34、お別れに風花を飾って (2)
私とケーオスは対峙する・・・
グラースから伝わってくる怒りと悲しみは冷気となり私を包んでいる。
「たかだかオオカミ一匹と瀕死の小娘じゃないかっ!!死ねっ!ファイアボール。」
ケーオスはファイアーボールを放つ。
飛んでくる火の玉がぶつかるが・・・
「!!・・・む、無傷だとっ!!これでどうだっ!ファイアストームっ!!」
無傷の私に追撃でファイアストームを放つが・・・
「バ、バカな・・・」
怒りの限界を突破しているグラースの冷気の前では炎の渦ですら暖かい風程度だった。
私はケーオスへと歩いていく。
その一歩一歩が・・・
私にとっては怒りを、相手にとってはプレッシャーを加速させていく。
「バカな、バカな、バカなーーーーっ!!」
ケーオスは焦りからファイアーボールを連発するが
イメージが威力に直結する無詠唱魔法に焦りは禁物で・・・
もはや生暖かい風。
「ノーザンクロスっ!!」
ケーオスの懐に加速強化で間合いを詰め、更に全身を加速させてケーオスに十字を刻む。
一瞬で氷に包まれると、力の行き場を無くした氷が砕け散った。
「カハッ!!」
ケーオスは私の攻撃にのけぞる。
「くっくそ・・・ここは一旦・・・!!」
逃げようとするケーオスの翼に刺さったのは炎の矢。
「な、なんだこれは!・・・火の矢、まさか王城で見た・・・。」
「逃がさないよ。」
ルークの遠くから放たれた矢に動揺している間に
私はケーオスの翼を切り落とす。
「ぐあぁぁぁっ!!」
「ダイヤモンドダスト」
冷気を纏ったレイピアの高速で放たれる連続刺突
猛烈な冷気の前に逃げるすべはなく、氷結の洗礼を受ける事となる。
トン・・・
最後に切っ先で突くと
衝撃とともにケーオスは氷と一緒に砕け散った・・・
それはダイヤモンドダストの様に・・・
「ジェシカ、応援に・・・って、もう終わっていたか。」
ジン達が到着していた頃には全てが終わり
私の隣にいたグラースの弔いの咆哮が山を包んでいた。
グラースの咆哮に応える様に山は狼たちの悲しみに包まれた。
数日前・・・
私とジンはトンネルの調査に来ていた。
念の為、ユキとテイムコネクトした状態で。
「これ、単なるトンネルだな。・・・ジェシカ、ちょっと失礼するぞ。」
ジンは私の左手を掴んで、ブレスレットに鑑定をかける。
「ほう、これはいい装備だな。氷耐性がかなり上がるみたいだ・・・どうした?右手に雷なんか溜めて・・・」
「セクハラは駄目だよね(ニコニコ)」
「ちょっと盗聴されてないか確認をだな。」
「盗聴?」
私が首を傾げると、ジンは真面目な表情で話を続ける。
「真面目な話だ、幸い盗聴されてはいないからここで話すが・・・グラースがこの件に関わっている。」
「え、まさか・・・悪魔と戦った時、何もなかったけど?」
悪魔と戦った時グラースに対する言及はなかった。
私の言葉にジンはあっさり返答する。
「そりゃ、お前がテイムコネクトしていたからだろうな。隣にはグラースいなかっただろう?」
「うん。王都に入ってから王城で解除するまで発動してたね。」
「パッと見でテイムコネクトしたお前って、ケモミミ付けた女の子にしか見えないからな。」
「なるほど・・・って、それバカにしているの?」
少しバカにされたみたいなので怒ると
「いや、可愛いんだよな。特にユキとのテイムコネクトをしている時は、お色気要素はないが可愛さと情欲に駆られるというか、結婚して子作りを・・・ギャ―――っ!!」
「セクハラ禁止っ!」
・・・ジンに雷を落とした。
その後、調査資料と照らし合わせて
グラースと悪魔が繋がっている証拠になりそうなものを集めていく。
後は悪魔が仕掛けてくるのを待つだけ。
おそらく、グラースと強いつながりがある私がターゲットになる。
他の人だと逆に警戒されるだろう、特に私から疑われるから。
いざという時の為にルークとセルリアには遠距離での支援をお願いしていた。
ちなみに、ルークとセルリアに渡していたのは消臭剤。
グラースに匂いで感づかれると作戦が失敗する可能性があるので。
「・・・という話があったんだね。」
「なるほど、私はジェシカ達に一杯食わされたわけだ。」
グラースに状況を説明すると、一杯食わせれたとか言い出したので私は取り繕った。
「ほ・・・ほら、敵を騙すにはまず味方からって言葉があるわけで・・・。グラースが氷の魔法を使ってくれるかは賭けだったし。」
「それでも、私を味方だと信じてくれていたのだな。」
・・・私とグラースの間に沈黙が流れる・・・
私はグラースに話したい事があったので言葉を繋げる。
「ねぇ、グラース。」
「・・・。」
返事はしないが、耳を動かしているので話は聞いている。
「やっぱり、私達と来ない?」
「・・・すまない、今の私には一緒に行けない。仲間も守れなかった上に、お前たちを裏切っていた事には変わりないからな。」
やはりグラースの気持ちは変わらないみたいで、私はその決断を受け止めなくてはいけない。
「・・・そっか。私達は気にしてはいないから、いつでも待っているよ。」
グラースは立ち上がり、ゆっくりと去っていく・・・
私は去りゆくグラースに声をかける。
「また会えるかなっ!?」
直接語り掛ける事はなかったけど
ブレスレットを通じて語りかけてきた。
「いつかまた会おう、ジェシカ・・・」
「うん・・・」
言葉を交わした後、ブレスレットは粉々に砕け散って風に流れる
・・・それはグラースを送る風花の様だった。
またね、グラース・・・
こうして、再会を誓い私たちも街へ帰っていった。
(続く)
最後まで見ていただきありがとうございます。
王都編完結ですね。
次からまた街を中心とした話になります。