46、罪と罰は決して釣り合わず (2)
火の精霊、水の精霊、風の精霊、土の精霊、光の精霊、闇の精霊により世界は作られ
その姿は自然から動物、人へと姿を変えていった。
汝、精霊を崇めよ。汝、全てを愛せよ。
さすれば精霊の御名の元、全ては巡る。
「・・・良く分からないね。」
私は開いた本を読んだがさっぱりだった。
「なるべく簡単に言ってしまうと・・・全ては精霊によって作られたものだから、私達はその一部として精霊を崇める気持ちを忘れてはいけないって事かな。」
ユキが肩の上でそう言った・・・これ、どこが悪いの?
王国の歴史の中で確かに弾圧されてきた背景があるんだよね??
「なんで精霊信仰は弾圧されたの?」
素直に出た疑問だった。この教えが何の脅威になるのだろうか??
そんな疑問にケインが私に話しかける。
「へぇ、あんたでも分からない事ってあるんだな。」
「ケイン、それはもちろんだよ。」
「素直に答えられるのは良い事だよ。質問をしよう、そうだな・・・『好き』の反対の言葉は知っているか?」
・・・また、前世で聞いた事のある質問をケインがしてきた。
「無関心。」
「そうだな。『嫌い』ではなく無関心。それが分かっているなら、精霊信仰がどうして弾圧されてきたのかは分かるんじゃないか?」
『好き』の反対が無関心。なら『嫌い』は?
「愛があれば憎しみも教義に認められる・・・」
「上出来だな。誰かは分からないが精霊信仰信者の中で憎悪が広まってしまい、王国内が混乱した・・・それが王国での弾圧の発端だと言われている。」
「誰かの憎しみを宗教の教義で信者全員が背負うのかぁ。」
これは別に珍しい事ではない。宗教による戦争なんてこの世界に限ったものではない。
まぁ、王国の歴史に刻まれたものという形で、私はこの話を収める事にした。
深く突っ込んではいけない・・・そんな気がした。
井戸での調査を終えた後、みんなで話し合う。
本棚は精霊信仰に関する本だけだった。そして、ケインが意見をまとめる。
「モンスターの襲撃の理由にはならないな。・・・さて、これに関しては王都の判断に任せよう。」
「そうだね。これは勝手に処理は出来ないね。」
王都に判断を任せる。これは全員共通の意見だった。
真っ先に井戸を調査する形になったけど、建物の損壊状況を見る限りだとある一定の方向からの襲撃というのは何となく分かる。
進行方向にそって建物が崩れていたから・・・西から東に向けて。
つまり、西方向に原因の何かがある。
「シノブ、どう?」
「離れてはいるけど、巨大な昆虫・・・多分、ハチ型モンスターの巣がある。」
西の草原にはハチ型のモンスターはいるが、巣に関しては草原にはない。
「あれが、グラスビーの巣なのかぁ・・・」
遠くから見える、スズメバチの巣っぽいものが見える。
直径20m程の球形の巣。
「ジェシカ・・・」
「ユキ、分かっているよ・・・囲まれている。ここも縄張り範囲みたいだね。」
小さい音ではあるが、警戒音のカチカチと何かを鳴らしているのが聞こえる。
「ケインたちは井戸の中に。私がちょっと片づけてくる。」
「すまない。任せた。」
「これも勇者としての仕事かな?なんてね。」
ケインたちを井戸の集会所に避難させる。
ここは安全なのだが、助かった村人がいなかったのは避難場所には向かないから。
井戸の中ぐらいの位置にある横穴なのですぐには逃げられない。
私達はおそらく、蜂の巣を調査する必要があったのだ。
そう、ここまでで“誰の死体も見つかっていない”から。
「シノブは井戸の周りに待機しながら、ハチが来たら迎撃お願いね。」
「分かった。」
「ここは一気に叩くよ。ユキ、テイムコネクトっ!」
私は蜂の巣に向けて一気に突き進む・・・
「スタンフィールド!」
自分から3m程の範囲に電気の結界を張り巡らせる。
襲ってくる働きバチならこれで迎撃出来る。欠点といえば、周囲を巻き込むので味方がいる時には使えない事。
シノブにケインたちを護衛させたのもそう言った理由がある。
森の中にある蜂の巣はまるで城の様に見える。
「ハチはこっちに集中しているみたいだね。」
「(上位のハチが来るよっ!!)」
流石に上位のハチには怯むくらいの効果なので、怯んだ瞬間に外殻の隙間をついて電気を流し込んで討伐していく。
蜂の巣に到着した・・・
「うっ・・・」
私はそれを見た瞬間に吐き気が襲う。
・・・ハチの巣の下には無数の骸骨とマジカルパンジーが咲いていた。
犠牲者で間違いないと思う。かたい部分は蜂の顎では砕けなかったという事だろう。
「ユキ、思いっきりやるけど大丈夫?」
「(・・・うん。)」
私は意識を集中させる。
「サンダーボルトっ!!」
蜂の巣を包むほどの巨大な稲妻を巣に落とした。巣は落雷で燃え上がり、中から大量のハチが出てくる。
「これが弔いになるのかは分からないけど・・・」
ハチを切りながら、私はつぶやく
「(ジェシカ、これは止められなかったんだよ。)」
それはユキの言う通りだった。
壊滅した村はウィルの故郷で間違いないだろう・・・
ハチの巣と村が近かった事、ハチにとっては村の存在は脅威になる事、マジカルパンジーでハチを操るには限度があった事・・・色々な要素が合わさっての結果だから。
「・・・。」
気付いた時にはハチの死骸に囲まれて、私は立ち尽くしていた。
“くるしい・・・”
声が聞こえた。しかし、周辺に誰かいるわけではなく。
“まりょくを・・・”
やっぱり何か聞こえる。
意識を集中させると、それは足元にあった。
「種?」
見た事がある。ウィルが持っていた種・・・マジカルパンジーの種だ。
シノブは摘んだらいけないって言ってたけど庭に植える分は良いよね。
とりあえずポケットに入れると声がしなくなった。
私はケインたちと合流してハチの件を話した。
「そうか・・・これで調査クエストはクリアだな。村人は埋葬しよう、ジェシカは少し休んでいてくれ。俺達がやっておくから。」
犠牲者は多く、私も少し休憩した後は埋葬を手伝った。
その日は犠牲者を埋葬して、壊滅した村で一夜を過ごした。
次の日、朝日に合わせて村を出て特に問題なく冒険者ギルドに着いた。
建物の前でウィルの姿を見つける。
・・・良かった、外に出てくれたんだ。私はすぐに声をかけた。
「あ、ウィルっ!」
しかし、私の喜びとは反対にウィルには影が落ちた表情を隠せない。
まるで何かに裏切られた様な・・・そして、言葉を発する。
「なんで・・・」
「ウィル?」
私の疑問にウィルは叫ぶ事で答える。
「なんで、あなたが勇者パーティーにいるんだよっ!!!」
(続く)
最後まで見ていただきありがとうございます。
精霊信仰と村が壊滅した理由、そして激昂するウィル・・・
追放劇はさらなるめんどくささを加速させます。
設定補足:グラスビー
草原を飛び回るハチ型モンスターで草原ではなく森に巣を作る。草原が餌場になっている。
森で遭遇するフォレストビーとは同一種になるらしく、巣に近くなると更に強力なエルダービーが女王ハチを護衛する。市場に出回る事はまずないが、ハチミツ・ロイヤルゼリーは高額で売れるとか(採取に苦労するので・・・)