3、雨上がりの空は清々しいのに
今日は急な雨・・・
「いやぁ、ギルドに調査報告書出した帰りに土砂降りとか災難だね。ユキは大丈夫だった?」
この間のスライム調査報告書を提出して、少し買い物をした後に土砂降りの雨。
私はユキに気遣うと、まるで雨に濡れた犬の様に体を震わせて水気を払った。
「ビックリはしたけど、大丈夫。ジェシカも風邪ひくから早く拭かないと。」
「はーい。」
タオルを頭に被り、軽く水分を取りながら長い三つ編みを解いて細かいところまで拭いていく。
「ユキ、今日はどうしようか。」
「まぁ、今日はゆっくりしてていいんじゃないかな。」
窓ガラスを伝う横殴りの雨と風。
外で仕事をするにはきついと判断してかユキはそんな事を言った。
「ユキも体拭く?」
あらかた拭き終わった私はタオルを広げてユキに聞いてみる。
「いいや、大じょう・・・ぶっ!!」
私はユキにタオルをかぶせて体を拭いていった。
「もうっ、どこが大丈夫なのよ。全然濡れているじゃない。はい、拭いていくよ。」
「や、やめ・・・」
嫌がるユキの体をゴシゴシ拭いていき・・・・
「これでよし。」
「・・・。」
体をふき終わる頃にはユキは黙ってしまった。
あれ?拗ねちゃった?
「ユキが風邪ひいたら、仕事が出来なくなって私も困るんだから。」
「・・・分かった。そういう事にしておく。」
私が仕事の為と言うとユキはちょっと機嫌が直ったようだった。
雨が降る中、特にやる事がなかった私はこの間のスライムの話をする。
「そういえば東の森で増えてたスライムについてだけど・・・」
「ジェシカがそんな話するのは珍しいね。」
ユキが私の話す内容について指摘するけど、そこは強引に話を続けた。
「はい、茶化さない。実際に戦って分かったけど、大量発生したスライムはいつものスライムと違って強くなっていた。原因が分からないけど調査は必要じゃないかな?って思うんだ。」
「じゃあ、また東の森に行くんだね。」
「うん。」
雨後のスライムは通常より強くなるので、念の為レイピアを準備しておいた。
雨上がり後のギルドではスライムのクエストが爆増していた。
「あ、ジェシカさん。大変なんですよ~東の森で強いスライムが出たみたいです。」
私が受付に立つとそんな話が出てきた。
いつも通りに調査クエストを受けて、東の森に向かった。
調査クエスト「強化個体スライムの調査」
雨後の森はとても空気が澄んでいて、空も清々しい。
ただ・・・
「ユキ、また粘液まみれなんだけど。」
「そうだね。」
大量発生したスライムの出す粘液で木々が粘液まみれ。
この間といい、あんまり良い気分ではない。さっさと済ませてしまおう。
「テイムコネクト!」
意識を集中して、強化個体の気配を探る・・・
「いた・・・あっちだね。たぶん、戦闘中みたい。」
「(終わっていると調査も楽なんだけど)」
「そうだね。」
ユキの言葉に頷いて、強化個体の所に向かった。
強化個体は緑色が強めで、なんかメロンゼリーみたいで・・・ううん、あれはモンスター。
戦っていたのは大鷲を従えた軽装の男性だった。
「あの~調査クエストで来たんですけど、手伝いは必要ですか?」
とりあえず声をかける。
この間は手を出したけど、普通は一声かけるのがマナーになっている。
同じ討伐クエストだと報酬の山分けが発生したりと色々めんどくさいので。
(ちなみに、この間私が倒したスライムはノーカウントで処理している。)
「獣人・・・?いや、多分倒せるから大丈夫だ。調査なら戦闘の邪魔にならなければ好きにやってくれ。」
「は~い。」
私はスライムから少し距離を取り、強化個体の調書を作成する。
報告書を作成し終えた頃には男性は大鷲と連携してスライムを討伐していた。
男性は私に声をかける。
「へぇ、ウサギの獣人か珍しいな。」
「いえ、違いますよ。・・・危ないっ!!」
私は強化個体の死骸から吐き出された粘液から男性を助ける。
避けた粘液が木に触れるとジュワァァと音を立て溶けていく。
「助かったよ、姉ちゃん。あれはダブルコアだな・・・姉ちゃん、ちょっと手伝ってもらっていいか?」
「はい。」
スライムは基本的に一体につき一つのコアで生まれてくるが、稀に2つのコアを持って生まれて場合がある。それがダブルコアである。
「(ジェシカ、一撃で決めるよ。)」
「うん。」
レイピアを抜き、狙うのはコアの一点・・・
「『加速強化』っ!!」
レイピアの切っ先はスライムのコアを捉え、私が突いた後に風が吹き抜ける。
スライムは風圧で飛び散った。
「・・・・。」
それを見ていた男性は何も言葉が出なかった。
私はレイピアを戻し、テイムコネクトを解除する。
「姉ちゃん凄いなぁ・・・あ、もしかして姉ちゃんって“変わり者テイマーのジェシカ”さんか?」
男性は驚きながら何かを思い出した様で私にそんな事を言ってきた。
何、その変な二つ名は・・・
「何ですか、その“変わり者”って・・・」
「テイマーなのに動物等を従えていないって意味さ。」
ん?
「相棒ならいますよ。ねえ、ユキ。」
「はじめまして。」
「はぁ?ウサギがしゃべった??」
ユキがあいさつした事に驚く男性。
「あれ?この世界のウサギってしゃべらないんですか??」
「しゃべらないよ。さっきの戦いといい・・・俺もテイマーなんだよ。あんたみたいな人がいたらテイマーの地位向上も夢じゃない。どうだ?俺のハーレムに来ないか?」
・・・どうしてこうなんだろう・・・本当にヤダ。
「ハーレム入りはごめんなさい。特殊個体はあなたが倒した事にしておいていいので失礼しますね・・・。テイムコネクト。」
私は加速強化してその場をダッシュで離れた・・・。
そしてギルドに報告書を提出して、宿屋に帰ってベッドにふさぎ込んだ。
「もうヤダよ・・・ユキ、慰めてよ。」
「はいはい」
ユキのフワフワした前脚で頭を撫でてもらい、その日は泣き明かしました・・・
(続く)
最後まで見ていただきありがとうございます。
今回は別のテイマーが出てきます。テイマーという職業が「契約した動物等と一緒に戦う職業」という事で、ジェシカとこの世界の一般テイマーとの認識が違っています。
その認識の違いから戦い方に大きな違いが出ていますね。
次の話から勇者が出てきます。
そろそろあるツッコミが来そうなのですが・・・ジャンル自体は間違ってはいません。
“「異世界」で「現実世界」の恋愛観を持ってくるのは正しいのか?”がテーマですので。
異世界恋愛ものでその辺はすんなり受け入れられている感があるのですが・・・
異世界でその世界では規格外の力を持ち込むのを良くないとするなら、考え方や価値観の持ち込みもまた良くないのでは?とまぁ思う次第です。