23、親子の絆は吹雪の様に (1)
私達は目的地になるジェームス卿の屋敷に着いた。
「・・・まさかここに来るとは思わなかったね。」
アルマにはカッコつけて「話を付けてくる。」なんて言ったけど、父から接触してくるなんて夢にも思わなかった・・・
一体何の用件なのか、事前に取り付けた王様への謁見の理由も含めて確認したい事はある。
玄関にある呼び鈴を鳴らすとブラウン髪のメイドが出てきた。
「え、アルマ!?」
短い髪や外ハネしたクセ毛がなければ本当にアルマにそっくりだった。
「ジェシカお嬢様ですね。」
「え、どうして私の名前を??」
「ジェシカお嬢様の事は姉のアルマから聞き及んでいますよ。申し遅れました、私はナルといいます。」
ナルはニコッと笑うと私達を応接室に案内した。
「旦那様は只今外出されておりますので、こちらでお待ちください。」
「ありがとう。ナルさん。」
「ジェシカお嬢様、私も姉同様にナルとお呼びください。」
「じゃあ、よろしくね。ナル。」
「はい。」
私が応接室で待っていると、ドアが開き一人の青年が入ってきた。
なんか凄く怒っているみたいで、私に詰め寄ってくる。
「あんたがジェシカか?」
「そうですが、あなたは誰ですか?」
「俺はここの“元”次期当主だったポールだ。俺はあんたを認めないっ!!」
「ポール様、お止め下さい!」
「黙れ、ナル。ジェシカ、あんたが勇者だろうが関係ない!剣を取れ!!」
いきなり私に喧嘩腰なポールはナルの制止をはねのけて
2本持っていたレイピアの1本を私に投げつける。
「ユキとシノブは手出し無用だよ。」
流石にテイムコネクトはやり過ぎと判断したのと・・・
「理由は分からないけど、売られた喧嘩は買うよ。」
それに、喧嘩を売られたのはあくまで私だ。
ポールに連れられ、屋敷の外に出た。
剣を構え、決闘が始まる。
ポールは私に突きをするが・・・
遅い・・・
突きを回避して、ポールのレイピアを絡めとり空にはね上げた。
跳ね上げたレイピアは宙に舞い、刃から地面に刺さる。
そのままポールの喉元に刃を向け降参する様に仕向ける。
「勝負あったね。」
「くっ!!」
決闘は私が勝ったので、さっそく勝利者の権利を使わせてもらった。
「うーん、良く分からないまま喧嘩売られたんだけど、説明して貰っていいかな。」
私がポールに説明を求めると、ポールは地面を叩きながら
「ジェシカ、お前が次期当主になるんだ!!」
はい?全く意味が分からなかった。
何故なら・・・
「いや、貴族の継承権って男子優先だよね?なんで私なの??」
「それは、私から説明しよう。」
聞き覚えのある声に私が振り向くと、母の墓の前で会った人だった・・・
「はじめましてと言うべきだろうね。ジェシカ。」
「・・・。」
応接室で父になるジェームスと対面する。
こんな優しそうな人が・・・私は話を聞く事にした。
「ポールが無礼な事をしたが、ジェシカにはこの家を継いでより大きくしてほしい。冒険者としての活躍はもちろん勇者としても活躍しているのは聞いている。」
「・・・。」
活躍とは言うけど、冒険者として働いていたのは生きる為。
勇者として活躍できたのは仲間との共闘あっての事だ。
「優秀な女性はもっと人の繁栄に貢献すべきだ。ジェシカ、お前にはこの家の繁栄の為にもこの家を継ぐのだ。そして相手は私が相応しい相手を選んでやろう。」
「・・・。」
なんでこんな事を言うのだろうか
私はすぐにでも席を立ちたかった。
だけど・・・
それでも、父に聞いておきたい事があった。
母が父を思っていた様に父は母の事を思っていたのか・・・
「お父さん・・・お母さんになんか言う事はない?」
「ライザも優秀な剣士だった。母に習いお前も女として生まれた事を考えるんだ。」
・・・カチン
「お父さんはお母さんの事を愛していなかったんだね・・・。私をここに呼び出しておいて、家を継げだの、家の繁栄の為に生きろだのそんな事しか言えないのっ!!そもそも、お母さんと私を捨てた理由が跡継ぎになる男子を産めなかったという事なのに・・・。」
「だから、お前には・・・。」
「おとう・・・いえ、ジェームス卿。私にはこの家を継ぐ意思はありません。もう二度と関わらないで下さい。・・・さようなら。」
私はそう言って、屋敷を出る。
母はどうしてこの人を愛したのだろう・・・分からない。
「涙・・・出てたんだ・・・。」
玄関を出て外の空気に触れた時に気づいた。
私は誰に涙を流したのだろう・・・私なのか、母なのか・・・それとも・・・
「ジェシカお嬢様!!」
「ナル、ごめんね。やっぱり私には無理みたい。あなたは何も悪くないし、アルマともいつも通りだから安心してね。」
平民街に向けて足を進めると、ナルに止められる。
私はナルに笑顔を返して思った・・・もう、家に帰ろう。
南門周辺は何やら騒がしかった。
「ユキ、何か騒がしくない?」
「そうだね。」
定期便は臨時急便で止まってしまっていた。
「定期便止まっているね・・・。」
「よぉ、ジェシカ。お前も呼ばれたのか?」
聞き覚えのある声に振り向くと、ジンだった。
「ジン、何の事?」
「偶然かぁ、こりゃあ運命だな・・・って無視をするなよ。」
話が逸れそうだったので発着場から移動しようとすると、ジンに呼び止められる。
「・・・でこの騒ぎの説明はしてくれるよね?」
「分かったよ。なんでも北の門周辺の森でモンスターが騒がしいみたいでな。今は様子を見ている状態だが、念の為に俺たちが呼ばれたという訳だ。」
「じゃあ、私も手伝うよ。守りたい人もいるし、ここにはお母さんのお墓があるから。」
「おっ、そいつは良い事聞いたな。仕事終わったら一緒に挨拶行こうぜ。」
・・・また口が滑ったなぁと思いながらも、私たちはジンたちと協力してモンスターの迎撃を引き受ける事にした。
(続く)
最後まで見ていただきありがとうございます。
ジェシカとジェームス卿との父娘の会話。
前世の記憶の影響で現代日本の一般人夫婦?の価値観を持っているジェシカとこの世界での価値観の中で何かをしようとしているジェームス卿。
そのズレが確執の原因で最初の会話は成立すらしていません。
設定補足:ジェシカの前世の両親
父は会社員、母は専業主婦で夫婦仲は良好。娘(ジェシカの前世)に対しても夫婦できちんと子育てしている超優良夫婦。二人の馴れ初めが恋愛結婚という事もあって、そんな両親に憧れがあったという経緯があります。(この部分の話については外伝扱いで描写出来れば・・・とは思ってます。)
とまぁ、そんな過去の記憶をユキと出会った時に見ているので、余計にめんどくさい状況になっています。