2、空はとても澄み切っているのに
窓から差し込む光で私は目を覚ます。
「う~ん、良く寝た♪」
お約束の言葉を言いながら、体を伸ばした。
うん、とても気持ちのいい朝だ。隣ではユキが丸まって眠っている。
私はいつもの衣裳に着替えて、ドレッサーの前で銀色の長い髪を後ろで三つ編みにする。
前世は綺麗な長い黒髪だったけど、今の銀色の髪の毛も気に入っている。
冒険者として働いているから、あんまりオシャレには気が回せないけどね。
準備が終わった頃にはユキも目を覚ましていた。
「おはよう、ジェシカ。」
「おはよう、ユキ。今日もよろしくね。」
部屋を出る時に掛けてあったベレー帽を回収していつもの支度が完成する。
宿屋は一番下の階が食堂につながっており、宿屋の利用者はそこで朝食と昼の調達が出来る様になっている。
軽めの朝食をとってから、昼用のパンを貰いギルドに向かう。
ギルドは各町にある施設で、冒険者登録をしていると色々なクエストを受注出来る。
受付の人に冒険者登録証を見せて依頼されているクエストを確認する。
「ジェシカさん、こんにちは。今は東の森のスライムが大量発生していて討伐クエストは沢山稼げますよ。」
今日は受付の人から討伐クエストを勧められる。
「討伐任務かぁ・・・ユキ、今日は何にしようか。」
「いつも通り調査クエストで良いんじゃないかな。」
ユキに尋ねてから、いつもの調査クエストを受注した。
クエストは大まかに討伐・調査・採取の3つの物があり、私達が得意とするのは調査クエストになる。
「これが調査リストですよ。」
受付から調査リストを受け取り、スライムの調査リストを選んだ。
調査内容は東の森で大量発生したスライムの調査。
既存のスライムとの違いなどを報告する事でクエストは完了する。
東の森は街から東に広がった森林地帯。
モンスターの強さは、はっきり言って強くはない。
東の森ー
「うわぁ・・・たくさんいるね、ユキ。」
「これは調査に骨が折れそうだね。」
低めの木々に囲まれていて、そこから覗く青空はとても澄んでいて・・・
森は粘液だらけだった・・・
「うわぁ・・・なんか嫌だなぁ・・・さっさと済ませようか。ユキ、準備いい?」
「いいよ。」
私はユキとの一体化を念じ魔法を唱える。
「感覚共有!」
私とユキは一体化して
ベレー帽に白いウサ耳と臀部に白いウサギの尻尾が生える。
私のテイマーとして能力の一つ。
契約した動物との能力の共有。ユキから共有できる能力は・・・
「感覚性能上昇」
周辺のスライムを瞬時に感知。そして・・・
「速記」
手元のスライムの生態資料と照らし合わせて、変化箇所を素早くまとめ上げる。
「よし、このくらいで良いかな。」
報告書類を作成して、今日の仕事はこれでおしまい。
荷物をまとめて帰ろうとしていると・・・
「!!・・・ユキ、声がしない?」
「(そうだね。行ってみる?)」
テイムコネクト中はユキからの声は頭に響いてくる。
「行ってみよう。」
音の先には冒険者がいる。
討伐クエストを勧められた新米冒険者かな?
スライムに囲まれて困っている様だった。
「(どうしようか)」
ユキの声に
「もちろん、助けに行くよ。」
・・・と言っても、手元に武器は無いので
私は体勢を低くして、スライムに突っ込んだ。
「『加速強化』からのエネミーステップっ!!」
スライムを踏みつけて、コアに向かって踏み抜く。
スライムは物理ダメージが通りにくいけど、コアには物理ダメージが通るので
安全ブーツでコアを踏み抜き、周辺のスライムを討伐していく・・・
討伐した時には体中粘液まみれで・・・
「うわぁ・・・粘液でべとべとだよ・・・お風呂入りたいな。」
テイムコネクトを解除して、軽く粘液を落としてから
腰を抜かしていた新米冒険者に手を差し出す。
「えっと、大丈夫?」
冒険者は私の手を掴んで立ち上がり、軽く埃をはらった。
「あ、ありがとうございます。僕はルークと言います。良かったらあなたの名前を教えていただけませんか?」
名前を聞かれたので、私は素直に答えた。
「私はジェシカ。今日は調査クエストでここに来たの。」
「調査クエスト?え、そんなに強いのにですか??」
ルークは調査クエストに来ていた私に驚いていた。
「あの、ジェシカさん。街まで一緒に行きませんか?お礼にご飯を奢らせてください。」
え・・・これってまさか・・・
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします・・・」
上手く話せないほど、自分でも胸の高まりが止まらないのが分かる。
街についた。
話を聞くと、私の使っている宿に近い宿を使っているらしいので
とりあえず粘液まみれの服を何とかしてから落ち合う事にした。
「お、お待たせしました。ルークさん。」
待ち合わせ場所についた私が声をかけると
「綺麗ですね、ジェシカさん・・・。」
ルークの表情が緩くなっているのが分かる。
これは恋愛期待しても良いですよね?
「あ、ありがとう。」
ご飯(緊張で味が分からなかったので割愛)を奢ってもらい、別れの時・・・
ルークから声がかかる。
「ジェシカさん、僕の初めての奥さんになってもらえませんか?」
おぉっ!これは・・・
私はいよいよ恋愛が出来ると期待しました。
そして、ルークの言葉は続きました。
「僕は奥さん達を幸せにするために努力しますのでお願いしますっ!!」
・・・ルーク、お前もか。
「ごめんなさい。」
私は速攻でお断りしました。
あぁ、空はとても澄み切っているのに私の心はなんでこんなに暗いのだろう・・・
(続く)
最後まで見ていただきありがとうございます。
ジェシカが任務後に同行する男性からプロポーズされる理由・・・お約束のチート持ちです(笑)
※作品タグ内で「勇者」が入っていますが、数話後に登場する予定ですのでご了承ください。