった。この村では種の状態の私達に血を与える事で私達と契約をしていて、成長のコントロールと土属性魔法が出来る様になっていた。でも、花粉での昆虫の使役は村の近くに出来たハチの巣相手には焼け石に水で、ウィルを逃がすのに手いっぱいだった・・・ジェシカ、お願いがあるの。”
まるで前の持ち主に呼応するかのように、リィナは今までで一番話している。
「リィナ、聞かせて。」
“ウィルを救ってほしいの・・・過ぎた力はあの子を傷つけてしまう・・・”
風属性の魔力は返してもらうし、ウィルは自分で種を壊してしまったから
後は魔力を返してもらうだけだね。
「私で出来る事なら協力するよ。」
“ありがとう・・・。”
ーーー
二人は近くの村に来ていた。
「ウィル様、私にも戦わせていただけませんか?」
ライラはウィルを思い、戦う道を選んだ。
しかし、ウィルにも思う所がありライラを戦わせることに躊躇っていた。
「女の子を戦わせるなんてな・・・」
ウィルが頭を撫でるとライラは顔を赤らめ、ウィルに寄り添う。
「モンスターが出たぞっ!!」
村人の叫び声に、二人はモンスターの所へと向かう。
そこには馬車に護衛の2人の冒険者がいて、大きなイノシシのモンスターに襲われている。
二人の冒険者は姉妹らしく、お互いの身を思い少し言い合いをしていた。
どうも赤髪ロングの女の子が姉で青髪ショートの女の子が妹の様だ。
「姉さん、ここは私が食い止めるから。雇い主と逃げて下さい。」
「何言っているのよ、あなたが雇い主と逃げなさいよ。」
イノシシは馬車に向かい、威嚇をすると突進に向けて力を溜める。
「ブラストっ!」
ウィルはイノシシに魔法をあて、注意を自分に引きつける。
「これで・・・!!」
イノシシはウィルに突進をして、ギリギリにかわすが次はかわせない。
追撃の突進に向けてイノシシは力を溜めていた。
そこに・・・
「そこの冒険者さん、剣を失礼します。」
「え?」
ライラは姉と思しき冒険者から剣を拝借して、イノシシを踏み台にして蹴上がり
そして、イノシシの脳天に剣を突き刺した。
ドシィィィン!!
・・・とイノシシは絶命し、その場に倒れた。
「ウィル様、これでも役に立てませんか?」
「仕方ないなぁ・・・」
再び、ウィルはライラの頭を撫でた。
「あ、その・・・どうも。」
「助けていただきありがとうございます。」
居合わせていた姉妹の冒険者はウィルとライラに礼を述べた。
そこに脅威がなくなったと判断してか、馬車から雇い主が出てきて。
「助けてくれてありがとう、あらためてお礼がしたい。」
そう言うと、ウィル達を馬車にのせ雇い主の家に招待される事となった。
(続く)
最後まで見ていただきありがとうございます。
リィナからのお願いをされたジェシカ、ウィルとライラの繋がり
ウィルが得たものは彼をどう変えてしまうのか・・・
設定補足:ウィルはケイン達に『ざまぁ』するのかについて
『ざまぁ』の予定はありません。
但し、見返したり等の展開については保留です。
理由ですが、元々話し合いで解決する追放劇だったのに加えて、知らないとはいえウィルの故郷の人達のお墓作ったりと間接的には返しているわけなので
ここに『ざまぁ』を持ち込むのは筋違いかなぁと。
・・・まぁ、本人同士で殴り合い程度なら許せる範囲でしょうか。