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異世界でも恋愛は出来ますか?  作者: 香坂 悟
雪の章
21/309

21、追憶は凍土の下に

朝、私は気まぐれに庭に出ると、アルマが玄関で呆然と立ち尽くしていた。


「ん?どうしたのアルマ手紙を持ったままで・・・」

「ジェシカ様、これは・・・。」


!!


私は手紙の差出人を見て驚いた。それは北にある王都のとある貴族からの手紙


「アルマには敵わないな。知っていたんだね。」

「すみません・・・。」

「私に伝えなくても、色々な所に迷惑がかかるから悩んでいたんだよね。大丈夫だよ、ちょっと話を付けてくるから。」

「はい、お気をつけ下さい・・・。」


私が話をつけないといけないから、王都へ向かう。

王都は街から北、古代遺跡からは北北西に位置する都市。


もちろん、定期便があるのでのんびりと揺られる事にします。



「王都かぁ・・・久しぶりだね。」


ユキの何気ない台詞に私は気楽に答えられなかった。


「・・・。」

「ジェシカ?どうしたの??」

「・・・ううん、なんでもない。」


隣で私を心配そうに見つめるシノブに、私は何でもないそぶりをする。

・・・シノブには話していなかったなぁ。

今のうちに話しておくべきかもしれない。


「シノブには話してなかったね。私とユキは王都から来たんだ・・・。」



王都は街と比べて寒い所でよく雪が降る・・・



王都での思い出は辛いものしかない。

母は長い銀髪で普段は落ち着いた雰囲気の女性だが

かつては王国の騎士団長に並ぶほどの実力があったらしい。

そんな母に貴族の父が必死にアプローチをしたという馴れ初めがあった事をよく話してしていた。


正直に言うと私は・・・

母は大好きだったけど、嬉しそうに話す父の話は大嫌いだった。


母はよく語っていたけど、私が生まれてから父には一度も会った事はない。

一部の王都の人たちからは「捨てられた女の子供」などと言われ続けた。


後で知ったのは、母は父の何番目かの妻で、子供を身籠り・・・

産まれたのが私だった事で平民街に流されたという事。

跡取りの男子が産めなかった事に対しての措置らしい。


それでも母が近くにいればそんな事は本当に些細だった。

ユキに出会うまでは・・・



私は母と一緒に森に行った、その日の食料採取に。

そこで一匹の白い生き物に出会った。


「あ、何かいるっ!!」

「あ、ジェシカ待ちなさいっ!」


私は白い生き物を追い森の中へ。


気付けば、母とはぐれていて寂しさで泣いていた。

そこに近寄ってくる白い生き物。


「僕を食べようとは思わないでね・・・ジェシカ。」

「え・・・。」


私の名前をどうして知っているのだろう?というのが気になった。


「そっか、忘れているんだね。」

「待って。」


一言残し去ろうとする白い生き物に私は声を上げる。

そして私は白い生き物を抱き上げてその青い瞳を見つめた。

すると、色々な事が流れ込んできた・・・

この子は神様が私のパートナーとしてこの世界に送った事。

前世の私は交通事故で死んだ事。

そして・・・前世の父と母に大事に育てられた事を・・・


「思い出した・・・私、異世界転生していたんだ・・・。」


涙が止まらなかった。

自分の事もよりも母に対する思いが強かった。

母が父を愛しているのは分かるのに、父は・・・

こんな世界観で幸せになれない母を思うととてもやるせない気持ちになる。


「・・・思い出したんだ。」

「ねえ。君は・・・」

「僕に名前はないよ。只のウサギさ。」

「じゃあ・・・」


その日も雪が降っていた。

青い瞳と真っ白な毛並み、まるで・・・


「・・・ユキ。」

「うん、君が望むなら。」


こうして、私はユキと一緒にいる様になった。

ユキの道案内もあって、無事に母と合流。


「ジェシカ、今日はお手柄ね。ウサギ肉は滋養に良いのよ。」

「お母さん、この子は違うの。」

「・・・何か理由があるのね。良いわよ。」


ユキを食べようとする母を止めて、一緒に暮らした。

ユキは私と二人きりの時以外は黙っていた、ユキ以外のウサギを見た事がなかったのでこの世界の普通のウサギが喋らない事は最近まで知らなかった。


母とユキ、そして私との暮らしは楽しかった。

母もユキといる事で癒されているのは何となく分かっていたし、このまま一緒に。


・・・だけど、数年後に流行病が発生して母がかかってしまった。

私は奇跡的に何ともなかった。


その年の流行病は酷かったらしく、王都でもそれなりの死者は出たそうだ。

流行病は薬があればなんとかなるものだったが、お金が結構かかるものだった。


「僕を貴族の所に売れば相当なお金になる。」


ユキがそう言ったので、私は母にその話をすると・・・

寝たきりなっていた母は私の頭を撫でながら


「私たちは家族だもの。ユキを売って私とジェシカが幸せになってもジェシカはユキを売った事をきっと後悔する。」


と言って、私がユキを売ろうとするのを止めた。

母にとってもユキは家族で大切な存在になっていたんだと知った。

私は母の言葉を守り、ユキと一緒に出来る事をやった。


前世の知識で生活に役に立つこともあって、少しお金を稼ぐ事も出来た。

森で売り物になりそうなものを拾って、それをお金に変えて・・・


なんとか薬を手に入れた。


これで母が助かる・・・

家についた私は薬をあげようとすると、母は私を制止した。


「ごめんね、ジェシカ・・・あなたを幸せにしてあげられなくて・・・」

「そんな事ないよ。ユキと一緒で楽しかったよ・・・。」


もう、長くはなかったのだ・・・


「ユキもありがとうね・・・ジェシカを・・・お願い・・・ね。」


これが母の最期の言葉だった。

母は笑顔で私とユキの頭を撫でた後、その手は力尽きてしまう・・・


私は泣いて・・・


母が埋葬された時も父は来なかった。

あんなに母が父を愛していたというのにこの仕打ち・・・

こんな王都には居たくない。


私は薬を売って、そのお金で王都を出た。


それからは街で冒険者になって、今に至る・・・



「・・・また王都に戻る日が来るとは思わなかったけどね。」


私は揺れる定期便から空を眺めていた。


「ジェシカ・・・。」


シノブが心配そうに見つめているけど、私はシノブの頭を撫でて


「確かに悲しい事だったけど、否定もしたらいけないのだと思う。ユキやシノブとこうしているのもまた事実なんだから。」

「うん。」


・・・手紙の差出人が父というのは気になるけど、私たちは王都を目指した。


(続く)

最後まで見ていただきありがとうございます。

ジェシカの過去話になります。

次回から王都編になります。


設定補足:王都

王城を中心に貴族街、平民街、外壁と囲む形になっており、王都周辺は低い木の森で囲まれている。

気温は街よりも低く、よく雪が降っている。

生活のしやすさという点では街の方が良い。

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