47、罪と罰は決して釣り合わず (3)
どうしてケイン達といたのか?仕事だからとしか言い様がない。
「ギルドの仕事でなんだけど?」
その回答にウィルは更に激昂する。
「あなたは俺の味方じゃなかったんですかっ!?」
「ウィルの味方?まぁ、味方になるのかな・・・だから??」
私はウィルの言葉の意図が良く分かっていない。
「ごめん、良く分からないから確認したいんだけど・・・ウィルの味方である事とケインの仕事を手伝う事の何が関係あるの?」
「俺の味方なら・・・なんでそいつらを手伝うんですか?俺がいなければ何にもできない連中なのに。」
余計に分からない。
追放のいきさつを考えればウィルにも問題はあるんだけど??
「俺がいない事で勝手に落ちぶれていけば良いのに・・・どうしてあなたは邪魔したんですか・・・」
「邪魔?邪魔ってどういうことなの・・・」
え・・・ウィルにとっての味方って道具か何かなの?
「そうか、分かったぞ・・・あなたは俺から勇者パーティーのメンバーとしてのポジションを奪いたかったのか・・・俺が追放している様子は見ていたからな・・・そうか・・・そうか・・・」
「・・・。」
どんどんと何処かへ転げ落ちていくウィルに私は何も言えなかった。
そこに、ケインが助け舟を出してくれた。
「おい、ウィル。ジェシカさんは俺たちの仕事に厚意で手伝ってくれただけだ。訳の分からない事を言って困らせるな。」
「ケインさん、俺がいなくて困りましたよね?」
ウィルは何かに縋るかの様にケインに質問をした。
「あぁ、確かに困ったな・・・」
「それじゃあ・・・」
ケインの同意に、ウィルは笑顔を取り戻しているが・・・
「だがなぁ、それは単に人手が足りないというだけの話だ。だから、お前じゃないといけなかったわけではない。」
「そんな・・・」
「まして、お前はパーティーに対して報告・連絡・相談が出来ていなかった。そんなお前に俺たちのパーティーで居場所があると思うなよ。」
ウィルは絶望的な表情とともに、発狂しだした。
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だーーーーーーーーーーっ!!」
頭を抱え、空に向かって叫ぶその様子は目も当てられない・・・
「・・・お前は何様のつもりなんだ?」
ケインはウィルに質問した。
私から見ても同じ質問をしていたんじゃないかなぁと思う。
「俺が何様だって?勇者パーティーの一員として世界を・・・」
「あぁ・・・それな。お前に謝らないといけない事があったな。実は俺たちは青の勇者ではない。」
「はぁっ!?」
ウィルは驚きを隠せない様で、焦りながら言葉を探す・・・
「い、いや・・・青の勇者だって・・・。」
「お前にとっては勇者パーティーの一員として世界を救いたかったのかもしれないが、お前は誰も救えていないじゃないか。ジェシカさんにも迷惑をかけていたんだろ?」
ウィルは私を見るけど・・・かける言葉がない。
「じゃあ、俺が本物の青の勇者を見つけて・・・」
・・・ここは私が答えないといけない。
「ごめん・・・ウィル。」
「・・・どうしてジェシカさんが俺に謝るんですかっ!?」
戸惑うウィルに私は伝える・・・
「私が青の勇者なの・・・ウィルは勇者パーティーとして世界を救いたかったのかもしれないけど・・・今のあなたでは仲間には・・・出来ない。」
「ははは・・・ははは、ははははは・・・はぁーーーーーーーーーっ!!」
壊れていくウィルにどう声をかければいいのだろうか・・・
「ふ、ふざけるなーーーーーーーぁっ!!そ、そうだ・・・俺が、俺が勇者になれば世界を救える・・・」
「ウィル!?」
「ストーンバレットっ!!」
ウィルはいきなり街中で魔法を放つ。
避けられなくもないが、こんな町中で魔法なんて放ったら・・・そうだっ!
レイピアで飛んできた岩石を切り、魔法効果を打ち消す。
そして・・・
「シノブ、テイムコネクトっ!!・・・からのウィンドベールっ!」
私はウィンドベールを周囲に展開した。
この魔法は周囲に風属性の魔力を展開する。
これでウィルの使う土属性魔法を相殺できるはず。
「それがあなたの切り札ですか・・・なるほど、魔法が発動してもすぐ消えてしまう。」
右手を前に出し、魔法の不発を確認したウィル。
「そうか・・・あなたもそいつらとグルになって俺を貶めていたのか・・・。」
更に暴走は加速していき・・・
「ちくしょう・・・こうなったらっ!!・・・これを使ってやるっ!!」
ウィルの右手に赤い魔力が収束している。
・・・それは職業テイマーなら誰でも知っている魔法「主従契約」だった。
「それは、『主従契約』!?」
この魔法、もちろん人間には効果はない。
但し、獣人に対しては効果があった。
それは奴隷制度のないこの世界で彼らの尊厳を奪う意味になった。
その事で大昔に西の獣人国グラスナディアとの戦争になり
終戦時に“主従契約を獣人に使用してはいけない”という協定が結ばれている。
今は国交こそあれ、王族や大臣や商人を除けば獣人と交流する機会は滅多にない。
お互いを守る為に最小の国交のみを結ぶ・・・それがこの世界での人間と獣人が得た答えだった。
仮にテイムコネクトの状態が獣人じゃなかったとしても、シノブとは主従契約を結んでいるわけではない。
切羽詰まったとはいえウィルがそんな手を使ってくるのは予想外で、私は何も出来なかった。
「主従契約っ!!」
ウィルの魔法が私に向けて発動したっ!!
(続く)
最後まで見ていただきありがとうございます。
暴走するウィルが発動させた「主従契約」の結果はいかに・・・